“電力システム改革”を改革すべし!(その1)

2013年07月08日 14:00
石川 和男
政策家

電気事業法改正案とは何か

先の国会の会期末で安倍晋三首相の問責決議可決などの政治の混乱により、政府が提出していた“電気事業法変更案”(※1)が廃案になった。報道(※2)によると、安倍首相は「秋の臨時国会で直ちに成立させたい」と述べたそうだ。
(※1)経産省公表資料
(その1)「電気事業法の一部を改正する法律案」が閣議決定されました
(その2)電気事業法の一部を改正する法律案の概要
(その3)電気事業法の一部を改正する法律案の概要(図表)

(※2)「首相、電事法改正案「秋の臨時国会で成立を」 党首討論」日本経済新聞7月3日記事

この制度変更案は、
 ①広域系統運用機関の設立
 ②電気事業参入の全面自由化
 ③電力会社の発送電分離と電気料金の全面自由化
を段階的に行うことを予定している。

私はこれらの段階的な制度変更案うち、特に②と③には絶対反対であり、これまでも様々な媒体で反論理由と対案の提示をしてきた。適宜、御参照されたい。

私は以前、電力・ガス制度改革に何度となく直接携わったことがあるが、その経験をも踏まえて考えるに、今回の“電力システム改革”と、それを実施するための“電気事業法変更案”は、需要側の観点から実利がないこと及び料金値上げ自由化を容認するものであること、供給側の観点から新規参入の実ビジネスニーズがないこと及び原子力発電の将来を全く考慮していないこと等を主な理由として、反対の立場を取らざるを得ない。

改革案の問題を指摘する

ところで、この制度変更案の根拠となっているのが、経済産業省・総合エネルギー調査会総合部会に置かれた“電力システム改革専門委員会(委員長:伊藤元重・東京大学大学院経済学研究科教授)”の報告書(※3)である。
(※3)電力システム改革専門委員会報告書

この報告書をとりまとめた伊藤教授が本年4月、“日本の電力システムを創造的に破壊すべき3つの理由”と題する論考(※4)をウェブ上で公開した。
(※4)ダイヤモンドオンライン、2013年4月15日日本の電力システムを創造的に破壊すべき3つの理由(上)

ダイヤモンドオンライン、2013年4月22日「日本の電力システムを
創造的に破壊すべき3つの理由(下)」伊藤元重
   

これを拝読したところ、事実誤認の可能性も含めて、私とは見解を異にする部分が散見された。伊藤教授を始めとした同委員会の委員各位及び資源エネルギー庁事務当局が、この伊藤教授の論考に書かれているような認識で制度変更案を検討してきたとすれば、やはり電気事業の実態を殆ど勘案できていないように思えてならない。

安倍政権は、秋の臨時国会に、“電力システム改革”を実現するために、先に廃案となったものと同じ法案を再提出するのであろう。

私としては、この法案が同じ内容で再提出される見込みが高いことを見据え、「“電力システム改革”を改革すべし!」と強く進言するため、本稿で問題提起をしていきたい。

以下では、先の伊藤教授の論考を引用しながら、私の見解を述べていく。

コメを例として考えてみればよい。関西電力という農家が作ったコメを関西電力という流通チャネルを通じて購入するようなものだ。これだけの地域独占と垂直統合が残っている分野は、電力以外にはあまり残っていない。
 それでも世界の電力システムが同様のものであれば、電力独特の技術的な事情があると考えることもできよう。しかし、事実はそうではない。欧州でも米国でも、発送電分離を前面に出した改革が次々に進められてきた。公共的な色彩の強い送配電分野は公共利益に合致するように規制し、発電については自由な競争と参入を促してきたのだ。
 国によって、あるいは米国では地域によって、発送電分離の形態は異なる。また、米国ではジョージア州など発送電分離が行われていないところもある。ただ、欧米の専門家に話を聞けば、大半の人が発送電分離は当然のことであり、垂直統合的な形態を維持している日本の仕組みは、時代に合っていないと指摘する。

議論の問題の指摘

(1)“発送電分離”は時代の趨勢なのか?

この部分については、二点指摘しておきたい。

第一に、「欧州でも米国でも、発送電分離を前面に出した改革が次々に進められてきた」のは事実なのであろうが、発送電分離を前面に出した制度変更により、電気料金水準の低下といった需要家利益の増進に係る成果が現れているかどうかの評価が全くない。

私が調べたところでは、欧米の電気料金水準の推移は、下図の通りである。これを見る限り、電気料金水準は上昇基調である。私には、これは需要家利益の増進どころか、需要家利益を減退・阻害させているとしか見えない。

電気料金水準は、電力行政における枢要な要素の一つである。それに対する評価が全くない中で、単に“電力業界再編の学術論的な醍醐味”だけが、あたかも金科玉条の如く認識されているように思われる。

もとより「発送電分離を前面に出した改革」は目的ではない。目的は、電気料金水準を上昇させることを極力排除する等を通じた需要家利益の増進であり、その手段としてこのような改革が相応しいのかどうかを検証しなければならないはずだ。しかし、それはなされていない。

