したたかに堅持すべき核燃料サイクル政策 — 歴史の蓄積、合理性、早急な「突然死」の危険

2012年10月09日 13:30
河田 東海夫
元原子力発電環境整備機構(NUMO)理事、元核燃料サイクル開発機構(JNC)理事

選挙民の歓心を買うための革新的エネルギー・環境戦略

9月14日、政府のエネルギー・環境会議は「2030年代に原発ゼロ」を目指す革新的エネルギー環境戦略を決定した。迫りくる選挙の足音を前に、エネルギー安全保障という国家の大事に目をつぶり、炎上する反原発風に気圧された、大衆迎合そのものといえる決定である。産業界からの一斉の反発で閣議決定にまでは至らなかったことは、将来の国民にとって不幸中の幸いであった。報道などによれば、米国政府筋などから伝えられた強い懸念もブレーキの一因と いう。

エネルギー安全保障は、国防や食糧安全保障と並び、国家の存立を左右する重要課題である。狭い国土に1億人を超える国民を抱えるわが国は、技術産業立国として生きていくことを運命付けられており、エネルギーの安定供給は、その産業を支える生命線といっても過言でない。残念ながら我が国は、先進国の中では自給率たった4%のエネルギー最貧国であり、それゆえエネルギー安全保障の重要度は、他の先進国に比べて格段に高い。

エネルギー自給率4%の日本では、原子力放棄の贅沢は許されない

我が国が、半世紀にわたり国策として原子力利用・開発に力を注いできた。それは、技術産業立国でありながら有意量の化石燃料資源を持たない我が国のエネルギー安全保障の脆弱性を克服せんがためだ。そうした努力の結果、原子力は電力の3割を供給する基幹電源に成長した。残念ながら昨年の福島原発事故で、国民の原子力忌避感情は極限まで高まっており、多くの政治家がそれに迎合して脱原発を唱え始めている。

しかしここで原子力を放棄すれば、それは安価な基幹電源供給の要石を捨て去ることを意味する。それは化石燃料への依存拡大による電力価格上昇を招き、厳しい円高とともに産業空洞化を加速して、技術産業立国日本を自滅に導くリスクを大いに高めることになる。

米国では、安全審査段階まで進んだネバダ州ユッカマウンテンでの使用済燃料の最終処分場計画が、オバマ政権によって停止に追い込まれた。行き場を失う使用済燃料の新たな管理方策を検討するブルーリボン委員会が組織され、2年間にわたる検討の最終報告書が本年1月に公表された。

報告書は、原子力の将来について、「世界が直面しているエネルギー需給問題や温暖化問題などを考慮すれば、改良型の原子力の選択肢を温存していくことはきわめて大切である」と述べている。

エネルギー自給率が6割を超え、近年はシェールガスブームに沸く米国においてすら、エネルギーの有力な選択肢は幅広くキープしていくという堅実な道を選ぶ。まして自給率4%の日本では、原子力を放棄するという贅沢は許されない。

プルトニウム忌避感の強い我が国では直接処分はほとんど実現不可能

原子力への批判の高まりとともに、これまでわが国がとってきた核燃料サイクル政策への批判も高まっている。そうした中、原子力委員会は6月に決定した「核燃料サイクルの選択肢について」で、2030年における原子力比率に応じて、直接処分政策や直接処分・再処理併存策を採るのが適切であるとした。

しかしながら、プルトニウムをそのまま埋設する直接処分の場合、プルトニウムへの忌避感が異常に高い日本においては、処分場立地へのハードルが格段に高くなるのは火を見るより明らかである。毒性が一桁小さくより安定なガラス固化体の場合ですら、過去10年間処分場立地が全く進展しなかったという厳しい現実を重ね合わせれば、直接処分の処分場立地はほとんど不可能に近いと考えざるを得ない。

また最終処分の実現が見通せない間は、直接処分を成立させるために不可欠な要素である中間貯蔵施設の立地も、実現性は極めて薄いであろう。こうしたことから、直接処分政策の導入は、立地問題から八方塞がり状態を招き、原子力の突然死に至る蓋然性がきわめて高い(注1)。

堅持すべき核燃料サイクル

原子力突然死のリスクを回避し、原子力を安定的に利用していくためには、核燃料サイクル政策の堅持が不可欠である。これまでわが国は、一貫してこの政策をとってきた。つまり、使用積み核燃料を再処理して、その中のプルトニウム、ウラン235を再び燃料として取り出し、原子力発電に使うという政策 だ。それは、以下のような点でこの方式が、国土が狭い大規模原子力発電国である日本に最もよく適合するからである。

