福島県、放射線量の現状 — 健康リスクなし、科学的計測の実施と愚かな政策の是正を

2012年10月01日 13:30
高田 純
理学博士 札幌医科大学教授

低線量でリスクなしは変わらず

福島第一原子力発電所の津波と核事故が昨年3月に発生して以来、筆者は放射線防護学の専門科学者として、どこの組織とも独立した形で現地に赴き、自由に放射線衛生調査をしてまいりました。最初に、最も危惧された短期核ハザード(危険要因)としての放射性ヨウ素の甲状腺線量について、4月に浪江町からの避難者40人をはじめ、二本松市、飯舘村の住民を検査しました。その66人の結果、8ミリシーベルト以下の低線量を確認したのです。これは、チェルノブイリ事故の最大甲状腺線量50シーベルトのおよそ1千分の1です。

それ以後、南相馬、郡山、いわき、福島市、会津を回り、個人線量計による実外部被曝線量評価と、希望する住民の体内セシウムのその場ホールボデイーカウンターによる内部被曝線量を調査しています。

その結果は、県民の外部被曝が年間10ミリシーベルト以下、大多数は5ミリシーベルト以下、セシウムの内部被曝が年間1ミリシーベルト未満との評価です。チェルノブイリ事故では、30キロメートル圏内避難者の最大が750ミリシーベルト、1日あたり100ミリシーベルトであるので、福島はおよそ100分の1程度しかありません。セシウムの内部被曝は、年間線量値として、検査を受けた98人全員が1ミリシーベルト未満と超低線量です。

これらの調査結果は、昨年7月に「福島 嘘と真実」を医療科学社から(注1)、出版するとともに、国内の日本放射線影響学会ならびに、日本保健物理学会で報告しました。

今年5月、世界の専門家が4年に一度集まる国際放射線防護学会IRPA13がグラスゴーで開かれ、私も参加しました(注2)。その時、ヨーロッパの専門家に、筆者の報告図書の英語翻訳版「Fukushima Myth and Reality」(注3)を配りました。

グラスゴーでは、日本側からは、今回の福島の放射線が低線量であったことを報告し、他の国からは今回の事故が自国に及ぼした影響の発表がありました。チェコ、フランス、オランダ、ドイツなど、各国とも心配する線量はなかったとの報告です。マレーシアやアメリカの研究者も、自国への影響はほとんどなかったという結論です。世界の専門家たちも、福島が低線量であったとすでに認識しています。

本年7月に放射線医学総合研究所(放医研)主催の国際シンポジウムで、甲状腺線量の調査報告が、筆者も参加する中、行われました(注4)。線量の最大は33ミリシーベルトでした。これは、チェルノブイリ事故の最大線量50シーベルトの1千分の1以下です。

読者のみなさんは食塩の摂取で、5グラムと5キログラムのリスクの違いを想像すれば、ヨウ素の放射能の違いも理解できるはずです。仮にリスクの直線仮説で、最大に推定しても、福島県民に、福島第一原発由来の甲状腺がんは発生しないのです。

放射性ヨウ素のハザードは、既に完全消滅しています。数値で言えば、半減期が8日のため、昨年放出された放射能が100万分の1以下になっています。したがって、今の調査は半減期が2年と30年のセシウムに限られます。その結果さえ、体内検査から、福島県民たちは1ミリシーベルト未満との超低線量です。これも健康リスクはゼロです。

福島第一原発20キロ圏内の和牛業も再建できる

筆者は、2年目に入り、20キロ圏内の浪江町に、町内の和牛畜産業者とともに、生存している牛たちの体内セシウム検査をしながら、当該地の放射線衛生状況を調査しています。それは、前年4月の最初の調査で偶然、現地で遭った前浪江町議会議長の山本幸男氏との交流から始まりました。

その目的は、政府が全く進めていない、20キロ圏内の復興を意識した線量調査と実効性のある帰還対策の確立にあります。和牛業の再建が突破口となるでしょう。そのために、和牛のセシウム濃度を出荷基準内にすること、生活者の線量を基準内とすることです。

現場重視の科学者としては、当然の現地調査です。これにより、その地で生活した際の実線量が評価できます。1日の大半は、自宅や牛舎で、そして残りの時間、放牧地や周辺で作業をする。そうした実際の暮らしの中で、個人線量計を装着して線量を評価するのです。

