人類の放射能への恐怖は間違っている

2014年01月14日 14:00
ウェイド・アリソン
オックスフォード大学名誉教授(物理学)

シンクタンクのアゴラ研究所(東京)は昨年12月8日に、シンポジウム「持続可能なエネルギー戦略を考える」を、東京工業大学(同)で開催した。そこで行われた基調講演の要旨を紹介する。(紹介記事「アゴラシンポジウム「持続可能なエネルギー戦略を考える」報告」

信頼の回復をどうするか

文明はエネルギーと社会を構成する信頼を必要とします。残念ながら、福島第一原発事故によって、残念ながらその両方が傷を受けました。

原発事故では3つの原子炉が壊れ、放射性物質を放出しました。しかしながら、それは微量であり、人の健康への影響はほとんどないでしょう。現時点まで放射能の影響による直接の死傷者は出ていないし、これからも出ないと、科学者として私は判断しています。東日本大震災の被害の中心は津波であったのです。

ところが原発事故では不安と恐怖が、世界と日本に広がりました。その多くは、必要のないものでした。福島では避難が長期化することで、避難者に健康被害が広がっています。また福島の放射線防護対策や事故処理では、安全性に配慮して必要以上にコストがかかっている面があります。

リスクの正しい評価を

放射線は私たちの目に見えず、なじみがないように思える存在です。しかし私たちは、宇宙からの放射線を毎日浴びています。生物は長い年月、放射線にさらされ進化してきました。確かに放射線に過剰に当たると人体に悪影響が起こります。しかし保護するメカニズムが体にあるのです。そしてがん治療など医療分野や工業で、放射線は利用されているのです。

こうした科学的事実を考えれば、放射能のリスクは、社会的に過大に評価された面があるのです。これは恐怖という感情が影響しています。それが影響して、バランスの欠いた形でニュースが流れ、人々は影響を受けてしまいます。

国際的な放射性防護基準は、かなり厳しいものです。ICRP(国際放射線防護委員会)は、どんな被ばくでも「合理的に達成可能な限り低い(ALARA:As Low As Reasonably Achievable)」レベルにすることを勧めています。「自然放射線に追加して年間1マイクロシーベルト(mSv)程度」の被ばくに抑えるべきだという内容です。

これは厳しすぎます。一度に大量ではなく少しずつ放射線を浴びた場合に、健康被害は観察されていません。おそらく基準を1000倍程度にしても大丈夫でしょう。

日本では福島事故の後で被ばくの安全基準が厳しくなりました。食品の場合には、「1キログラム当たり100ベクレル」という基準です。ICRPのALARAの基準が採用されています。

ところが実際の数値を考えてみましょう。この基準上限の食品を毎日5トン、3カ月間食べても、CTスキャン1回分にすぎません。放射線の基準を厳しくするほど、社会が負担するコストが増えていくのです。

こうした科学的事実を知れば、過度に危険を警戒することもなくなるはずです。リスクに応じた合理的な対策を行うべきなのです。

私は核物理学を大きく進歩させた物理学者のマリー・キューリー(1867—1934)の言葉を思い出します。「人生において怖れることは何もない。ただ理解すべきことがあるだけだ」。重要な問題について、理解のないまま民主主義に基づく政治が行われることは危険です。

日本人の正しい選択を期待

世界はエネルギーをめぐる問題にあふれています。エネルギー不足、また化石燃料の枯渇の危険、また気候変動の問題があります。大量に発電でき、また温室効果ガスの一つである二酸化炭素(CO2)を排出しない原子力発電は、地球規模の問題を重要な対策になります。原子力を利用しないことは、そうしたエネルギー使用の問題を続けてしまうことになります。

図1

国連(UN)や他の行政機関のバランスを書いた狭い視点の規制のイメージ。今、いくつかの国の有権者がそれを直面している。

(「核の安全のコスト」と書いたシャツを着た重い豚さんが、「高価格」「化石燃料の環境影響」という小さな豚さんをはねとばしている。「ガスと電力価格を今下げろ」と人々が圧力をかける。この状況を「ガス」「オイル」「石炭」という服を着たビジネスマンが高笑いしている)

人類は数万年前、火を発見して利用しました。動物がそうであるように、火を使うことを警戒した人はいたでしょう。確かに火は誤って使えば、けがをしてしまいます。ところが、そうしたグループはその後、暖房、温かい食事などにありつけなかったでしょう。技術革新を手に入れた場合に、理性を使って、適切に用いることのできる人が、豊かさを享受できるのです。原子力でも同じことが言えます。

