原発再稼動の現場(大飯原発を例にして)

2012年10月15日 16:30
澤 昭裕
国際環境経済研究所所長 21世紀政策研究所・研究主幹

GEPRの提携するNPO法人国際環境経済研究所(IEEI)の論考から澤昭裕所長のコラムを掲載する。(IEEI版



関西電力大飯原子力発電所(同社提供)

混迷の中にある再稼動問題

原子力発電所の再稼働問題は、依然として五里霧中状態にある。新しく設立された原子力規制委員会や原子力規制庁も発足したばかりであり、再稼働に向けてどのようなプロセスでどのようなアジェンダを検討していくのかは、まだ明確ではない。

そんななか、新たに原子力規制委員長に就任した田中俊一氏のインタビュー記事が、9月24日の毎日新聞(記事:「原子力規制委:ストレステスト「審査しない」…田中委員長」)に掲載された。

同氏は「防災体制がきちんとしていないと、国民の納得はいただけない」と話されているが、この点は我々も同意見だ。福島原子力事故により、重大事故が起きた場合には速やかに住民の避難を図ることが重要であることが認識されたが、周辺自治体・住民・発電所の連携した訓練はこれまで形式的なものに留まっていたと言わざるをえない。原発がゼロリスクではないことを認めると反原発運動を刺激したり混乱を招いたりすると考えてのことであっただろうが、原発自体の事故リスクを最小化する努力とあわせ、原発がゼロリスクではないことを認めて、いざ事故が発生したときに被害を最小化する努力が必要である。

また、その記事では、田中氏は『再稼働の科学技術的な判断は「規制委がやる」としながらも「原発運転の是非は社会的、政治的判断を伴う。(規制委が再稼働を認めた原発を)動かすかどうかは政府、政治の問題だ」と述べ、政府にも責任があるとの認識を示した。』と伝えている。これも、正論だ。しかし、一方の政府では、細野前環境大臣の発言として伝えられているように、規制委員会の判断が実質的に再稼働の可否の判断になると、責任回避の姿勢を強めている。

エネルギー政策、責任から逃げる政府

安全基準や安全審査は科学的・技術的根拠に基づいて行われるべきであり、そこに政治の思惑が入り込むならば、原子力規制委員会そのものの存立基盤が揺るぐ。日本の原子力開発当初の一時期、政治家たる科学技術庁長官が原子力委員会委員長を兼ねて推進も安全も見ていたという組織が、安全と推進に分離され、紆余曲折を経て今日に至った経緯を考えれば、田中氏の発言も頷ける。

逆に、福島原発事故以降、頻繁かつ顕著な政治の判断・決断責任回避姿勢は、日本の原子力問題のマネジメントをどんどん難しくしている。菅元総理による浜岡原発の停止「要請」は、法的根拠に基づいたものではなく、行政指導ベース、もっと悪くいえば、社会的圧力を利用した政治的パフォーマンスだったというしかない。浜岡原発が地震や津波に対する脆弱性があるから、自主的に止めてくれというのであれば、専門性に欠ける内閣総理大臣がそう発言する前に、少なくとも当時の原子力安全委員会から技術的評価に基づいた勧告を受けるという行政行為があってしかるべきである。

さらに重大な問題はストレステストだ。これも全く法的根拠がなく、関連大臣による行政指導である。例えて言うなら、人間ドックで様々な検査を受け、健康体だとのお墨付きを得て帰宅しようとしたら、突然別の検査も必要ですといわれて入院を続けさせられているようなものだ。

そうした懸念を真剣に持っていたのであれば、昨年福島の事故があった後、浜岡を含むすべての原発を即刻停止させ(法的行為として行うことは可能)、再稼働までのプロセスを少なくとも閣議決定レベルで明示的に規定すべきだったのである。でなければ、再稼働まで事業者は何をやればよいか、行政は何をやればよいかがわからない状態になってしまい、その場その場の思いつきで手続きを進めていくしかなくなるのだ。

政治ゲーム化した大飯原発の混乱

実際、その懸念通りの展開となったのは、大飯原発の再稼働プロセスを見ていればよくわかる。そうした国の仕事の進め方のいい加減さが、近畿地方の自治体首長や立地自治体の首長の不安と怒りをもたらしたばかりか、原発の再稼働が一部の首長から政治的ゲームの対象にまでされてしまったのである。田中委員長はストレステストのことをどう考えているのか。

詳しい発言内容はわからないが、上記のインタビュー記事では同氏が「ストレステストについては『(地震と津波に限定した)想定がこれでいいのかは議論がある』と疑問を呈した上で『参考資料であって、こだわることはない』と述べた。」としている。ストレステストは、上記のように法的根拠がないものであり、田中氏がこういう認識になることはわからないでもない。

しかし、であれば、これまでのプロセスはいったい何だったのか。これまでの原子力安全・保安院が提示した累次の安全対策や、それに沿って行われてきた事業者の安全対策投資について全く無視するのであれば、行政機関内の引き継ぎがきちんと行われていないということを自ら認めるものであり、大きな問題といわざるをえない。

国営で税金を投入するにしても、民営で原子力発電所を運営するにしても、安全対策投資コストは税金あるいは電気料金に反映され、国民・消費者が負担せざるをえない。何度も規制体系が変更されたり、今後どういう規制が入るかわからないという不確実な状態では、金融機関の融資も投資家の社債購入もされにくくなるだろう。