米国製の最新型の携帯型ガンマ線スペクトロメータを、人体中のセシウム放射能の量(ベクレル)を体重1キログラム当たりで計測できるように昨年6月に校正しました。この機種が3代目で、これまで世界各地の核被災地で、ポータブルホールボデイーカウンターをしています。それを、今度は大きな生きた牛を測れるようにすることが最初の問題となりました。解答は意外に早く見出すことができたのです。


浪江町末の森山本牧場の元気な牛たち 2012年8月

およそ400キログラムの牛の背中、腹、後ろ足の腿を、計測してみました、腿が最適との結論です(注5)。人体の場合、体重あたりの放射能値の計測の校正定数は、体重の大きさにあまり影響されないという事実があります。人体計測の場合、検出器を腹部に接触させるが、牛の場合に、形態が近いのが腿だったのです。セシウムは、筋肉に蓄積するので、腿の計測が合理的です。こうして、腿肉のセシウム密度が、生きたままで、1分間で計測可能となりました。そして、それぞれ少し離れた3牧場にて、牛の体内セシウムの検査を行いました。

今年8月までに、浪江町の3牧場にて、延べ27頭の和牛の腿部のセシウム放射能を検査した結果、9頭は1キログラムあたり500ベクレル以下でした。傾向として、2月3月に比べて、8月の牛の体内セシウムは減少しています。和牛出荷も間違いなく可能にできるとの判断です。

乾燥昆布のカリウム放射能が1キログラムあたり1600ベクレルで、それよりも放射能が少ない牛は、福島第一原発20キロ圏内で生きているのです。なお、1キログラムあたり500ベクレルの放射能は、3.11以前の原子力安全委員会の食品規制の指標です。愚かにも、現民主党政権は、食品の規制をキログラムあたり200ベクレル以下と、自然放射能以下に強化する非科学の姿勢をとっています。これは、国際会議IRPA13で批判されているのです。

今年3月には、浪江町末の森の放牧地で、セシウムの除染試験を実施しました。これは、海外調査からの経験から、深さ10センチメートル までの表土を削り取ればよいと考えました。その深さまでの表土に、セシウムという元素は吸着する性質があるからです。 3地点で、3メートル四方に縄を張り、所定の深さの表土をはぎ取りました。その土は、袋詰めし、柵の外に仮置き保管しています。

地表のセシウム汚染密度は、ガンマ線スペクトロメータで直ぐに計測できます。除染の前後の値から、試験的に剥ぎ取った3か所の平均のセシウム除去率は94%と十分な結果となりました。こうした表土の剥ぎ取りを、放牧地全体で実施すれば、和牛生産は直ぐに開始できるのです。みんなが、良い結果に喜びました。

浪江町も帰還可能−おかしな計測で政策が決まる

2泊3日の現地調査から、実線量がわかります。政府発表の数値は、こうした生活者の実線量を調べることなしに、畑などの空間線量率から計算した線量です。しかも、これは実線量の4〜5倍も過大評価になっているからいけないのです。これでは、戻れる家族も、自宅に戻れません。とんでもない劣等生のレポートのような計測によって、政策を決めているのです。私の担当する学生なら赤点です。

3月の浪江町末の森での調査の2泊3日の間、私の胸に装着した個人線量計は、積算値で、0.074ミリシーベルトで、24時間あたり0.051ミリシーベルト。2種のセシウムの物理半減期(2年と30年)による減衰を考慮して、平成24年の1年間、この末の森の牧場の中だけで暮らし続けた場合の積算線量値は、17ミリシーベルトと推定されました(注6)。しかも週に5日間、二本松の仮設住宅から浪江町へ、牛の世話に通っている人たちのセシウム検査から、内部被曝は年間、0.3ミリシーベルトとの結果ときわめて低線量です。

内外被曝の総線量値は、政府の言う帰還可能な線量20ミリシーベルト未満です。しかも、国の責任で家と放牧地の表土の除染をすれば、直ぐに年間5ミリシーベルト以下になります。現状では、政策に科学根拠がなく、20キロ圏内を、政府は、いたずらに放置しています。この放置は、飯舘村も同じです。

筆者の調査した浪江町末の森では、政府の屋外の値に年間時間を掛けて計算する非科学では、96ミリシーベルトになり、帰還不能という誤った判断になるのです。本当は、帰還可能です。

この試験研究の申請を、政府は無視し、復興に責任を果たさない、とんでもない事態にあります。それでもなお、住民の方々と私は、自発的に、故郷を守ろうとこのプロジェクトを進めています。

読者のみなさまは、試験研究の意義と復興策をご理解いただけたと思います。20キロメートル圏内を科学で可視化し、早急に復興させるよう、愚かな政府を批判し、間違った政策を是正させましょう(注7)。

