発電コストと原発の経済性

2012年01月09日 00:00

【要旨】各発電方式での発電コストと、原発の経済性について最新の研究のレビューを行った。コストを考えると、各方式では、固定費、変動費に一長一短ある。特に原発では、初期投資の巨額さと、社会的コストの大きさゆえに先進国での建設は難しいことから、小型モジュール炉への関心が高まっている。

発電コストの単位

通常、発電にかかるコストは、発電単価すなわち「1kWh(キロワットアワー)の電気を発電するためにいくらの費用がかかるか」で表されることが多い。すなわち単位は円/kWhやセント/kWhとなる。

しかしここで注意しなければならないのは、生産コストを「固定費」(産出量に関わらず一定にかかる費用)と「変動費」(産出量に比例してかかる費用)に分けたとき、円/kWhは「変動費率」に相当するが、一部の発電方式の発電費用には固定費が多く含まれることである。もっとも分かりやすいのは水力発電で、水力発電は燃料を必要としないので、狭い意味では固定費のみで変動費はない(広い意味では大規模プラントほど建設コストが高いので変動費に相当する部分もある)。

原子力発電はウラン燃料を「燃やして」発電するが、燃料費の割合は小さく、費用の大部分が固定費と言われている。このように固定費の割合が大きい場合、円/kWhで表される発電コストは、そのプラントの稼働率に大きく左右される。

どのような「アクション」のためのコスト評価か?

例えば新規電源開発というアクションなら、水力は日本ではこれ以上作れる余地はなく、比較対象としても無意味である。 「需要側からみた電源別の負担額を評価する」ということのようだが、それはどのようなアクションに反映されるのか? 今ある原子力の運転を止めても費用はほとんど減らず、むしろ代替火力の燃料費が大幅に増加する。そして費用を評価するのに2つの考え方がある。

(1)ライフサイクル発電コスト(OECD/NEA方式)
発電プラントは「建設」「運転」「廃止措置」というライフサイクルをたどる。それぞれの段階で費用がかかるが、収入があるのは運転時だけである。そこで、このライフサイクル全体の費用と収入を考えて、運転時に発電された電気をいくらで売ったら収支が釣り合うか、その円/kWhの値が「ライフサイクル発電コスト」であると考えると分かりやすい。このコスト評価は当然のことながら、お金の時間価値(今受け取る現金1万円は、それを銀行に預けたり債券に投資したりすれば収益が得られるので、10年後に受け取る1万円よりも価値が高い)を考慮することになる。すなわち、「割引率」(通常は資金調達にかかる資本コスト)をいくらに設定するかにも依存する。また、将来の収入は割り引かれるので、同じ総収入額なら回収期間が長いほど不利になる。

経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)では上記の方法による電源別の発電コスト比較のレポートを発行しており、数年周期で改訂版を出している。最新のレポートは2010年版[1]である。このコスト比較の主たる目的は新規電源の開発である。そのため、日本など多くの先進国ではもう開発の余地が無い水力発電は調査から除外されている。

[1]における日本でのコスト推計値は以下の通り(A)である。前提条件などの違いから直接比較はできないが、参考までに、福島事故後の政府の「コスト等検証委員会」が算出した数値(B)を併記した。

原子力  (A) 4.3円/kWh (60年稼働 稼働率85% 割引率5%) (B) 8.9円/kWh
石炭火力 (A) 7.6円/kWh (40年稼働 稼働率85% 割引率5%) (B) 9.5円/kWh
LNG火力 (A) 9.0円/kWh (30年稼働 稼働率85% 割引率5%) (B) 10.6円/kWh

特に原子力で両者の差が大きいが、これは稼働率の違い、福島のような大事故対応に関する前提の違いに起因すると考えられる。

(2)財務諸表を用いた発電コスト評価
株式が公開されている企業であれば、その財務諸表(貸借対照表、損益計算書等)は公開されている。日本の電力会社の場合、公開の財務諸表の中には「電気事業費用明細書」があり、給与手当・修繕費・一般管理費・減価償却費などの費用が記載されている。