図2

おそらく紀元前2万5000年に起こった、「火の利用反対党」が直面した現実。「環境を守れ」「火を止めろ」「安全第一」と書いたプラカードを持つ人が、凍えている。

日本は科学技術が進み、人々の教育水準が高いことで、世界の尊敬を集めています。福島事故でも日本の皆さんは、適切な対応をするでしょう。また私は日本の原発の対策を見たいと思いました。中部電力の浜岡原発を見る機会がありました。その防備体制は徹底したものでした。

このような取り組みを考えれば、日本は安全で効果的な原子力の利用をこれからも行えるでしょう。

(2014年1月14日掲載)

This page as PDF
ウェイド・アリソン
オックスフォード大学名誉教授(物理学)

関連記事

  • 1986年4月26日に発生したチェルノブイリ原子力発電所原子炉の事故は、原子力発電産業においてこれまで起きた中でもっとも深刻な事故であった。原子炉は事故により破壊され、大気中に相当量の放射性物質が放出された。事故によって数週間のうちに、30名の作業員が死亡し、100人以上が放射線傷害による被害を受けた。事故を受けて当時のソ連政府は、1986年に原子炉近辺地域に住むおよそ11万5000人を、1986年以降にはベラルーシ、ロシア連邦、ウクライナの国民およそ22万人を避難させ、その後に移住させた。この事故は、人々の生活に深刻な社会的心理的混乱を与え、当該地域全体に非常に大きな経済的損失を与えた事故であった。上にあげた3カ国の広い範囲が放射性物質により汚染され、チェルノブイリから放出された放射性核種は北半球全ての国で観測された。
  • 雑誌「プレジデント」の4月14日号に、「地球温暖化か、貧困か」とのサブタイトルで「 雑誌「プレジデント」の4月14日号に、「地球温暖化か、貧困か」とのサブタイトルで「注目のキーワード‐エネルギー貧困率」についての私のコメントが掲載された。記事の一部が分かり難いので、少し詳しく説明したい。
  • 福島の原発事故から4年半がたちました。帰還困難区域の解除に伴い、多くの住民の方が今、ご自宅に戻るか戻らないか、という決断を迫られています。「本当に戻って大丈夫なのか」「戻ったら何に気を付ければよいのか」という不安の声もよく聞かれます。
  • 東日本大震災と原発事故災害に伴う放射能汚染の問題は、真に国際的な問題の一つである。各国政府や国際機関に放射線をめぐる規制措置を勧告する民間団体である国際放射線防護委員会(ICRP)は、今回の原発事故の推移に重大な関心を持って見守り、時機を見て必要な勧告を行ってきた。本稿ではこの間の経緯を振り返りつつ、特に2012年2月25-26日に福島県伊達市で行われた第2回ICRPダイアログセミナーの概要と結論・勧告の方向性について紹介したい。
  • 12月22日に開催された政府の地球温暖化対策推進本部の会合で、本部長を務める安倍晋三首相が来春までの温対計画策定を指示しました。環境省の中央環境審議会と、経済産業省の産業構造審議会の合同会合で議論が始まっています。
  • チェルノブイリ原発事故によって放射性物質が北半球に拡散し、北欧のスウェーデンにもそれらが降下して放射能汚染が発生した。同国の土壌の事故直後の汚染状況の推計では、一番汚染された地域で1平方メートル当たり40?70ベクレル程度の汚染だった。福島第一原発事故では、福島県の中通り、浜通り地区では、同程度の汚染の場所が多かった。
  • 上野から広野まで約2時間半の旅だ。常磐線の終着広野駅は、さりげなく慎ましやかなたたずまいだった。福島第一原子力発電所に近づくにつれて、広野火力の大型煙突から勢い良く上がる煙が目に入った。広野火力発電所(最大出力440万kw)は、いまその総発電量の全量を首都圏に振向けている。
  • 福島の原発事故では、原発から漏れた放射性物質が私たちの健康にどのような影響を与えるかが問題になっている。内閣府によれば、福島県での住民の年間累積線量の事故による増加分は大半が外部被曝で第1年目5mSv(ミリシーベルト)以下、内部被曝で同1mSv以下とされる。この放射線量では健康被害の可能性はない。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