引用文献
注1)高田純:「福島 嘘と真実」医療科学社 2011.
注2)Jun Takada:「In-situ dose evaluations for fukushima population in 2011reveal a low doses and low dose rates nuclear incident」, 13th International Congress of the International Radiation Protection Association, Glasgow ,2012.
注3)Jun Takada: 「Fukushima Myth and Reality」Iryokagakusha 2011.
注4)Jun Takada:「Individual dose investigations for internal and external exposures in Fukushima prefecture」 The first NIRS symposium on reconstruction of early internal dose due to the TEPCO Fukushima Daiichi Nuclear Power Station accident、Chiba、2012.
注5)高田純:「福島の畜産農家との現地調査で分かった野田政権の「立ち入り禁止区域」のデタラメ」撃論4 オークラ出版 2012.
注6)高田純:「福島に“非科学の極み”「帰還困難地域」を設定した政府試算の悪意とデタラメ」撃論6 オークラ出版 2012.
注7)放射線防護情報センター:福島支援のページ 

GEPRは福島の復興のために活動する高田教授に敬意と感謝を表明します。
高田教授には2012年2月に次の寄稿をいただきました。

福島はチェルノブイリにも広島にもならなかった

(2012年10月1日掲載)

This page as PDF
高田 純
理学博士 札幌医科大学教授

関連記事

  • 女児の健やかな成長を願う桃の節句に、いささか衝撃的な報道があった。甲府地方法務局によれば、福島県から山梨県内に避難した女性が昨年6月、原発事故の風評被害により県内保育園に子の入園を拒否されたとして救済を申し立てたという。保育園側から「ほかの保護者から原発に対する不安の声が出た場合、保育園として対応できない」というのが入園拒否理由である。また女性が避難先近くの公園で子を遊ばせていた際に、「子を公園で遊ばせるのを自粛してほしい」と要請されたという。結果、女性は山梨県外で生活している(詳細は、『山梨日日新聞』、小菅信子@nobuko_kosuge氏のツイートによる)。
  • 四国電力の伊方原発3号機の運転差し止めを求めた仮処分の抗告審で、広島高裁は16日、運転の差し止めを認める決定をした。決定の理由の一つは、2017年の広島高裁決定と同じく「9万年前に阿蘇山の約160キロ先に火砕流が到達した
  • 3月11日の大津波により冷却機能を喪失し核燃料が一部溶解した福島第一原子力発電所事故は、格納容器の外部での水素爆発により、主として放射性の気体を放出し、福島県と近隣を汚染させた。 しかし、この核事象の災害レベルは、当初より、核反応が暴走したチェルノブイリ事故と比べて小さな規模であることが、次の三つの事実から明らかであった。 1)巨大地震S波が到達する前にP波検知で核分裂連鎖反応を全停止させていた、 2)運転員らに急性放射線障害による死亡者がいない、 3)軽水炉のため黒鉛火災による汚染拡大は無かった。チェルノブイリでは、原子炉全体が崩壊し、高熱で、周囲のコンクリ―ト、ウラン燃料、鋼鉄の融け混ざった塊となってしまった。これが原子炉の“メルトダウン”である。
  • こうしたチェルノブイリ事故の立ち入り制限区域で自主的に帰宅する帰還者は「サマショール」(ロシア語で「自ら住む人」という意味)と呼ばれている。欧米を中心に、チェルノブイリ近郊は「生命が死に絶えた危険な場所」と、現実からかけ離れたイメージが広がっている。サマショールの存在は最近、西欧諸国に知られたようで、それは驚きを持って伝えられた。
  • はじめに 日本の放射線利用では不思議なことが起きている。胸部エックス線検査を受けたことが無い人はいないだろうし、CT(Computed Tomography)やPET(陽電子放射断層撮影)も広く知られ実際に利用した人も多
  • 元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 5月26日、参議院本会議で「2050年までの脱炭素社会の実現」を明記した改正地球温暖化対策推進法(以下「脱炭素社会法」と略記)が、全会一致で可決、成立した。全会一致と言うことは
  • 有馬純 東京大学公共政策大学院教授 今回のCOP25でも化石賞が日本の紙面をにぎわした。その一例が12月12日の共同通信の記事である。 【マドリード=共同】世界の環境団体でつくる「気候行動ネットワーク」は11日、地球温暖
  • 「原発、国民的合意を作れるか? — 学生シンポジウムから見たエネルギーの可能性」を GEPR編集部は提供します。日本エネルギー会議が主催した大学生によるシンポジウムの報告です。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