そこで、この「電気事業費用明細書」を用いて電源別にプラントの一定期間費用を推計し、それを同じ期間の発電量で割った値を比較する方法である。ただしこの場合、資本費は「減価償却費」という形で算入される。日本は定率償却なので、プラントの運転開始直後は、減価償却費は高いが、年とともに低減する。そのため、電源別にコスト比較する場合、プラントの経過年数が比較するに妥当かどうかを確かめることが必要である。

福島事故以前より、この方式のコスト評価を行った代表的な研究が、大島[2][3]である。[3]によれば、発電事業に直接要するコストは1970-2010年度の41年間で、以下(A)の通りであったという。さらに電源三法交付金などの「政策コスト」を考慮するとコスト(B)になるという。

原子力 (A) 8.53円/kWh  (B) 10.25円/kWh
火力 (A) 9.87円/kWh  (B) 9.91円/kWh
水力 (A) 7.09円/kWh  (B) 7.19円/kWh

ただし、この結果が「脱原発政策が最もよい」ことの根拠として本当に適切かどうかはさらに議論を要する。

この大島論文に関しては、以下のような批判がある。原子力のコストに揚水発電を含めている。このように計算した理由は、原子力では出力調整ができずピーク時の出力調整のために揚水発電とセットで考えるべきということであるが、これは適切とは言い難い。原子力は出力調整が可能で、現にフランスでは行なっている。日本で実施していないのは発電所地元の反対があったことと経済効率が悪くなることである。また、揚水発電は系統全体のピーク時の負荷調整に用いられるので、原子力のみに帰属させるのは適切ではない。

原子力発電の経済性に関する海外の研究

原子力発電の経済性に関しては、正確な公開データが少ないせいか、福島事故以前にはあまりアカデミック研究は活発には行われていなかった。

米国ではスリーマイル島事故後に、20年以上原発新設がなかったが、2005年のエネルギー政策法により、連邦政府による融資保証を受ける道が開けた。原発は更地から建設する場合低く見積もっても1基3000億円(約37億5000万ドル)という巨額な費用がかかり、その回収は30年以上の長期にわたるため、リスクが高いとして金融機関が融資をせず、資金調達が非常に困難だった。そこで原子力の新設を可能にするため、連邦政府では融資保証の可能性を提供し、一部の州政府では建設費用を電気料金に上乗せすることを認めている。

スタンフォード大学のGeoffrey Rothwell教授は、電力経済分野の教科書ともいえる[4]を著している。Rothwell教授の最近の著作としては[5]の第7章"The Role of Nuclear Power in Climate Change Mitigation"がある。この著の中では、「原子力は建設コストが非常に高いので、米国や欧州では政府の補助があっても多くの新設は期待できない。世界的には原子力の新設は中国など新興国が中心となるが、温室効果ガス排出を抑制できるほど多くの新設は望めない」としている。福島事故後には青木昌彦教授と共著で[6]を発表している。

米国バーモント・ロースクールのシニアフェローであるMark Cooper氏は、2009年6月に原子力新設コストに関する論文[7]を発表し、「米国における原子力の新設費用は原子力ルネサンスが言われだしたころの見積もりよりもはるかに高くなる。米国政府の新規原発建設への支援は納税者および電気料金支払者に不当な負担を強いるものだ」と論じている。尚、同氏は福島事故後には[8]にて米国の原発を所有する事業者の有限責任を認めたPrice-Anderson法を厳しく批判している。

英国University of GreenwichのStephen Thomas教授は、2010年3月に[9](同名論文の改訂版)を発表した。結論として、「原子力発電プラントは政府による大掛かりな保証あるいは補助金がある所でのみ新設されうる」としている。また、福島事故後には共著でレポート[10] を発表している。しかしこれは発表されたのが2011年4月で、福島事故後の状況を的確に捉えているとはいえない面もある。

2011年12月に、米国シカゴ大学のEnergy Policy Instituteより2つのレポートが発表された。[11]は同大学より2004年に発表された原子力発電の経済性に関する包括レポートのアップデート版ともいえるもので、米国における原発新増設の費用を再評価し、上昇した要因について議論している。[12]は、米国において小型モジュール炉をいかにビジネスに乗せるかについて検討している。

