停電はなぜ起こる

2012年07月02日 15:00
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員

(GEPR編集部より)GEPRの提携する国際環境経済研究所(IEEI)コラムを提供します。

私は停電を経験したことが無い。家の中で電気を使いすぎてブレーカーが落ちたことはあるが、電力会社からの電気供給が止まったという経験は、少なくとも記憶にある限り無い。父が自宅療養で人工呼吸器を使っていた頃は、停電は大いなる恐怖であり、常に予備の酸素ボンベを備えていたが、結局父の存命中に停電を経験せずに済んだことに、私は今でも感謝している。

停電を経験したことが無いために、停電がなぜ起こるかの知識、あるいは、停電した場合に何が起こるかの想像力が薄弱である。しかしこれは私に限ったことでもないようで、昨年計画停電が行われた東京に住む息子さんを心配して、大阪のお母さんが段ボール一杯のインスタント食品を送って来られたものの、全て電子レンジで温めなければ食べられないものだった、などというエピソードも聞いた。

日本は諸外国との停電時間を比較しても格段に短く、需要家1軒あたりの年間平均停電時間は16分 (2007年実績)程度と、他の先進国と比較しても格段に短いので、日本人全体が停電に対する想像力も受容力も低下してしまったことは、当然なのかもしれない。



お客さま一軒あたりの年間停電時間の国際比較


(出典)電気事業連合会ホームページ

そもそも停電はなぜ起こるのか。大きく分けて停電の原因には、二つある。

一つは、送電線の事故等により電気の流れる経路が途絶してしまうことによる停電。首都圏にお住まいの方には、平成18年8月14日、旧江戸川にかかる東京電力の送電線(江東線)にクレーン船が接触したことで起きた停電をご記憶の方もいらっしゃるのではないだろうか。

鉄道や株式市場にも影響を与え、139万1千軒の供給支障をもたらした大きな事故ではあったが、影響を受けるエリアは当該系統に限定されており、復旧までに要した時間は3時間ほどだった。実際に断線した電線の補修には3日を要したが、給電所が送電の迂回路を検討し、短時間での再送電に成功したのだ。
送電設備故障による停電は、地域が限定的であり、復旧までの時間は相対的に短いと言える。

もう一つの停電は、需給のアンバランスから来る「系統崩壊」によるものだ。電気は貯蔵できないので、発電量と消費量が常に均等していることが求められ、これが維持できないと電気の周波数が変動する。周波数という言葉は一般的になじみが薄く、西日本では60Hz、東日本では50Hzを基準としており統一されていない、ということくらいしか知られていないが、この周波数が0.2Hz程度変動しただけで一部の機器には影響が出る、電気の品質の重要な一要素である。

平成14年10月の資源・エネルギー庁「系統利用制度WG」に提出された関西電力株式会社の資料によれば、0.2Hz程度以上の周波数変動により、糸を延伸する電動機の回転数が変化し、製品の糸に細いもの、太いもののばらつきがでたという繊維会社の事例が紹介されている。

発電機は上記の例にあるような機器と比較すれば周波数変動に適応できるものの、需要が供給能力を上回り、周波数が1〜2Hz程度低下すると、自らの身を守るために系統から離脱する機能を持っている。タービンが振動で壊れたり、巻き線が過熱して切れる恐れがあるからだ。

これで発電機が離脱すると供給力が失われるため、さらに需給のバランスが悪化して「ドミノ倒し」が起こる。そうした事態を防ぐため、需給がひっ迫してきた際に一部の負荷(需要)を遮断することで全体を守る「系統安定化装置」といった手立ても開発・導入されている。しかし、その機能もうまく働かなければ、広域大停電に至る。万が一、発電機が全て系統から切り離されてしまい、いわゆるブラックアウト(全系崩壊)に至ると、その復旧作業は至難の業だ。

その場合の復旧手順としてはまず、山間地域の自流式(流れ込む川の水による)水力発電所を立ち上げる。これを「種火」として、徐々に近くの発電所を立ち上げていくわけだが、需要と供給をバランスさせながら行う必要があり、首都圏がこうした広域大停電に見舞われた場合、完全復旧までには数日を要する可能性があるという。

