海外の太陽、風力エネルギー資源の利用拡大を図ろう(下)

2013年07月29日 11:00
塩沢 文朗
国際環境経済研究所主席研究員 元内閣府大臣官房審議官(科学技術政策担当)

コラム(上)で、日本は、エネルギーの安定供給の確保と2050年に向けたCO2の大幅削減のため、再生可能エネルギーを大量に導入することが必要であり、そのためには海外の太陽、風力エネルギー資源の利用拡大を図らなければ、その実現は困難であることをご説明しました。

海外の太陽、風力エネルギー利用技術開発の重要性

「海外の太陽、風力エネルギー資源への依存が不可欠」という認識に立った時、「海外の太陽、風力エネルギー資源を利用して、如何に大量かつ安価なエネルギーを製造し、それをどのように日本に運んでくるか」ということが重要な課題となります。

まず、海外の質の高い太陽光・熱、風力資源の特長をフルに活用して、コストの安いエネルギーを得るためには、エネルギーの利用技術を海外資源の状況に合ったものに変える必要があります。例えば海外の太陽熱資源は、利用可能な時間帯、エネルギーの強度、利用可能な波長域などが日本国内のそれとは異なります。このため、日本国内で得られるエネルギーの質の制約によって技術的、経済的に利用困難あるいは不利であった技術が、海外の条件下ではより競争力のある技術となり得るからです。

また、海外資源の状況に合った利用技術開発をすることは日本の技術の競争力を高める観点からも重要です。日本の国内資源を前提とした利用技術開発だけでは、前回のコラムに記したように日本のエネルギー問題を解決できないばかりか、利用技術の主戦場となる太陽、風力エネルギー資源に恵まれた地域で日本の技術は遅れをとってしまうでしょう(注1)

海外の太陽、風力エネルギーをどのように運んでくるか

次に海外で太陽、風力から得たエネルギーをどのように日本に運んでくるかを考える必要があります。太陽エネルギーは電気または熱に、風力エネルギーは電気に変えて利用することが一般的ですが、電気や熱を大量に、かつ、遠距離運ぶことは大変に困難であり、また、コストもかかります。このため、太陽エネルギー、風力エネルギーを運搬可能な化学物質(化学エネルギー)に変えて利用することが合理的です。地球上に豊富に存在する水を利用してこれらのエネルギーを水素に変えれば、(後述するような困難はあるものの)船などで運搬することが可能となり、また、水素として使えば、CO2を出すこともありません。

この水素の利用技術開発や関連インフラに関する導入支援などは、既に政府によって行われています。ただ現在のような規模では、大量の再生可能エネルギーを導入するためには不十分です。

現在、水素を燃料とする燃料電池自動車を2025年までに250万台、家庭用の定置型燃料電池を2030年までに530万台導入するための水素導入計画が進められていますが、これだけの水素を導入しても、そのエネルギー量は2030年までに日本の一次エネルギー供給量の1〜2%を置き換えるに過ぎない量なのです。

日本の化石燃料への依存度を大きく減らし、CO2排出量を年までに90年比80%削減するためには、この数十倍の水素を海外の太陽、風力エネルギーから安価に製造し、輸送・貯蔵する方策を、今から検討しておく必要があります。ちなみに、現在の水素導入計画は、海外から輸入した原油や天然ガスから分離した水素を利用することを前提としているので、この程度の規模にとどまっているのです。

ただ、水素もこれを大量に取り扱う(運ぶ、貯める、使う)ためには、もう一工夫が必要となります。水素は、化学エネルギーとしては極めて有用な物質ですが、水素は超低温(マイナス253℃)まで冷却しないと液化しませんし、液化しても外部からの自然入熱によるボイル・オフ(自然蒸発)を止めることはできません。

また、水素は漏洩すると爆発する危険性が大きい物質ですが、水素は金属を脆くする性質があるため、容器には炭素繊維などの高価な材料を用いる必要があります。さらに、水素には臭いが付きにくいため、漏れているかどうかが分かりにくいという問題もあります。こういった事情で水素を取り扱うことは容易ではありません。

これまでの技術開発によって、水素の輸送・貯蔵技術にもかなり目途がついてきたと言われていますが、大量、かつ、遠距離(長時間)の輸送・貯蔵となるとまだまだ課題は多く、水素が再生可能エネルギーの大量導入手段となり得るかどうかは、技術的にも、経済的にもかなり疑問です。

そうしたことから、これまでの取組みに加えて水素を輸送・貯蔵が容易な別の物質(水素キャリア)に変えて運搬し、利用することを考えることも必要です。アンモニア、メチルシクロヘキサンなどがこういった物質の候補として提案されています。水素キャリアは、利用の際に再び水素を取り出して使う物質のことですが、アンモニアは水素キャリアになるだけでなく、それ自身が燃えるので、そのまま発電タービンや工業炉などの燃料及び燃料電池の燃料としても使える可能性があります。(この場合、アンモニアは水素キャリアではなく、エネルギー・キャリアと呼ぶべきでしょう。)つまり、アンモニアは、大量の化石燃料を代替するCO2フリーの燃料となる可能性があります。

これらの水素キャリア、エネルギー・キャリアとなる物質には、それぞれの特徴があります。ここで大事なことは、それぞれの物質の特徴と用途や使用条件を踏まえつつ、複数の大量導入シナリオを想定して、複層的な調査研究や技術開発を進めていくことです。今後、さまざまな予測不能な環境変化が起きることが間違いない中で、コストを含むシナリオ間の優劣は、大きく変わり得ますから。

また、こうした化学エネルギーの研究開発を進めることは、実は、国内の太陽、風力エネルギーの利用拡大にも役立ちます。何故なら、太陽、風力エネルギーを化学エネルギーに変えて貯めておくことによって、これらエネルギー資源の本質的、かつ、重大な欠点、すなわち、利用可能なエネルギー量の時間的変動が極めて大きいという問題を克服できるからです。しかも、蓄電池などを利用するよりはかなり経済的に・・・。

これまで、再生可能エネルギーは、夢のエネルギーともてはやされながらも、日本のエネルギー需給の将来においては、どちらかといえば主役というよりは、お客様のような扱いを受けていたのではないでしょうか。日本のエネルギー需給に係る制約要因を直視したうえで、再生可能エネルギーが将来的に担うべき役割を見直し、量的にも質的にもその大きさに相応しい取組みを、長期的観点に立って早急に開始する必要があると思います。

(注1)これまで行われてきた太陽、風力エネルギー利用技術開発が、国内のエネルギー利用を前提としたものに限られていた理由としては、技術開発の財源となっているエネルギー特別会計の制約があるとも言われています。

(2013年7月29日掲載)

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塩沢 文朗
国際環境経済研究所主席研究員 元内閣府大臣官房審議官(科学技術政策担当)

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