太陽光発電と買取制度の秘められた力=自然エネルギーによる社会変革への期待(下) — UNEP・FI顧問末吉竹二郎氏に聞く

2012年06月11日 15:00
末吉 竹二郎
国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP・FI)特別顧問

脱原発は国民の総意、道筋を考えよう=自然エネルギーによる社会変革への期待(上)」に続きUNEP・FI(国連環境計画金融イニシアティブ)特別顧問の末吉竹二郎氏に、自然エネルギーへの期待を聞いた。

自然エネルギーは最初に普及への支援が必要

−経産省はFITの買取価格を太陽光発電の場合に1キロワット(kW)42円で始めることを検討しています。この金額をどのように考えますか。

私は42円については、当初はこの程度の支援は必要であると思います。「高すぎる」とする批判がありますが、日本ではこれから普及が始まるので、より多くの事業者の参入を誘うために、少なくとも魅力ある適正利益が確保されればなりません。最初に高めの価格を設定し、次第に切り下げていくというのはEUで行われた政策です。

各種の調査によれば、昨年は世界で太陽光パネルの価格は半値に下落しました。市場の混乱という面もありましたが、自然エネルギーの価格は量産によって下落の方向に動いています。また経産省によれば、一般家庭の負担額は月に150円から200円程度と試算されています。缶コーヒーを1−2本買う程度の負担ですし、節電をすればこの程度の負担は十分吸収することも可能です。いずれにせよ、この程度ならお金を出して自然エネルギーを育てたいとする人は沢山いらっしゃるのではないでしょうか。

−価格の議論が先行していますが、自然エネルギーの他の問題について、どのように考えますか。

無論、価格は自然エネルギーの普及で極めて重要ですが、それと同じく、場合によってはそれ以上に欠かせないのが送電網へのアクセスの確保です。これまで日本で自然エネルギーが伸び悩んだのは、電力会社の「グリッド(送電網)の安定確保のため」とした買取量の上限が一因でした。

また発送電分離は諸外国の例を引くまでもなく、日本の電力システムの近代化のためには避けて通れないものです。これまでエネルギーの供給会社にすべてを「お任せ」できた日本の消費者が自己責任でエネルギーの選択を行うことが極めて重要です。そうした電力システムの改革の中で、自然エネルギーの普及を進めていくことを忘れてはなりません。

グリーン経済への転換という大きな流れの中で自然エネルギーを位置づける

−FITは今の日本で必要なのでしょうか。

一般論ですが、新しい産業が勃興する時は当事者の自己努力で市場を開拓します。いまある多くの産業はそうやって来ました。つまり、どの産業が生まれ、繁栄し、そして、退場していくかの選択は、全てが市場に委ねられています。

しかし自然エネルギーの場合は、市場任せだけでは、普及に時間がかかり過ぎると私は思います。何に間に合わないかというと、それは地球温暖化との戦い、生物多様性の保全、貧困の格差是正という問題の解決です。

これらの地球規模の戦いに勝つためには速やかな対応が求められていますし、今という絶好の機会を逃すともう二度と温暖化との戦いに勝つチャンスは消えてしまうでしょう。そうだとすれば、自然エネルギーをいち早く新しい産業として確立することが喫緊の課題になってきます。

それだけではありません。既に世界は自然エネルギーへのシフトに動き始めています。他国との競争に勝つためにも、我々は急がねばなりません。一般の新産業の勃興期と同じように市場に任せていては、これらの二つの戦いに日本は負けてしまいます。だからこそ、FITといった導入促進のための仕組みがどうしても必要になってくるのです。

−国際競争という視点が、自然エネルギーの振興で日本では欠けているのでしょうか。

そう思います。いま日本は財政赤字が深刻な状況です。国の税収入の3本柱の一つである法人税はどんどん減っています。これでは日本という国の国家経営は困難です。将来の法人税収入を拡大するためにも、これから伸びる産業を生み出していかねばなりません。自然エネルギーはその新しい産業の一つになるのは間違いありません。

忘れてならないのは、脱原発と自然エネルギーの振興は新しい産業を興す起爆剤になると言う現実です。昨年5月に脱原発を決めたドイツでは2010年までに、再生可能エネルギーの関連産業で38万人もの新しい雇用が生まれたと、連邦政府が報告しています。そのきっかけとなったのがFITでした。

数年前まで、自然エネルギーで日本は世界一と、国を挙げて誇ってきました。ところが今では、いろいろな指標を見ると海外勢に完全に追い抜かれています。かつての誇りは、中身のない「環境技術神話」になってしまいました。世界がグリーン経済への移行を促進する中で、私は多くの国の人から、日本の技術力、資金力、労働の質の高さへの期待を聞きます。でも、国全体を見ると持てる力を有効に使いこなせていません。非常に残念です。

