原発への投融資をどう考えるか? 市民から金融機関への働きかけ

2012年12月25日 12:00
土谷 和之
国際青年環境NGO A SEED JAPAN

福島における原発事故の発生以来、世界中で原発の是非についての議論が盛んになっている。その中で、実は「原発と金融セクターとの関係性」についても活発に議論がなされているのだが、我が国では紹介される機会は少ない。

筆者がボランティアスタッフとして所属する環境NGO A SEED JAPANでは、2003年に、金融機関に環境社会配慮を求めるプロジェクト=エコ貯金プロジェクトを立ち上げた。エコ貯金プロジェクトでは、これまで兵器製造や原子力発電等の社会的なイシューに関して金融機関と対話するために、国際シンポジウムの開催や公開アンケートの送付などの活動を展開してきた。

本稿ではこうした活動の経験も交えながら、原発と金融セクターにまつわる議論を紹介するとともに、今後の展望について簡単に考察してみたい。

「金融」と「原発」の関係性が世界で注目

欧州における環境NGOの共同体である‘Nuclear banks, no thanks’ coalitionは、福島での原発事故発生直後、2011年3月15日付で緊急声明を発表した。この声明の中で、金融機関に対して原発関連事業への投融資の中止と、代替的な自然エネルギーなどへの投融資への切り替えを改めて求めた。

この共同体は2009年に世界の金融機関から原発関連企業への投融資の実態について調査しており、その中で我が国のメガバンクからも原発関連企業へ多額の投融資がなされていることを指摘している。その当時のデータによれば、三菱UFJから原発関連企業へ約54億ユーロ(約5994億円)、みずほから48億ユーロ(約5328億円)、三井住友から32億ユーロ(約3552億円)の投融資がなされ、そのうちの多くが東京電力などの日本の電力会社への投融資である(事故後、この金額は大きく変化している可能性がある)。

もちろん、電力会社への投融資がすべて原発関連事業にあてられるわけではないし、基幹産業としての電力事業を支えてきたメガバンクの役割自体は、一定の評価が与えられるべきだろう。

しかしメガバンクが地域独占産業である電力会社への投融資により、安定的な収益を確保してきたことも否めない。福島の事故を踏まえ、原発事業のリスクをどう認識し、エネルギー産業への投融資についてどのような姿勢で臨むかが、まさしく今、日本の金融機関にも問われていると言える。

また、国際環境NGOのGreenpeace も金融セクターと原発との関連性を独自に調査し、レポート「21世紀の不良資産 原子力への投資と東京電力福島第一原発事故」を2012年6月に発表した。

このレポートは、多くの金融アナリストや格付け機関が原子力発電の地震や津波に対する脆弱性、福島第一原発の原子炉の技術的な欠陥等を無視したことにより、金融機関が目先のキャッシュフローを重視した投融資を行った結果、原発事故により巨額の損失を被ったことを厳しく指摘している。

また国内の電力会社の最大株主である日本生命に対しては、脱原子力発電議案や再生可能エネルギー議案に賛同するように提案している。日本生命からは具体的なリアクションは得られなかったようだが、NGO側から金融機関に対して建設的な提言をしようとする動きは注目に値するだろう。

公開質問状から見える日本の金融機関の反応

さて筆者が所属する A SEED JAPANでもこの問題に注目し、2011年6月、電力会社への投資方針を問う公開質問状を電力会社主要株主とPRI(責任投資原則The Principles for Responsible Investment)(編集部注)署名機関に送付した。難しいテーマの質問状であったが、うち金融機関15社から回答を頂くことができた(回答結果の詳細はウェブサイト「電力会社の主要株主およびPRI署名機関に向けた公開質問状回答結果」を参照されたい)

本質問状ではまず、福島原発事故を受けて、電力会社への投資方針を見直しているか否かを問うた。この設問に対して、金融機関15社中3社が「投資方針を見直している(あるいは見直す予定である)」と回答した。

その3社は三井住友アセットマネジメント、太陽生命、日興アセットマネジメント。いずれもPRIの署名機関である。

見直しの内容について特に詳述してくださったのが太陽生命で、「原発問題や個別企業の業績等の影響をこれまで以上に注視するなどリスク管理を厳格化するとともにPRIの趣旨にある環境・社会・企業統治の観点からの確認も徹底」、「投融資にあたっては、上記の分析を踏まえ、慎重な対応を実施」と、明快な姿勢を打ち出している。

同社は我が国の生命保険会社の中で唯一PRIに署名しており、ウェブサイトでもその取り組み状況を開示しているが、その先進性がこの回答からも垣間見える。

一方、金融機関15社中12社は「取引先の与信方針については、開示を差し控えさせていただきます」等のコメントを寄せられており、投資方針を見直すか否かについては無回答であった。個別企業に対する投資方針を開示することにつながるため、慎重な対応を取られたと理解している。

ただその中で、多くの電力会社で上位株主である第一生命は「今後の投資については、電力事業を取り巻く状況について情報収集と調査分析を継続しつつ、適切に判断していきたいと考えております。」と欄外にコメントされている。

また、第一生命は「原子力発電及び代替エネルギーが将来的なエネルギー政策の中でどのように位置づけられるべきなのかについて、しっかりと情報収集と検討を継続していきたいと考えております。」ともコメントしており、エネルギー産業への投融資の在り方の見直しを検討していることは確かなようだ。

