政府は違法な原発の運転妨害をやめよ

2012年05月28日 00:00
池田 信夫
アゴラ研究所所長

検査の終わった原発が停止しているのが違法状態

真夏の電力ピークが近づき、原発の再稼働問題が緊迫してきた。運転を決めてから実際に発電するまでに1ヶ月以上かかるため、今月いっぱいが野田首相の政治判断のタイムリミット・・・といった解説が多いが、これは間違いである。電気事業法では定期検査の結果、発電所が経産省令で定める技術基準に適合していない場合には経産相が技術基準適合命令を出すことができると定めている。

第四十条 経済産業大臣は、事業用電気工作物が前条第一項の経済産業省令で定める技術基準に適合していないと認めるときは、事業用電気工作物を設置する者に対し、その技術基準に適合するように事業用電気工作物を修理し、改造し、若しくは移転し、若しくはその使用を一時停止すべきことを命じ、又はその使用を制限することができる

電気事業法の中で、発電所の停止命令を定めているのはここだけである。したがって原発の再稼働に根拠が必要なのではなく、技術基準に違反していない原発の運転を政府が許可しないことが違法なのだ。事故のあとの緊急措置として停止して点検することぐらいはわかるが、すべての原発を止めることは必要でもないし、燃料棒が炉内にある限り安全対策にもならない。福島第一原発で爆発した4号機は停止中だった。

こういう混乱の原因は、昨年5月6日に菅直人首相(当時)が中部電力浜岡原発の停止を「要請」したことだ。そのときも停止を命じる法的根拠がないため、閣議決定も経ないで菅氏が「個人的なお願い」をした。しかし首相の要請は、実質的な命令である。中部電力がこれを拒否すると、監督官庁である経産相からどんな意地悪をされるかわからない。

行政手続法では、このような不利益処分を口頭の行政指導で行なうことを禁じ、その理由を文書で開示することを求めている。また処分の対象となる企業や個人に聴聞を行なうか抗弁の機会を与えることになっている。この基準で考えると、抗弁の機会も与えないで一方的に行われた菅氏の要請は違法であり、中部電力は行政手続法にもとづく異議申し立てをすべきだった。

しかし中部電力はこの要請を受諾し、浜岡原発を停止した。その直後に会長がカタールに飛んでLNGを調達したが、スポット価格は長期契約よりはるかに高いため、燃料費増で昨年度だけで2800億円の損失を出した。こうした燃料費の増加による損失は、全国では昨年と今年で6兆円以上にのぼると推定され、福島第一原発事故の被害総額を上回る。

さらに菅氏が九州電力玄海原発の再稼働を止め、「ストレステスト」の合格を再稼働の条件にしたため、スケジュールが大幅に遅れた。ストレステストはシミュレーションであり、ヨーロッパでは運転と並行して行なわれているものだ。その合格を条件にするのも、違法な裁量行政である。こうした民主党政権の支離滅裂な政策によって地元自治体には強い不信感が生まれ、問題が予想を超えて長期化した。

長期の制度設計と短期の再稼働を区別せよ

そもそも福島第一原発の事故と他の原発の運転は無関係である。世界で起こった原発事故では、1979年のスリーマイル島事故でも、1986年のチェルノブイリ原発事故でも、事故を起こした原発以外は運転が続けられた。普通のプラント事故では、事故を起こしたものと同じ欠陥をもつプラントの運転を止めて修理することはあるが、修理が終わったら運転を再開する。1件の事故で全国のプラントを無期限に止めるということはありえない。

大飯3・4号機は津波対策が行なわれ、電源装置の防水や電源車の配備も終わっている。ストレステストにも合格し、全電源喪失にも15日以上耐えられるという結果が出ている。それなのに政府は理由もなく問題を先送りし、「地元の理解が得られるまで再稼働できない」と地元に責任を転嫁している。

しかし地元自治体には原発の運転を許可する権限はない。福井県の西川知事は「国がしっかりした態度を示さないから(地元に)理解されない」と政府の対応の遅れを批判している。さらに問題を混乱させているのが、大阪府市統合本部が核燃料の最終処理など「再稼働の8条件」を関電に出す妨害工作を続けていることだ。大阪府にも市にも原発の許認可権はなく、8条件なるものに法的な拘束力はない。