自然エネルギーの普及が社会を変える

−この閉塞感を打ち破るにはどうすればいいのでしょうか。

少し迂遠な意見に聞こえるかもしれませんが、自由な議論の場を確保することが必要と思います。なぜでしょうか。

私たちは今、歴史的な時代の屈折点にいます。あらゆる面で20世紀から21世紀への転換が始まっています。「大量消費型経済を持続可能なグリーン経済へ転換する」という大まかな方向性は固まっているものの、何をすればよいのか、見通せない部分がたくさんあります。そして、さまざま分野で模索が始まっています。そうした歴史的ターニングポイントでは多様な意見、取り組みこそ重要です。過去に囚われない自由闊達な意見やアイデイアこそが次への道を拓きます。

ところが今の日本は現有勢力が余りにもパワーが強すぎ、なかなか新しい意見が生まれてきません。国や企業での議論も少数意見の居場所が見出されていません。新しい意見を持つ人も「どうせ言ってもだめだ」と思って諦めています。こんなことでは21世紀の競争に勝てる訳がありません。

ここでビジネス界の方々に申し上げたいことがあります。業界団体での意見表明は止めていただきたいと言うことです。新しい時代が開かれようとするときに、普段お互いに競争している企業同士が同じ意見を持つことがあり得ないからです。ましてや、業種が違えば戦略など一致する筈がありません。企業に意見があるなら、堂々と自社の名前で世に問うて欲しいのです。「自社の考えや戦略は違うけれど、業界の協調のために仕方ない」なんてことを考えないでいただきたいのです。

こんなところ、つまり自由な意見表明から日本のビジネス界の姿を変えて行く必要があるのではないでしょうか。これだけは力を入れて何度も言いますが、日本には沢山の優れたビジネスパーソンがおられます。世界に誇れる技術もたくさんあります。それらを思う存分に自由に活躍させてあげたい。その為にはもっともっと自由な議論が必要です。世界の視点に立った議論がなさすぎます。換言すれば今の日本に最も必要なのは「真の民主主義」ではないでしょうか。

−自然エネルギー振興は、より大きな視点、歴史の時間軸の中で考えるべきですね。

そう考えます。20世紀の経済の特徴は「大量生産型」です。より速く、より多く利益を得るにはたくさん作り、たくさん売るに限ります。その為には、大量に資源やエネルギーを使うのは当たり前でした。その結果、仮令、大量の売れ残り、そして、廃棄物が出ても構わなかったのです。財務上の帳尻が合えばそれで充分だったのです。

でも、その経済の成長の在り方、ビジネスの慣行がさまざまな弊害を生んでしまいました。地球は一個しかないのに、あたかも地球は何個でもあるかの如く、まるで自然資源は無限であるかのごとく経済活動をしてきました。その経済活動の裏側を見ないやり方が、温暖化、自然破壊、生態系の喪失、さらには貧困の拡大や社会の格差拡大など、さまざまな地球規模の問題を引き起こしたのです。

より困ったことに、問題がそこにあるだけではなく、これらの問題が「ティッピングポイント」を迎えつつあるという点です。ティッピングポイントとはある危機ラインを超えたらそこには過去の経験が一切効かない、しかも後戻りできない危険な世界が広がってくる状況を言います。地球規模の問題がティッピングポイントを超えてしまえばもう手遅れです。

こうした危機感は今世界中が共有を始めました。21世紀の経済は「地球は一個。しかも、それは未来世代からの預かりもの」を前提にしたものに切り替えねばなりません。つまり、20世紀の「ブラウン経済(成長至上主義に陥り環境破壊をもたらした経済という意味)」から「グリーン経済」への転換こそが今求められているのです。速やかにブラウン経済に「グッドバイ」をし、「少量の生産」「長く大切に使える優れた物を生産する」「省エネ」「循環型」「倫理性と公正の維持」「持続可能性(サステナビリティ)」を追求する経済への転換を急がねばなりません。

この大きな世界史的流れの中で自然エネルギーを考える必要があると私は考えています。

−自然エネルギーにはさまざまな可能性がありますね。

現在、発展途上国を中心に世界で電気を使えない人々が十億人単位でいます。これは中央集中型の電力システムの下でのことです。もし地域分散型の自然エネルギーによる電気が供給できれば多くの人々の生活が一変します。太陽光や風力などの地産地消の電気を、電化に使うのです。長年エネルギーのないことで「貧困のわな」の中に閉じ込められていた多くの人々が初めて人間らしい生活を手にすることができるのです。これはほんの一例ですが、自然エネルギーにはこうしたさまざまな可能性が秘められているのです。

現実問題として、当分の間は原子力、化石燃料への依存は残ります。でも自然エネルギーの普及が一段と進むのは間違いがありません。こんな予測すらありますよ。ここ数年間のうちに風力発電の能力が原発のそれを上回ると言うのです。

21世紀は経済の入れ替えがどんどん進みます。間違いなく自然エネルギーはその世界の流れを加速する道具になります。こう考えてくると、FITは日本における小さな一歩ですが、その秘めた可能性を考えると、これは日本と世界にとって重要な一歩となる筈です。

取材・構成 アゴラ研究所フェロー 石井孝明

(2012年6月11日掲載)

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末吉 竹二郎
国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP・FI)特別顧問

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