ドイツ電力事情4 — 再エネ助成に対する不満が限界に

2012年10月22日 14:00
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員

(GEPR編集部)提携する国際環境経済研究所(IEEI) のコラムを転載する。(IEEI版

ドイツの電力事情3」において、再エネに対する助成が大きな国民負担となり、再生可能エネルギー法の見直しに向かっていることをお伝えした。その後ドイツ産業界および国民の我慢が限界に達していることを伺わせる事例がいくつか出てきたので紹介したい。

ドイツ繊維業界が再生可能エネルギー法は憲法違反であるとして訴訟提起

このニュースは、7月1日に再生可能エネルギーに関する固定価格買取制度を導入したばかりの日本に衝撃を持って伝えられた。(NHKの報道)。

現地報道によれば8月14日に繊維業界の3社が、再生可能エネルギー法による太陽光発電などへの助成は憲法違反であるとして電力会社に返還を求め、地方裁判所に訴訟を提起した。この3社は業界を代表して訴訟を提起したのであり、ドイツ繊維・服飾連合会は訴訟費用の負担などにより裁判を全面的に支援することとしている。

昨年、業界全体で7000万ユーロ(70億円)、原告の中の1社のファヴォロン社においては18万ユーロ(1800万円)を支払ったという。ファヴォロン社の従業員数は180人強だというから(電気新聞9月5日 熊谷徹氏”ヨーロッパ通信”より)、その負担の大きさがわかる。単に負担の大きさに耐えられないということでは訴訟を構成できないため、ドイツ繊維・服飾連合会はレーゲンスブルグ大学に見解を求め、1994年ドイツ連邦憲法裁判が下した石炭業界への補助金を違憲とする判決を例に、今回の提訴に踏み切っている。

コールペニー(石炭プフェニヒ)と呼ばれる石炭産業に対する補助金は、電力料金に一定率を上乗せして徴収され、連邦政府が管理する石炭発電基金から連邦予算を経由せずに、約20年にわたり支出されていた。このような特別公課は、あくまで特定の関係者に対象が限定された例外であるべきところ、コールペニー(石炭プフェニヒ)は一般の電力消費者を対象としている点で通常の租税に近く、議会の租税制定権を侵犯しており、違憲であるという判断であった。

一般消費者に広く負担を強いるという点において、電気料金と税は似た感覚で捉えられる。しかしながら、税は議会による承認を経なければ改正ができないが、電気料金であればそのような手続きを必要としない。こうした手続きを経ずに納税者全体ではなく、「電力消費者」に負担を求める「再生可能エネルギー優先に関する法律」(Feed in Tariffの根拠法)は違憲であると、くだんの繊維業界は主張するものと見られる。

Feed in Tariff(再生可能エネルギーに対する固定価格買取制度)の運用にあたっては、電力を多く消費する産業や国際競争にさらされる産業を保護するために免除措置を導入せざるを得ず、その分、中・小規模の企業に大きな負担がのしかかっていることにも不満が生じている。

Feed in Tariff制度の問題点として、買い取り価格の客観性の確保の難しさについてはよく指摘されているが、加えて、(日本の場合)価格算定委員会の行政機関上の位置づけ、国会の租税立法権の侵害、減免措置の合理性など、様々な問題点を内包する制度である。このドイツでの訴訟が契機になって、我が国においても、今後議論を呼ぶことは必至だ。

ドイツ消費者団体が電力料金高騰を批判

一般社団法人海外電力調査会の報告によれば、ドイツの消費者団体である連邦消費者センター連盟が、再生可能エネルギー導入に関するコスト負担が増え続ける現状は「我慢の限界を超えている」と厳しく批判するコメントを出したという。

ドイツの一般家庭が支払う再生可能エネルギー助成金は、2013年には3.59 ユーロセント/kWh から約 5 ユーロセント/kWh に 上昇し、年間負担額は185ユーロ(1万8500円)にもなると予測されている。

ドイツ在住のジャーナリスト熊谷徹氏が電気新聞に寄稿した記事(2012年8月22日”ヨーロッパ通信”)によれば、のノルトライン・ヴェストファーレン州(州都デュッセルドルフ。国内一の人口を誇る)では昨年、約12万人が電力料金を支払うことができずに供給を一時的にストップされたという。電力料金の高騰が市民生活を直撃していることがよくわかるデータだ。

先に紹介した連邦消費者センター連盟は、2012年2セントユーロ/kWhの電力税(環境税)の廃止もしくは現在税率19%の付加価値税を電力については7%に引き下げることを主張しているが、環境大臣は今のところこれを否定しているという。しかしながら、メルケル首相は「2050年までに電力の80%を再生可能エネルギーで賄う」とする新エネルギー政策を掲げているが、それを実現する施策が足下から揺らいでいると言えよう。

再生可能エネルギーの導入拡大という大きな目的には賛同したドイツ国民も、その経済的負担に耐えきれなくなってきているわけだ。日本の産業界が、全量固定価格買取制度の導入前に、経済的影響を冷静に分析すべきと主張した意味もここにある。(経済広報センターの見解。より詳しくは日本経団連の見解。)

日本のエネルギー自給率の低さを考えれば、再生可能エネルギーの導入拡大にもちろん異論はない。しかしながら、その経済的負担の深刻さについての認識を深める必要がある。そうした負担を軽減するため、少なくとも、再生可能エネルギー事業者間においても競争原理を働かせる制度的な工夫をした上で、導入拡大を図っていくべきであろう。第3回において指摘した通り、7月に導入された全量固定価格買取制度は、「査定なき総括原価主義」に他ならない。

*1ユーロ 100円にて換算

(2012年10月22日掲載)

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竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員

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