僕が原発を捨てきれないわけ

2013年03月11日 15:00
高嶋 哲夫
作家

二つの悲劇大きなカン違い

「海岸に沿った建物の半分以上が消え、残っている建物もどこかに被害を受けている。海岸線に沿って内陸の多くの場所がまだ水没している。日本の町とは信じられなかった。海岸線には、砂浜の代わりに瓦礫の山が続いている。地震で破壊された住宅の残骸が津波で海に運ばれ、再び海岸に打ち上げられたのだ。あの中にはおそらく多数の——」(『TSUNAMI』集英社文庫)

2年前の東日本大震災は地震と津波による災害と共に、もう一つの大きな災害をもたらした。福島第一原子力発電所の原子力事故である。この事故は近隣の市町村に放射能汚染をもたらし、多くの住人が2年経った現在もわが家に帰れないという悲劇をもたらしている。そして、廃炉に用する年月は40年ともいわれている。

さらに、日本のエネルギー政策のみならず、世界のエネルギーの未来に対しても大きな影響を与えた。

「原発の安全神話」が崩れ、日本においては一時、原発50基あまりのうち、稼働原発ゼロという状態にまでなった。

このような事態になったのは、日本の大部分の人が、原発=福島第一原発と考えていることだ。これは大きな間違いだ。

造られた年代も、型式も、製造メーカーも、立地場所も各々違っている。また、沸騰水型と加圧水型、原子炉の種類の違いも考慮されなければならない。車でいえば、40年前の欠陥外車と、最新式の国産車の安全性が同じはずがない。

確たる根拠もなく、早々と止めてしまった浜岡原発が造られたのは2006年だし、大飯原発が出来たのは1990年代だ。福島の事故を考慮して、全電源喪失に対する備えも見直している。実際、東日本大震災でも、このような過酷事故になったのも福島第一だけで、他の原発は冷温停止している。一時、避難所になっていた原発さえある。

そして今、日本では原発依存度を減らしていこうという意見が大半である。

去年の夏も、今年の冬も原発なし、あるいは数基稼働の状態で乗り切ったし、今後も乗り切れるだろう。自然エネルギーの利用を伸ばせば原発ゼロでも大丈夫、というわけだ。

世界を見よう 70億人の中の日本

世界はどうだろうか。欧米は原発見直しが叫ばれたが、中国は2020年までに32基を計画。インドは16基、トルコは5基。石油資源の豊富なはずのアラブ諸国まで10基の原発建設計画を持っている。

さらに、2030年までに中国、ベトナム、インドネシアなどアジアで200基以上、世界では現在の約430基から800基への増設計画がある。

日本の動向にかかわらず、世界は原発建設に動いているのだ。それはなぜか。

世界の人口は中国13億人、インド11億人、アメリカ3億人、インドネシア2億4000万人。そして日本は10位の1億3000万人。計70億の人がいる。

その中で、世界の国別電力使用量はアメリカ22%、中国19%、日本5%。インドはわずか4%だ。

つまり、世界における人口割合では5%にすぎないアメリカが世界の電力使用量の22%を占め、人口割合17%のインドは電力を4%しか使っていない。

世界の大部分の人たちは世界平均以下の電力しか使っていないのだ。

地球上に暮らすすべての人々が、日本やアメリカ並みに電力を使う権利があり、それを実際に望んでいるのだ。暑いときには涼しくなりたい。寒いときには暖かくなりたい。テレビを観たい、いい音楽を聴きたい。これは人間としての当然の欲求だ。

中国やインドなど発展途上国の人たちが日本やアメリカ、ヨーロッパなみにエネルギーを求めると、エネルギー情勢は5年、10年単位で大きく変わっていく。厖大な量のエネルギーが必要となる。

今後、地球温暖化もますます加速される。そうした状況を考えると、日本一国でアタフタしているだけではダメで、世界的なスケールで物事を考えていかなければ日本も世界も成り立たない。

こうした状況を考えると、エネルギー密度が高く、二酸化炭素を出さない原発は、やはり捨てがたい技術だ。しかしながら、その危険性、溜まり続ける放射性廃棄物の問題は残されている。

科学技術の可能性 時間軸の重要性

東日本大震災から半年後、気仙沼に行った。

荒野と化した町が続き、各所に高く積み上げられた瓦礫の山があった。人の姿はほとんど見られない。

そして2年後、やはり何もない町の跡が広がり、復旧とは程遠い状態だった。

阪神・淡路大震災のとき、半年後の神戸は人で溢れ、2年後には、形だけはもとの神戸を取り戻していたのではなかったか。

復興のみならず復旧すら進まない理由の一つに、被災地のグランドデザインが決まらないことがある。あるいは壮大すぎるのだ。次の巨大地震、津波にも耐える町づくりを目指しているのだ。高台移転や港の底上げなど方法は色々あるらしいが、そのどれもが巨額の資金と時間のかかるものだ。

しかしながら、1000年、600年に一度の大災害を今から考え悩む必要はないのではないか。まずは、復旧に全力を尽くすべきだ。そして未来のことは未来に任せる。

科学技術は指数関数的に発達している。特にここ数十年の進歩は著しい。

100年後には100年後の科学技術があり、知恵がある。その時代の科学、技術を使って災害に備えればいい。

「高レベル放射性廃棄物処分」に関しても同じではないか。

地下何百メートルもの穴を掘って埋めてしまうなどというバカげた考えは捨てて、「使用済み核燃料管理保管施設」を造り管理すればいいのだ。そして、100年、200年ごとに見直していく。