そうした検証や評価がなければ、日本も欧米のように発送電分離行う必要があるとか、時代に合っていないなどと断定するのは甚だ早計である。

かつて我が国でも、「バスに乗り遅れるな!」といった論が喧しかったEU排出量取引制度(EU-ETS)というのがあったが、これと何ら変わらないのではないか。そのEU-ETSは、排出権価格の低迷から、今や制度自体が存亡の危機にある。“電力システム改革”が、これの二の舞になる可能性があることを強く危惧している。

(2)“発送電分離 = 組織分離”ではない

第二に、“欧米は発送電分離、日本は垂直統合”といった二分法で論じるのは単純に過ぎる。電力システム改革の議論において、分離(アンバンドリング)というと、電力会社への懲罰的な意味も含めて、電力会社を発電会社と送電会社に分離することと捉えている向きが多いように思われる。先の論考でも、日本では発送電分離が行われていないような記載となっているが、それは厳密には正しくない。

発電・小売事業を自由化し、新規参入を可能とするには、送配電ネットワークの利用が不可欠であることは言うまでもない。だから規制当局(政府)は、送配電ネットワークを保有する事業者(電力会社)に「全ての事業者に公平な条件で送配電ネットワーク利用を可能とすること」を義務付けるとともに、これが貫徹するように規制を運用する。これが『発送電分離』の本質である。

即ち、工場やオフィスビルなど大口需要家には電力小売が自由化されている現状を考えれば、現在の日本でも『料金・会計の分離』という形による発送電分離は既に行われているというのが正しい。

これは、日本の電気通信事業においても同じである。通信自由化における分離(アンバンドリング)は、NTTが保持している電気通信設備を細分化して、新規参入者に利用可能とすることであるが、NTTの組織がその区分に応じて分社化されているわけではない。この場合の分離も、現行の電気事業に類似した料金・会計の分離である。

(3)『分離の現状』に関する検証はないに等しい

したがって、厳密な意味において、発送電分離の在り方を論じるのであれば、論点は「これから発送電分離をやるかどうか」ではなく、需要家利益の増進のために「発送電分離をどの程度までやるか」である。

そのためには、『分離の現状』を吟味して、それが需要家利益の増進の観点から十分か不十分かについての具体的な評価が必要である。だが、電力システム改革専門委員会でそれが十分吟味されたとはとても思えない。

第4回目の同委員会に提出された事務局資料には、「送配電部門の中立性に疑義があるとの指摘(事業者の声)」と題して、新規参入者(新電力)から寄せられた事例が8つ記載されている。この疑義が本当に問題なのかそうではないのかに関しては、ついに議論されることはなかった。

ここで一例だけ吟味してみる。

事例4.域内送電利用ルールの透明性・合理性

〇発電事業者Cは、一般電気事業者から「送電線の容量が厳しい」との指摘を受け、電源の稼働率の低下を余儀なくされた。

〇他方、同じ送電線を経由して送電を行う一般電気事業者の電源は、明らかに発電効率の悪い電源も含めて稼働している。

〇一般電気事業者自身が設定・運用する域内送電線利用ルールでは、電源が立地された順に優先的に送電線の利用が認められるため、結果として、発電効率や環境適合性の低い電源が優先されるとの指摘がある。

まず、「一般電気事業者自身が設定・運用する域内送電線利用ルールでは、電源が立地された順に優先的に送電線の利用が認められる」というのは、間違いだ。「送電線利用は先着優先」というのは、日本の送電線で適用されている一般原則である。

この原則は一般電気事業者だけで決めたものではなく、系統利用者も含めた関係者の総意で決めたルールであって、一般電気事業者はこの一般ルールを忠実に運用しているに過ぎない。したがって、この事例をもって中立性に疑義があるという指摘はまったく当たっていない。

先着優先ルールに不満があるならば、発電事業者Cはルールの変更を提案すべきであろう。自らの電源の方が発電効率や環境適合性が優れているから優先して使わせろと主張するのであれば、仮に一般電気事業者の電源がリプレースによって更に発電効率や環境適合性の高い電源となった場合には送電線の利用権を譲らなくてはならない。そこまでする気があっての「声」なのかどうか、甚だ疑わしい。

いずれにせよ、これらの事例については、不満があるならばルールの変更を提起すべきなのであって、一般電気事業者の中立性への疑義とは関係がない。こういう指摘が全くなされない中で“法的分離”が方向付けられたことは不可解である。

この電力自由化論については今後、GEPR、また霞が関政策総研ブログで公開する。

石川和男 
社会保障経済研究所代表 政策家
東京大学工学部卒業。1982年通商産業省(現・経済産業省)入省。2007年同省退官。内閣官房などに勤務した後、内閣府・行政刷新会議などの委員を歴任。11年9月社会保障経済研究所を設立し代表に就任。NPO、消費者、社会保障制度に詳しく、経産省時代はエネルギー政策の企画、新エネルギー振興策にかかわった。現在は政策研究大学院大学客員教授等も務める。

(2013年7月8日掲載)

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