  1. 再処理を行うことにより、直接処分の場合に比べ、使用済燃料の中間貯蔵の必要容量を3〜5分の1程度に縮減できる。
  2. ウラン・プルトニウムを回収再利用することで、資源節約につながる(ただし、現行軽水炉システムでは資源節約は1〜2割と限定的)
  3. 高レベル廃棄物から発熱性のプルトニウムを除去するため、直接処分に比べ処分場の必要面積を3分の1程度に縮減できる。
  4. 処分場にプルトニウムを埋設しないため、「プルトニウム鉱山問題」(注2)という大変厄介な将来負担を回避できるうえ、プルトニウムへの強い忌避感情に由来する処分場立地へのハードルの高まりを回避できる。
  5. 将来の高速増殖炉サイクル実用化に向けての技術的橋渡しが出来る。

原子力事業の最も困難な部分は、新規原子力施設の立地と、そのための住民の合意形成である。1、3、4は、その負担を大幅に低減することを意味しており、国土の狭いわが国では、実態として最も重視すべきメリットである。

核燃料サイクル政策を続ける場合であっても、地域住民との間では常に様々な課題についての合意形成が求められる。しかし、その困難性は、直接処分政策の導入で新たに必要となるゼロからの合意形成の困難性に比べればはるかに軽微といえる。

2の資源節約は、軽水炉サイクル時代は限定的であり、この段階でのリサイクル利用は、再処理で回収されたプルトニウムを消費し、核拡散のリスクを低減させるという点に大きな意味がある。その意味で、再処理とMOX燃料利用(プルサーマル)はセットで進めなければならない。

資源有効利用の観点からの再処理・リサイクル方式の本当のメリットは、高速増殖炉サイクルが実用化されてはじめて享受可能となる。化石燃料市場の不安定化は、今世紀後半にはより激しくなることが予見される。そうした時代に備え、高速増殖炉サイクル実用化に向けた研究開発は着実に進めていく必要がある。

再処理リサイクル方式は、直接処分方式に比べ経済性に劣るとの批判もあるが、その差は発電原価にしてわずか1 円/kWh 程度に過ぎない。1〜5に述べたメリットの大きさを考えれば、十分受忍されうる差額であり、他の発電方式における発電原価の不確実性や揺れ幅がはるかに大きい中、政策決定上ほとんど議論に値しない差である。

再処理事業は巨大な国民的財産

日本はNPT下の非核兵器国として再処理を含む核燃料サイクル事業全体を推進する唯一の国家であるが、この特異な地位は決して容易に得られたものではない。早くから自立的な核燃料サイクル実現に努めてきた先人の先見性と、1977年の日米再処理交渉とその後の国際核燃料サイクル評価(INFCE)における挙国一致体制による関係者の奮闘によって獲得した、国際政治上きわめて貴重な地位である。一旦放棄すれば2度と回復不能な、日本国民の重要な無形資産である。

すでに述べたように、我が国で原子力を安定に利用し続けることを可能とする現実的施策として核燃料サイクル政策は堅持されなければならない。その中核となる再処理事業は、多額の投資に加え、長年にわたる立地地域との信頼構築や、国際政治の場での粘り強い交渉といった、政治的・社会的にきわめて困難な過程における努力の累積の上に成り立っているのであり、一朝一夕には構築しえない巨大な国民的財産である。そうした貴重な国民的財産は死守するのが、まともな国家の選択である。

(注1)再処理政策の放棄は、直近の問題としては、1998年7月に日本原燃が県や六ヶ所村と交わした覚書にしたがい、県は、再処理事業困難時には使用済燃料を施設外に搬出することを求める姿勢を表明しており、そのことからも原子力が突然死に至る可能性は大きい。

(注2)直接処分で地下埋設される使用済燃料中のプルトニウムは、当初は高い放射能により防護されるが、300年後にはその大部分が減衰してしまい、プルトニウムへの接近や回収の困難性は著しく低減してしまう。300年後に悪事をたくらむ国家にとっては、直接処分場の埋設物はきわめて魅力的な兵器原料となりうる。

(GEPR編集部より)再処理問題について推進の立場からの寄稿をいただきました。原発では、常に核廃棄物、それにともなう再処理政策が問題になってきました。高速増殖炉もんじゅ、青森県六ヶ所再処理向上の稼動の遅れなども懸念されています。GEPRはこの問題について議論を深める予定です。また読者の皆様からあらゆる立場での寄稿、また御意見を募集します。

また関連原稿の「核燃料サイクルとは何か」も、参考にしてください。投稿・意見は info@gepr.org まで。

(2012年10月9日掲載)

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河田 東海夫
元原子力発電環境整備機構(NUMO)理事、元核燃料サイクル開発機構(JNC)理事

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