100年後、現在の数100倍、堅固で安全な貯蔵容器が作られているかもしれない。200年後、放射性物質の半減期を著しく早める装置や、または薬品が開発されているかもしれない。廃棄物のほとんど出ない、ビル一棟ほどの大きさの原子炉が一般的になっているかもしれない。またさらに、現在ゴミとして廃棄に苦慮している高レベル廃棄物も新たな利用方法が発見されるかもしれない。いや、発見するのが科学技術の進歩というものだ。

原発自体にも、新たな技術革新が起こるだろう。

現在も、ある企業では燃料交換なしで30年間稼働出来る、1万キロワット規模の小型原子炉を建設する計画があると聞く。このナトリウム冷却高速炉は、人的操作がなくても自然に炉停止・除熱を行ない、自然現象を活用した安全設計になっている。万が一の事故時でも影響の出るのは半径20メートル程度という小型原子炉らしい。

また「進行波炉(TWR)」という新型原子炉の開発も進んでいる。劣化ウランを燃料に使った、燃料補給なしに最長100年間稼働可能な次世代原子炉だ。

そして、さらなるフールブルーフ、フェールセーフ機能の充実を図り、より安全な原発を造ることも可能である。

こうした技術が現実のものとなれば、日本での原発復活も夢ではないだろう。

そして大切なことは、そうした未来に向けての科学技術の芽をつみ取らないことだ。そして時々立ち止って過去と現在を見直し、この大きな悲劇を後に伝えていくことではないか。それによって、あとは未来の人が未来の科学技術と知恵を駆使して解決していけばいい。

今世紀末には地球上の人口は100億人に達すると言われている。その人々が同様に豊かで便利な生活を送るためには、様々なエネルギー源を模索しておかなければならない。

日本の責任と義務 日本を原発の中心に

日本はさておき、世界は原発建設に向かっていくことは述べた。

実は3・11の前に、一冊の本を書いていた。『原発NEXT』という本だ。内容は、日本が世界に最も誇れるのは新幹線と水処理施設などの大規模インフラ、そして原発だ。つまり、これらのものを輸出の三本柱にするということだ。ちょうど、世界の流れとして発展途上国は「原発を造る」という前提で動いていた。

ほんの2年前まで、日本の原発技術は、フランスに並んで世界でトップクラスだと信じていた。その安全で効率的な原発を、世界に輸出すべきだと。今世界の原発輸出でリードしているのは、ロシアと韓国だ。ロシア製や韓国製の原発が世界中にできていくのは、ある意味非常に怖いのではないか。だとしたら、日本の優れた技術を生かした原発を輸出していくことが、日本のみならず世界のためになると考えた。

しかし3・11以後、日本は脱原発の渦に呑み込まれた。

だが、原子力に関しての日本の役割は今までよりさらに大きくなったといえる。

まず、早急に必要なのは福島を起点とした、国の「事故総轄センター」の設立である。現在、原発事故関係の資料を集めるには、様々な研究機関、大学、さらには企業のデータベースにアクセスしなければならない。そして得られる資料、数値もさまざまである。これまでも、国の発表すら各種の数値がコロコロ変わってきた。これでは国民は何を信じていいのか分からず、増すのは不信ばかりだ。

情報発信を一元化し、必要な情報はそのセンターに問い合わせれば、正確で信頼できるモノが得られる。除染や廃炉を含めて最高のアドバイスができる組織を福島の地に作るべきである。日本の英知のみならず、世界の英知を集めて取り組まなければならないことだ。

日本はこの大きな悲劇を詳しく正確に、世界と未来に伝えていくことが義務であり、使命である。

次に、世界中に作られつつある原発の安全性に対する世界基準の確立である。原発事故の恐ろしさは、国境を越えて広がることだ。取り返しのつかない事故を起こした日本が、ぜひ提唱して実現してもらいたい。

同時に重要なのは、原子力関係の技術者の養成である。今回の事故後、原子力関係に進む学生が激減したと聞いている。今後、廃炉を含めてますます多くの人材が必要となる。

エネルギーは、いわば連立方程式の一つの解だ。経済、工業、人々の生活、地球環境、資源、政治など様々な要素が複雑にからみ合っている。これらを解にした連立方程式なのだ。その式の一つの係数が変わると、すべての解に影響が出る。その影響をうまく修正して答えを出す必要がある。

やはり日本は、世界から期待される国であってほしい。そのためには、70億人の中の1億3000万人であるということを意識しながら、よりよい解を見つけ出していく必要がある。

高嶋 哲夫(たかしま てつお)1949年7月7日、岡山県玉野市生まれ。慶應義塾大学工学部卒。同大学院修士課程を経て、日本原子力研究所研究員(1979年、日本原子力学会技術賞受賞)。その後カリフォルニア大学に留学。帰国後、作家に転身。『帰国』で第24回北日本文学賞、『メルトダウン』で第1回小説現代推理新人賞、『イントゥルーダー』で第16回サントリーミステリー大賞の大賞・読者賞をダブル受賞。2007年『ミッドナイトイーグル』が映画化されている。詳細な取材と科学知識に基づくクライシス、災害を題材にした迫真性のある小説で知られる。最新刊は『東海・東南海・南海 巨大連動地震』(集英社新書)。(オフィシャルホームページ

(2013年3月11日掲載)

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