橋下市長は、さすがにこれまでの支離滅裂な話を反省したのか、「電力消費のピーク時に限って再稼働する」という思いつきを提案して、西川知事に「ご都合主義だ」と批判された。最近では「原子力規制庁が発足していないから安全が確認できない」と言い始めたが、これは原発の運転とは何の関係もない。彼は苦しまぎれに、長期の制度設計と短期の原発運転を混同しているのだ。

長期的に原発を減らしてゆくという政府の方針は——民主党政権が間もなく倒れることを考えると実効性はないが——それなりに理解できる。しかし瑕疵のない原発の運転を妨害して電力会社に(そして電力利用者に)多大な損害を負わせることは、それとはまったく別の違法行為である。ここで原発の運転にすべての地元自治体の合意が必要だという前例をつくったら、今後は原発の運転はできなくなる。

住民に不安があるのは理解できるが、冷静に考えてほしい。もし若狭湾に東日本大震災と同じ1000年に1度の大震災が起こったら、原発事故による死者は(福島第一のように)出ないが、津波による死者は1万人を超える。そのリスクをゼロにするためには、若狭湾の沿岸20kmからすべての住民を退避させるしかない。死者の出なかった原発対策に6兆円以上のコストをかけるのに、莫大な死者が出た津波対策は何もしないのはなぜだろうか。

要するに国民はマスコミの過剰報道で錯覚しているのであり、原発を止めることは巨額の燃料費や停電などのコストがかかるだけで、何のメリットもない。運転には合意も手続きも必要なく、経産相がOKすればすぐできる。政府は科学的事実を国民にていねいに説明した上で、ただちに再稼働を許可すべきだ。

This page as PDF

関連記事

  • 8月に入り再エネ業界がざわついている。 その背景にあるのは、経産省が導入の方針を示した「発電側基本料金」制度だ。今回は、この「発電側基本料金」について、政府においてどのような議論がなされているのか、例によって再生可能エネ
  • 私の専門分野はリスクコミュニケーションです(以下、「リスコミ」と略します)。英独で10年間、先端の理論と実践を学んだ後、現在に至るまで食品分野を中心に行政や企業のコンサルタントをしてきました。そのなかで、日本におけるリスク伝達やリスク認知の問題点に何度も悩まされました。本稿では、その見地から「いかにして平時にリスクを伝えるのか」を考えてみたいと思います。
  • ドイツの風力発電産業は苦境に立たされている(ドイツ語原文記事、英訳)。新しい風力発電は建設されず、古い風力発電は廃止されてゆく。風力発電業界は、新たな補助金や建設規制の緩和を求めている。 バイエルン州には新しい風車と最寄
  • 元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 日本では「ノーベル賞」は、格別に尊い存在と見なされている。毎年、ノーベル賞発表時期になるとマスコミは予想段階から大騒ぎで、日本人が受賞ともなると、さらに大変なお祭り騒ぎになる。
  • 全国の原発が止まったまま、1年半がたった。「川内原発の再稼動は今年度中には困難」と報道されているが、そもそも原発の運転を停止せよという命令は一度も出ていない。それなのに問題がここまで長期化するとは、関係者の誰も考えていなかった。今回の事態は、きわめて複雑でテクニカルな要因が複合した「競合脱線」のようなものだ。
  • このタイトルが澤昭裕氏の遺稿となった論文「戦略なき脱原発へ漂流する日本の未来を憂う」(Wedge3月号)の書き出しだが、私も同感だ。福島事故の起こったのが民主党政権のもとだったという不運もあるが、経産省も電力会社も、マスコミの流す放射能デマにも反論せず、ひたすら嵐の通り過ぎるのを待っている。
  • ポルトガルで今月7日午前6時45分から11日午後5時45分までの4日半の間、ソーラー、風力、水力、バイオマスを合わせた再生可能エネルギーによる発電比率が全電力消費量の100%を達成した。
  • 本年5月末に欧州委員会が発表した欧州エネルギー安全保障戦略案の主要なポイントは以下のとおりである。■インフラ(特にネットワーク)の整備を含む域内エネルギー市場の整備 ■ガス供給源とルートの多角化 ■緊急時対応メカニズムの強化 ■自国エネルギー生産の増加 ■対外エネルギー政策のワンボイス化 ■技術開発の促進 ■省エネの促進 この中で注目される点をピックアップしたい。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