また、A SEED JAPANでは毎年メガバンクをはじめとする国内銀行、労働金庫、主要信用金庫を対象とした公開アンケートを送付しているが、今年のアンケートでは、今後の原子力発電事業への投融資方針や再生可能エネルギーへの投融資についても質問している(詳細はウェブサイト「「金融機関の社会的責任に関する公開アンケート(2012年度) 」
回答結果の公開
」。参照)。

原子力発電事業への投融資については、メガバンク3行は明確な回答を避けたが、一方で再生可能エネルギーへの投融資は3行いずれも「増やす」と回答しており、具体的な取り組みについても、「再生可能エネルギーに関し、経営直轄の組織横断的なタスクフォースを設置」(みずほコーポ―レート銀行)、「法人担当の社員向けに、各地域で再生可能エネルギー等に関する勉強会を定期的に開催」(三井住友銀行)といった前向きな回答が得られている。

メガバンクにおいても、エネルギー事業への投融資方針について、見直しが進んでいるものと考えてよいだろう。

金融と原発リスク 今後の展望

さて、脱原発も争点の1つであった衆議院選挙が終了した。自民党が過半数の議席を獲得したことで、国内のエネルギー政策も大きな変化があると考えられている。さっそく12月17日には東京電力の株価がストップ高になるなど、金融市場の反応も現れはじめた。

しかし、原子力発電が非常に高いリスクを有する技術であることに変わりはない。次の事故が発生した場合の損失を考えた場合、原発を保有する発電事業者への投融資を増やすことは得策だろうか。中長期的なエネルギー政策の在り方、原子力発電のリスクも踏まえた対応が、これから日本の金融機関にも必要となってくるだろう。市民やNGOも、預金者/投資家あるいは顧客としての視点から、金融機関の動向に注目していくべきだろう。

(編集部注)責任投資原則とは、国連と世界の金融機関の合議機関である国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)が2005年に作成。ESG課題(Environmental(環境)、Social(社会)、Corporate Governance(企業統治)における諸課題)を投資の意思決定プロセスなどに反映させるべきだとして掲げた目標。合意文章の署名企業の自主判断に委ねられるが、世界の主要金融機関が参加しており、事実上の世界ルールになっている。

(筆者注)本コラムの内容は筆者の個人的見解であり、所属するいかなる組織の意見も代表しない。

土谷和之・1977年生まれ。某民間シンクタンクに勤務するかたわら、国際青年環境NGO A SEED JAPANボランティアスタッフとして社会的金融や金融機関のCSRを推進する活動を展開する。

(2012年12月25日掲載)

This page as PDF
土谷 和之
国際青年環境NGO A SEED JAPAN

関連記事

  • 16年4月29日公開。出演は原子力工学者の奈良林直(北海道大学大学院教授・日本保全学会会長)、経済学者の池田信夫(アゴラ研究所所長)、司会は石井孝明(ジャーナリスト)の各氏。4月の九州地震、3月には大津地裁で稼動した高浜原発の差し止めが認められるなど、原子力の安全性が問われた。しかし、社会の原子力をめぐるリスク認識がゆがんでいる。工学者を招き、本当のリスクを分析している。
  • 関西電力は、6月21日に「関西電力管外の大口のお客さまを対象としたネガワット取引について」というプレスリリースを行った。詳細は、関西電力のホームページで、プレスリリースそのものを読んでいただきたいが、その主旨は、関西電力が、5月28日に発表していた、関西電力管内での「ネガワットプラン」と称する「ネガワット取引」と同様の取引を関西電力管外の60Hz(ヘルツ)地域の一部である、中部電力、北陸電力、中国電力の管内にまで拡大するということである。
  • 福島では原子力事故の後で、放射線量を年間被曝線量1ミリシーベルトにする目標を定めました。しかし、この結果、除染は遅々として進まず、復興が遅れています。現状を整理し、その見直しを訴える寄稿を、アゴラ研究所フェローのジャーナリスト、石井孝明氏が行いました。
  • 次にくる問題は、国際関係の中での核燃料サイクル政策の在り方の問題である。すなわち、日本の核燃料サイクル政策が、日本国内だけの独立した問題であり得るかという問題である。
  • 世界のマーケットでは、こういう情報が飛び交っているようだ。ロイター(−7.1%)や日経(−8%)も含めて、日本の4~6月期の実質GDPはリーマンショック以来の落ち込みというのがコンセンサスだろう。これは単なる駆け込み需要の反動ではなく、本来はもっと早く来るはずだった供給ショックがアベノミクスの偽薬効果で先送りされた結果である。その意味で、これは1970年代の2度の石油危機に続く第3のエネルギー危機とも呼べる。
  • 国際環境経済研究所(IEEI)版 新型コロナウイルスの緊急事態宣言が7都府県に発令されてから、およそ3週間が経ちました。様々な自粛要請がなされる中、宣言の解除予定である5月を心待ちにされている方もいらっしゃると思います。
  • GEPRフェロー 諸葛宗男 はじめに 米国の核の傘があてにならないから、日本は核武装すべきだとの意見がある。米国トランプ大統領は、日本は米国の核の傘を当てにして大丈夫だと言いつつ日本の核武装を肯定している。国内でも核武装
  • アメリカは11月4日に、地球温暖化についてのパリ協定から離脱しました。これはオバマ大統領の時代に決まり、アメリカ議会も承認したのですが、去年11月にトランプ大統領が脱退すると国連に通告し、その予定どおり離脱したものです。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