ニコ生アゴラ「「汚染がれき」を受け入れろ!― 放射能に怯える政治とメディア」報告 ?「国の遅い行動が被災地を苦しめる」

2012年04月11日 03:00

被災地の今の課題「がれき・除染」をテーマに討論


ニコ生アゴラの生放送の状況

GEPRを運営するアゴラ研究所は「ニコ生アゴラ」という番組をウェブテレビの「ニコニコ生放送」で月に1回提供している。4月10日の放送は「汚染がれきを受け入れろ!−放射能に怯える政治とメディア」だった。村井嘉浩宮城県知事(映像出演)、片山さつき自民党参議院議員、澤昭裕国際環境経済研究所長、高妻孝光茨城大学教授が出演し、司会はアゴラ研究所の池田信夫所長が務めた。

議論のテーマは、被災地復興の大きな足かせとなっている、がれきの受け入れと処理。そして福島原発事故で広がった放射性物質の除染だ。その現状を、現地で対策に奮闘する村井知事、自民党のがれき問題プロジェクトチームの片山さつき氏に語ってもらった。宮城県庁に勤務経験のある元経産省の行政官の澤氏、さらに福島原発事故後に、各地で放射線計測と対策策定の支援と講演活動を続ける高妻氏が参加した。

議論で浮き彫りになったのは、「国の動きの遅さ」。そして人々が理性では「健康被害の可能性は少ない」と分かっていても、感情的な不安、恐怖をなかなか消すことの出来ない、この問題の根深さだった。

「私たちはお願いする立場。協力いただく皆様に感謝」村井知事


村井嘉浩宮城県知事

まず村井知事が宮城県におけるがれきの現状を説明した。宮城県は原則として県主導で処理し、どうしてもできない量を県外に処理を依頼することにしているという。

宮城県のがれきの推計値は1800万トン。当初はそのうち350万トンを県外で処理を要請する予定だった。5月の連休明けに処理計画の詳細がまとまる見込みだが、この県外での処理推計量は減る可能性があるという。

宮城県は県を5ブロックに分けたが、そのうち石巻地区に全がれきの半分が集中。現在がれき処理プラント22基を建設しており一部が稼動。これを30基前後に増やす予定だ。一度プラントの処理で動き出せば、加速度的に処理が進むという。ただし2年で処理を完了するという目標のためには、「県外に処理をお願いせざるを得ない状況」(村井知事)という。

「プラントは稼動しており、がれきの処理による放射線量の上昇、また他の汚染物質の拡散は観察されていない」(村井知事)そうだ。

村井知事は「がれき処理の主体は誰がするのか。その点は昨年、早めに決定いただきたいと、政府に何度も申し上げた。ただし、それがなかなか決まらなかった」と指摘した。宮城県は県主導で処理を進めたが、岩手県はプランと建設ではなく、県外での処理を重視した。

また各自治体でがれき受け入れで両論があることについては、「私たちはお願いをする立場であって、それぞれの自治体の決断に何も言う立場にない。しかし、受け入れに協力いただいた皆様に対しては感謝を伝えたいと思います。ありがとうございました」と、画面を通じて伝えた。

「国の遅れ、権限の不明確化など、対応に問題が多い」片山議員


片山さつき自民党参議院議員

片山議員は民主党政権の対応の遅れを指摘。「頭でっかちのプランをつくり遅れた。さらに住民合意という取り組みをまず行わなかった」と批判した。政府はまず、大規模処理を行うゼネコンなどのプラント建設の相談に動き、被災県以外の自治体の説明は今年に入って行った。

各地域で、受け入れの対応は異なるが「まず住民同意の形成に取り組まなかったことが失敗だった。これは民主党政権の判断ミスだ。『聞いていないのになぜ進めるのか』という最初の問題が、問題を長引かせてしまった」と批判した。さらに制度、権限委譲が明確ではなく、災害廃棄物が福島の特例が宮城県など他の被災地で使えないなど、行政の対応の問題がかなりあったと指摘した。

池田氏が「反対運動も影響したが、事務処理の遅れがこれほど長引いた理由ではないか。また最近になって細野環境大臣が陣頭指揮をしているが、政治が責任を引き受けなかった面があると思う」と指摘すると、片山議員は「その通り」としていた。