そんな事態にならないよう、電力の供給は常に「予備力」をもって運用するものであり、日本の電力会社は8〜10%の予備力確保を指針としている。大飯原子力発電所の3号機、4号機がフルに再稼働しても、一昨年あたりの猛暑であれば、他社からの融通や、昨年レベルの節電行動を織り込んでも予備率はゼロだと予想されている。

今夏の需給見通しに向け、「節電で乗り切れる」という意見が華々しかったのは今年の春。暑くもなく寒くもないあの時期であれば、私も「夏になっても私はエアコンをつけません」と言えた。人は「架空の節電」には協力的なものなのだ。

しかし現実の夏がもうすぐやってくる。電力会社も「でんき予報」などを活用した迅速かつ積極的な情報開示が必要だが、私たち消費者も大規模停電を防ぐために、節電に協力することが求められる。猛暑時の「現実の節電」は熱中症などの危険もあるため、特にお年寄りや小さなお子さんがいるご家庭で無理は禁物だ。私のような健康なだけが取り柄の人間がその分、節電に励まねばと思う。

そのため、我が家は網戸を補修し、蚊取り線香を買い、風鈴も吊るして夏の到来に備えている。秋風が吹くころ「こういう夏の過ごし方も悪くなかったね」と振り返ることができることを切に願いながら。

※停電のメカニズム、日本の停電時間がなぜ短いのかについての詳細は、「日本の停電時間が短いのはなぜか」 を参照頂きたい。

(2012年7月2日掲載)

This page as PDF
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員

関連記事

  • EU委員会
    7月20日公表。パリ協定を受け、欧州委員会が加盟諸国に、規制基準を通知した。かなり厳しい内容になっている。
  • 東京電力に寄せられたスマートメーターの仕様に関する意見がウェブ上でオープンにされている。また、この話題については、ネット上でもITに明るい有識者を中心に様々な指摘・批判がやり取りされている。そのような中の一つに、現在予定されている、電気料金決済に必要な30分ごとの電力消費量の計測だけでは、機能として不十分であり、もっと粒度の高い(例えば5分ごと)計測が必要だという批判があった。電力関係者とIT関係者の視点や動機の違いが、最も端的に現れているのが、この点だ。今回はこれについて少し考察してみたい。
  • 薩摩(鹿児島県)の九州電力川内原子力発電所の現状を視察する機会を得た。この原発には、再稼動審査が進む1号機、2号機の2つの原子炉がある。川内には、事故を起こした東電福島第一原発の沸騰水型(BWR)とは異なる加圧水型軽水炉(PWR)が2基ある。1と2の原子炉の電力出力は178万キロワット。運転開始以来2010年までの累積設備利用率は約83%に迫る勢いであり、国内の原子力の中でも最も優良な実績をあげてきた。
  • 原発の稼動の遅れは、中部電力の経営に悪影響を与えている。同社は浜岡しか原発がない。足りない電源を代替するために火力発電を増やして、天然ガスなどの燃料費がかさんでいるのだ。
  • 核兵器の原料になる余分なプルトニウムを持たない。広島、長崎で核兵器の被害を受け、非核3原則のもと原子力の平和利用を進める日本は、こうした政策を掲げる。しかし原子力発電の再稼動が遅れ、それを消費して減らすことがなかなかできない。
  • 2015年5月19日、政策研究大学院大学において、国際シンポジウムが開催された。パネリストは世界10カ国以上から集まった原子力プラント技術者や学識者、放射線医学者など、すべて女性だった。
  • 3月27日、フィンランドの大手流通グループケスコ(Kesko)は、フィンランドで6基目に数えられる新設のハンヒキヴィ(Hanhikivi)第一原発プロジェクトのコンソーシアムから脱退することを発表。同プロジェクトを率いる原子力企業フェンノヴォイマの株2%を保持するケスコは、ロイターに対して、「投資リスクが高まったものと見て脱退を決意した」と伝えた。
  • 自民党は「2030年までに温室効果ガスの排出量を2013年度比で26%削減する」という政府の目標を了承したが、どうやってこの目標を実現するのかは不明だ。経産省は原子力の比率を20~22%にする一方、再生可能エネルギーを22~24%にするというエネルギーミックスの骨子案を出したが、今のままではそんな比率は不可能である。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