原子力技術、ひいては原子力を保有する電力会社が資金調達に行き詰まることとなる。電力事業が長期投資を得にくくなれば、高利での資金調達が電気代に反映されることとなるし、安定供給にも支障を来す恐れが生じる。先日発表された政府の「革新的エネルギー・環境戦略」で、2030年代に原発稼働ゼロを目指すと書かれており、そのような方針のもとでは足下の安全対策投資をどの程度行うべきかがそもそも判断できない。再稼働の条件やスケジュールや手続きの不透明性はさらなる追い打ちと言うべきだろう。

大飯原発の安全対策進める関電

たとえば、件の大飯原発。大阪府市エネルギー戦略会議(戦略というより政治的PRの場と化しているようだが)を舞台にしたパフォーマンスのせいで、再稼働に向けての地道な現場での安全対策が、なかなか一般に伝わってこない。これまで原子力安全・保安院が示した安全対策やストレステスト審査のプロセスに対応して、実際にどのような措置が講じられてきたのか、関西電力に問い合わせてみた。報道では未完の部分ばかりが強調されていたが、工事完了までの対応・措置を下記にまとめてみた。

1・非常災害対策本部、代替指揮所(免震重要棟完成までの対応)
大飯原発3、4号機の再稼働にあたっては、「福島原子力事故の対応において重要な役割を果たした免震重要棟(免震構造の緊急時対策所)の建設も終わっていない」との批判的報道ばかりであった。しかし、津波高さが10m未満の原子力災害時の非常災害対策本部は別に確保されており、耐震性、耐放射線性があり、空調、通信、非常用電源等の設備が備わっている。また、10m以上の津波が発生した場合は中央制御室周辺の会議室等を使用し代替指揮を行う。そのため、中央制御室と同等の耐震性、耐放射線性があり空調、通信、非常用電源等の設備等が備わっている。

2・防波堤のかさ上げ完了までの対応
現在、津波の衝撃力を緩和するための対策として5mの防波堤を8mまでかさ上げする工事を行なっているが、建屋側で11.4mまでの水密化の対策(扉のシール等)を行なっており津波の浸水対策は完了済。更に水密性を向上させるために水密扉への交換工事を行い、9月末までに全て完了している。

3・背後斜面の安定性
大阪府市エネルギー戦略会議委員が大飯原発を視察し、「背面道路に全ての電源車を配置していることは背後斜面の崩落が起きた場合全台が機能しなくなる」と指摘する場面がよく報道で流された。しかし、原子炉の背後斜面は山を掘削して造成されたもので、原子炉建屋が設置されている岩盤と同等の強度がある。背後斜面の安定性評価結果もすべり安全率が2〜4あり、非常に強固な岩である。こうした事実は伝えられていない。なお、関西電力はこの指摘を受ける以前から、リスク分散の観点から電源車の配置場所の分散を検討しており、すでに完了している。

4・使用済燃料プールへのアクセス性
使用済燃料プールが設置されている33mのフロアーに直接アクセスできる背面道路が接続されている。燃料プールへの給水が必要な場合、扉を開けて消火水、海水を容易に送水できる配置設計になっている。なお、いざというとき給水栓とホースの接続にかかる時間を一分一秒でも短く、かつ、少ない人数でも対応できるようにすることも重要である。使用済燃料プールに限らず緊急時に接続操作が必要となる箇所については、給水栓とパイプ・ホースを簡単に接続できるよう、接続部分の仕様が変更されたそうだ。こういう工夫がいざというときに力を発揮することになるだろう。

基本的なことではあるが、PWR(加圧水型炉)とBWR(沸騰水型炉)の違いも今後話題になってくるだろう。北海道及び関西、四国、九州の各電力会社が導入しているPWRは、原子炉の中で高温・高圧の水を作り蒸気発生器で熱交換を行うことで蒸気を作る構造であり、原子炉の中で水を沸騰させ蒸気を作るBWRと、構造的に大きな違いがある。蒸気発生器からの蒸気で駆動するポンプにより、電源がなくても蒸気発生器に給水し原子炉を間接的に冷却することが可能であるというメリットもあわせ持つ他、格納容器の大きさが同等出力のBWRと比べて7倍程度大きく、水素濃度上昇に対する裕度があると聞く。ただし、PWRは構造上機器や配管など設備が多いため、その点にはより多くの注意が必要となる。

こうした構造の違いがシビアアクシデント対策の違いに反映されることは当然である。今後立地地域の住民に対して、国民に対して、原子力の安全対策を丁寧に説明する必要があるが、そのときに日本にある2つの炉型の違い、シビアアクシデント発生可能性や発生時の対処のしやすさなど、メリット・デメリットも含めて明らかにしていくことが求められるだろう。

大飯原発でもハードウェアの対策は様々取られてきていることは理解したが、技術をコントロールするのは人間である。ヒューマンファクターや組織のガバナンス、シビアアクシデントに向けたトレーニング、周辺地域の情報収集と防災対策・訓練について、不断のチェックと改善が必要なことは言うまでもない。安全性向上への努力に終着点は無いという謙虚な気持ちと、顔が見えるコミュニケーションが、再稼働に向けての鍵となることを指摘しておきたい。

(2012年10月15日掲載)

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澤 昭裕
国際環境経済研究所所長 21世紀政策研究所・研究主幹

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