片山氏によれば、自民党の支援、またプランの練り直しの協力でがれき処理は岩手、宮城県内で進むが、他地域での処理は「説得を続けなければならない状況になっている」という。片山氏は原則としてがれきは現地で処理するべきだが、あまりにも大量なのである程度の被災地の域外処理が必要という立場だ。

「がれきの処分は復興の大前提になる」澤氏


澤昭裕国際環境経済研究所長

「津波の惨状を考えると、インフラをすべて取り替えるまでのことをしなければならない。そのためにはがれきを取り除かなければならない。それが復興の大前提になる」と澤氏は指摘した。村井知事はそれに同意した上で、「がれきに加えて、除染が今後大きな問題になる」と指摘した。

原発事故による放射性物質の拡散は、宮城県は福島県ほどではない。しかし表土を取り除くなどの除染を行い、農作物に放射能の悪影響がない形での農業の再生を行う予定だ。

しかし、その除去した表土の処理方法などが決まらない。これは国が放射性物質の処分方法を決められないためで、「県だけが進めることはできない」という。村井知事は「一刻もはやく福島原発事故の除染方法、特に処分地を決めてほしい」と、国に要望を続けるという。

高妻氏は、昨年秋に宮城県の農家で、原発事故直後に屋外にあって放射性物質が微量であるものの降り注いだ稲わらが、市町村が何も決められないので放置されていた状況を指摘した。村田知事は、「稲わらがそのような状況になっているのは承知している。ただし、国の指針が決まらず、県としても一カ所に集めるなどの要請しかできない」と説明。除染の問題が進んでいないことを認めた。

澤氏が経済的な復興について質問したところ、村井知事は食品の安全基準値の問題を取り上げた。今年4月から食品の安全基準値が1キログラム当たり500ベクレルから100ベクレルに強化された。これによって宮城県では特に漁業で、漁に出ても基準値を上回るため、せっかく取った魚を捨てなければならない例が出ている。「経済に影響が出て、漁師さんも困惑している。もう少し慎重な検討をしてほしかった」という。

「丁寧なリスクコミュニケーションの機会が少ない」高妻氏


高妻孝光茨城大学教授

議論はなぜ、がれき処理が遅れているかに移った。環境省の広域処理情報サイトによれば、がれきを焼却、埋め立て処分をしても、年間0.01ミリシーベルト以下にしかならない。出席者は、問題は感情的にとらえられてしまったと一致した。

「誰もが頭では健康被害の可能性が分かっていても、未知の放射能について不安が出ることは仕方がない」と村井知事は、受け止めていた。また片山議員は「時間が解決するだろう。しかし、情報を小出しに、しかも言わなかった政府の態度に問題がある」と指摘した。

高妻教授は「実験などをする必要があるものの、健康被害の可能性は少ないだろう」と分析した。ただし、どのようにがれき処理されるか、情報は公開されているものの、一般の人はなかなか全貌とリスクの程度を理解できる状況にはない。

高妻氏は被災地で放射線の計測と対策立案の支援、さらに講演活動をしている。そこでは、「安全だ」などと情報を一方向に伝えるのではなく、判断材料を提供して放射能の現状を共に考えることで、話を聞いた人たちの不安が消えていくという。「丁寧なリスクコミュニケーションの機会が少ない」と指摘した。

澤氏は行政官の立場から、基準値について話した。「ある基準値が妥当か、そうでないかは置いておいて、基準がなければ、行政は進まない。そして保守的な基準値にした方が、反対意見は少なく、行政がスムーズにいきやすい。行政は厳しめの数値を設定しがちなことは、気にとめた方がいい」と述べた。

池田氏はメディアの問題を指摘した。今だに雑誌メディア、ネットメディアを中心にデマが拡散。一方で新聞、NHKなどは、がれき処理で健康被害の可能性はないことを明確にすべきなのに、「必要な情報を伝えていない」と言う。

村井知事は、次のように話した。「不安の解消には時間がかかる。ただ、私は政府に科学的に被災地は安全だと、あらゆる機会をつかまえて言ってほしいと要請してきた。しかし、なかなか言ってくださらない。ぜひ、国、政治家の力で、安全性を強調してほしい。それが不安解消に役立つはずだ」。

「被災地の安全を体感して、考えてほしい」村井知事


「被災地のがれき、農作物に健康への悪影響がないことをご理解いただきたい」村井知事

最後に、知事、そして片山議員から、今必要なことへのコメントがあった。

片山議員は政権を批判した。「私たち自民党は復興支援を妨害することはなく、事態を動かそうとしている。がれき処理の問題の遅れは、住民の皆さんの反対というより、民主党政権の手順の失敗の面が大きい。例えば、国が決めるべきことを宮城県などにやらせるなど、おかしなことが多すぎた。こうしたことを正すことによって、復興の支援を続けたい」。

村井知事は語った。「残念ながら、宮城県への海外からの観光客は戻らず、また農作物の県外などでの販売も厳しい影響が出ている。私たちは宮城県で生活をし、がれき処理が近くで行われているが、健康の被害はない。この現実を知り、がれき処理や復興対策を考えていただければと思う」。

「チェルノブイリなどの核災害では、不安などの精神問題が心の問題につながり、住民の健康を損ねたそうだ。宮城県もできる限りの広報をしているが、それには国民の皆さま全体の理解も必要だ。被災地のがれき、農作物には健康への悪影響はないことをご理解いただきたい」。

「宮城県は市町村の足並みがそろい、復興が一段と進もうとしている。被災地から離れるほど、被災地の正確な情報が伝わらず、住民の皆様の判断などが影響を受けている。宮城県には全国の市町村から視察がきて、自分の体感の上で、行政担当者ががれき処理や復興支援を判断する動きが広がっている。国民の皆さまも、被災地の現実をぜひ知っていただきたい。そして、これまでの全国の皆様の支援に、改めて感謝を申し上げます」。村井知事はこのように結んだ。


同時視聴者は約2万人を数えた
This page as PDF

関連記事

  • ドイツの風力発電産業は苦境に立たされている(ドイツ語原文記事、英訳)。新しい風力発電は建設されず、古い風力発電は廃止されてゆく。風力発電業界は、新たな補助金や建設規制の緩和を求めている。 バイエルン州には新しい風車と最寄
  • 米国では発送電分離による電力自由化が進展している上に、スマートメーターやデマンドレスポンスの技術が普及するなどスマートグリッド化が進展しており、それに比べると日本の電力システムは立ち遅れている、あるいは日本では電力会社がガラバゴス的な電力システムを作りあげているなどの報道をよく耳にする。しかし米国内の事情通に聞くと、必ずしもそうではないようだ。実際のところはどうなのだろうか。今回は米国在住の若手電気系エンジニアからの報告を掲載する。
  • 九州電力の川内原発が7月、原子力規正委員会の新規制基準に適合することが示された。ところがその後の再稼働の道筋がはっきりしない。法律上決められていない「地元同意」がなぜか稼働の条件になっているが、その同意の状態がはっきりしないためだ。
  • 前回の上巻・歴史編の続き。脱炭素ブームの未来を、サブプライムローンの歴史と対比して予測してみよう。 なお、以下文中の青いボックス内記述がサブプライムローンの話、緑のボックス内記述が脱炭素の話になっている。 <下巻・未来編
  • 欧米エネルギー政策の大転換 ウクライナでの戦争は、自国の化石燃料産業を潰してきた先進国が招いたものだ。ロシアのガスへのEUの依存度があまりにも高くなったため、プーチンは「EUは本気で経済制裁は出来ない」と読んで戦端を開い
  • IPCCの第6次報告書(AR6)は「1.5℃上昇の危機」を強調した2018年の特別報告書に比べると、おさえたトーンになっているが、ひとつ気になったのは右の図の「2300年までの海面上昇」の予測である。 これによると何もし
  • 検証抜きの「仮定法」 ベストセラーになった斎藤幸平著『人新世の「資本論」』(以下、斎藤本)の特徴の一つに、随所に「仮定法」を連発する手法が指摘できる。私はこれを「勝手なイフ論」と命名した。 この場合、科学的な「仮説」と「
  • 現在経済産業省において「再生可能エネルギーの大量導入時代における政策課題に関する研究会」が設置され、再生可能エネルギー政策の大きな見直しの方向性が改めて議論されている。これまでも再三指摘してきたが、我が国においては201

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