参考文献:
[1] Nuclear Energy Agency: Projected Costs of Generating Electricity 2010 Edition, OECD Publications, 2010
[2] 大島堅一: 有価証券報告書総覧に基づく発電単価の推計, 高崎経済大学論集、第43巻第1
号、 2000年
[3] 大島堅一: 原発のコスト、岩波新書、 2011年
[4] Geoffrey Rothwell and Tomas Gomez (ed.): Electricity Economics, Wiley, 2003
[5] Fereidoon P. Sioshansi (ed.): Generating Electricity in a Carbon-Constrained World, Academic Press, 2010
[6] Masahiko Aoki and Geoffrey Rothwell: Organizations under Large Uncertainty: An Analysis of the Fukushima Catastrophe, Stanford Institute for Economic Policy Research Discussion Paper No.11-001, 2011
[7] Mark Cooper: The Economics of Nuclear Reactors : Renaissance or Relapse?, 2009
[8] Mark Cooper:The market-based, post-Fukushima case for ending Price-Anderson, 2011
[9] Stephen Thomas: The Economics of Nuclear Power: An Update, 2010
[10] Mycle Schneider, Antony Froggatt, Steve Thomas: The World Nuclear Industry Status Report 2010-2011, Nuclear Power in a Post-Fukushima World, 25 Years after the Chernobyl Accident
[11] Robert Rosner, Stephen Goldberg et. al.: Analysis of GW-Scale Overnight Capital Costs, Energy Policy Institute at the University of Chicago, 2011
[12] Robert Rosner, Stephen Goldberg: Small Modular Reactors – Key to Future Nuclear Power Generation in the U.S., Energy Policy Institute at the University of Chicago, 2011

This page as PDF

関連記事

  • 四国電力の伊方原発2号機の廃炉が決まった。これは民主党政権の決めた「運転開始40年で廃炉にする」という(科学的根拠のない)ルールによるもので、新規制基準の施行後すでに6基の廃炉が決まった。残る原発は42基だが、今後10年
  • 1997年に開催された国連気候変動枠組み条約第3回締約国会議(COP3)で採択された京都議定書は、我が国の誇る古都の名前を冠していることもあり、強い思い入れを持っている方もいるだろう。先進国に拘束力ある排出削減義務を負わせた仕組みは、温暖化対策の第一歩としては非常に大きな意義があったと言える。しかし、採択から15年が経って世界経済の牽引役は先進国から新興国に代わり、国際政治の構造も様変わりした。今後世界全体での温室効果ガス排出削減はどのような枠組を志向していくべきなのか。京都議定書第1約束期間を振り返りつつ、今後の展望を考える。
  • 言論アリーナ「電気自動車は革命か 」を公開しました。 ほかの番組はこちらから。 テスラの「モデル3」が爆発的に売れ、世界的に電気自動車が注目されています。それはガソリン車に取って代わるのでしょうか。 出演 山本隆三(常葉
  • 経済産業省は1月15日、東京電力の新しい総合特別事業計画(再建計画)を認定した。その概要は下の資料〔=新・総合特別事業計画 における取り組み〕の通りである。
  • ウィルファ原発(既存の原子炉、Wikipedia)
    はじめに 日立の英国原発凍結問題を機に原子力発電所の輸出問題が話題になることが多いので原発輸出問題を論考した。 原発輸出の歴史 原子力発電所の輸出国は図1の通りである。最初は英国のガス炉(GCR)が日本、イタリアに導入さ
  • アゴラ研究所の運営するネット放送「言論アリーナ」を公開しました。 今回のテーマは「エネルギー産業のイノベーション」です。 再エネや電気自動車などの分散型技術が急速に進歩する中、未来のエネルギー産業はどうなるのでしょうか
  • 石炭が重要なエネルギー源として、再び国際的に注目されている。火力発電に使った場合に他のエネルギー源と比べたコストが安いためだ。一方で石炭は、天然ガスなどよりも燃焼時に地球温暖化の一因とされる二酸化炭素(CO2)の発生量が多い。
  • 米国が最近のシェールガス、シェールオイルの生産ブームによって将来エネルギー(石油・ガス)の輸入国でなくなり、これまで国の目標であるエネルギー独立(Energy Independence)が達成できるという報道がなされ、多くの人々がそれを信じている。本当に生産は増え続けるのであろうか?

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