原発は、今の規制で安全になるのか【言論アリーナ・要旨】

2014年03月17日 13:00

言論アリーナ・本記


左から石川氏、池田氏、岡本氏

アゴラ研究所のインターネット放送コンテンツ、「言論アリーナ」で2月25日放送された番組「原発は新しい安全基準で安全になるのか」の要旨を紹介する。

出席者は東京大学教授(大学院新領域創成科学研究科)の岡本孝司氏、政策家の石川和男氏、アゴラ研究所所長の池田信夫氏だった。モデレーターは石川氏が務めた。岡本氏は、茨城県東海村からの出演だった。

法的根拠のない稼動の停止

石川・原子力規制委員会(以下規制委員会)が安全審査を行っています。安倍晋三首相は1月の国会の所信表明演説で、規制委員会が安全を確認したものについて、原発の再稼動を行うことを表明しています。そして規制委員会は昨年7月から施行された、新基準の適合性審査をしています。こうした動きに対して、菅直人元首相は、国会議員に認められる質問主意書を使って、内閣に質問を行いました。(菅直人氏ブログ

池田・産経新聞が21日の記事で伝えています。菅氏は「原子力規制委員会は新規制基準に適合するときにのみ再稼働を認可することができると承知しているが、それで正しいか」と尋ねました。よくマスコミは「再稼動の審査」という言葉を使いますが、これが正しいのかと聞いているわけです。(菅直人氏の質問主意書

政府は「規制委員会は発電用原子炉の規制を行っているが、再稼働を認可する規定はない」と、答弁しています。「再稼動の審査」なんて規定はないことを国が認めました。菅氏だけではなく、「再稼動の審査をしている」という誤解が多いのです。(菅氏の質問への政府答弁書)(産経新聞記事

岡本・指摘の通りで、規制委員会は、法律に合っているかを判断しているだけです。

そして規制委員会の行動には問題があります。世界に450基ある原発で、それを止めて安全基準の適合審査をしているのは、日本だけなのです。世界標準は動かしながら安全性を高めようという活動をしているのです。これは日本でメディアがほとんど報じないので、知られていません。

池田・日本でも原子炉等規制法では、動かしながら審査をすることになっています。分かりにくい法律ですが、原子力規制委員会に対して事業者が、運転開始前に事前にやらなくてはいけないものが一つだけあります。保安規定という、原子炉の安全を守る計画を示す書類の審査だけです。

運転開始前に、安全基準をすべてクリアしなければならないとは、どこにも書いていません。つまり運転しながら安全基準を審査すればよいのです。法律上は、今のように止め続けることはできないわけです。

ところがそこに問題があります。規制委員会は止め続けたいのでしょう。止める理由として、いわゆる「田中私案」という文章を出しました。そこに「新しい規制基準を満たすまでは、運転は認められない」と書いてあるのです。そして今までの認可を設置変更許可、工事認定、つまり今まで認められた認可をすべてなしにさせて、出し直させているわけです。

「田中私案」は委員会規則の決定にも、法律にもなっていない、田中俊一委員長の書いた3枚の私的なメモです。原子炉等規制法の手続きと異なる規制を、正式な手続きを経ずにやっています。これは問題ですし、だから再稼動にこんな時間がかかっているわけです。

岡本・その通りで、大変おかしな話です。民主党政権の原発を止めたいという意向を、規制委が受け止めて、それを実現させているように思えます。これをそのままにすれば、日本が法治国家ではないことになります。

石川・福島事故が起き、これまでの原発の運営規制政策に問題があったことは確かです。しかし日本の場合には振り子が、一方向に行くと、逆方向に触れすぎてしまうんですよね。この場合も、過剰な規制の方向に触れすぎています。

岡本・すべて原発を止めてしまうのはやりすぎです。原子力は危ないものなんです。きちんと管理ができていたところもあるのです。全部止めることで、電力会社が原発を運営できない形に追い込もうとしています。日本以外の国では、法律にないことを国が規制して損害が出たら、企業は国を賠償で訴えます。

池田・例えば、中部電力の浜岡の停止も法的根拠がないのです。違反の場合しか止める規定がないので、首相の「お願い」で止めてしまいました。菅氏の打ち出した、ストレステスト実施まで原発は稼動させないという規制も、法的根拠がありませんでした。

安全性を高めていない規制委員会の審査

岡本・規制委員会の政策は、国際的に見ると危惧されています。原子力の専門家は、世界でつながっています。情報は共有されるし、安全の考えは、世界で共通なのです。しかし日本だけ、ルールにないことを、感覚でやっているわけです。日本の規制委員会は、自分たちの基準を、「厳しい、厳しい」と、自分で言っているのですが、私からみると、抜け穴だらけなんですよ。

石川・それはどういうところなんですか。

岡本・技術基準という法律に基づいた規制の下の、安全委員会規則というのがあります。ここからは、一種の私文書であり、従う義務のある法律ではありません。その解釈が担当官の裁量次第だし、たまに間違っていることもあるのです。それなのに、それに従うことを、規制委員会は求めています。さらに、それが原子炉の安全にも結びついていない場合があります。

重要なことは、原子力では「法律に合っていることが、安全とは限らない」ということです。福島第一原発は、法律に合っていたのに事故が起こってしまいました。法律が間違っているか、今の原発は安全なのか検証を、常にしなければならないのです。

いろんな問題があるのですが、一つ例を示しましょう。新基準では、竜巻の対策を求めました。対策をする竜巻の強さが裁量官次第で決まるのです。統一の基準がなく、まちまちなのです。

リスクは対象全体で考えないと意味がありません。一つのリスク対策をすることで、別のリスクを高めてしまいます。例えば、2001年の全米同時多発テロの後で、アメリカ人は飛行機に載らず、車で移動しました。車の事故は飛行機事故より多くなりますから、全体で死亡者は増えてしまいました。

同じように竜巻だけに対策をしても、プラントの構造が複雑になって運転員がミスをするリスクが高まってしまえば、意味がないのです。全体として発電所全体のリスク耐性の実力を見るのではなく、担当官がこうだと思い込んだ部分だけリスクを下げようとしているのです。

福島原発事故前の日本の原子力規制にも同じような面がありました。問題が修正されていないのです。規制庁は、旧原子力安全保安院の人が横滑りしています。考えを追加しただけで、思想と行動がこれまでと大きく変わっていない面があるのです。

今の原発はいろんな対策をしすぎています。個人的な感想ですが、全体としての原発のリスクは逆に上がっているかもしれないと思います。プラントの構造が複雑になると、全体で壊れやすくなり、対処が難しくなるため、リスクが高まってしまいます。

石川・電力会社はこの状況をどのように考えているのでしょうか。

岡本・事故前と比べて、変わっていない電力会社もありますね。「泣く子と地頭には勝てない」ということで、規制庁の問題行為に異議を唱えず、言われたことだけやろうとしているところが多いのです。

しかし真剣に福島事故を反省して、本当に安全な原発にしようと努力している電力会社もあります。そういう自発性を持ち、改善する電力会社の動かす原発は当然、安全性が高まります。

活断層で原発を止めることのおかしさ

池田・具体的な問題で、活断層についてどのように思いますか。原子力規制委員会は、あちこちの原発で穴を掘って活断層を調査しています。日本原電の敦賀発電所2号機では活断層と断定して、「動かすべきではない」と事実上の死刑宣告をしてしまったわけです。

岡本・まず法律の事後適用という点で問題です。その規定が明確に決められていないのに、使えないとするのは、法治国家と言えないでしょう。

さらに敦賀2号機の場合は判定も間違っています。あれは一部の調査委員の意見を、委員会の結論にしてしまいました。原電側が外国の活断層研究の一流の専門家を集め、断層の調査をしましました。私はその調査に同行しました。外国の専門家は、すべてのデータをチェックして、活断層ではないと結論を出したのです。しかし規制委員会は見解を改めません。

規制委員会は思い込みを正当化する情報ばかりを見て、それ以外の情報を見ていないのです。間違いをただすことができないのです。これまで、原発周辺の地層を判定した人は、国内のトップクラスの地震学者でした。それを排除して2番手の専門家を集めて判断をしているのです。間違える可能性が高くなるでしょう。

米国でカリフォルニアのある原発の近くで、建設後に活断層が見つかったことがあります。その際にやったことは、さまざまな角度からの検証でした。断層が動くのか。動いた時にどのような影響があるのか。最悪の場合に、原子炉は耐えられるのかと調べました。その結果、リスクは少ないということで、原発は対策工事の上で、稼動させることにしました。

IAEA(国際原子力委員会)も、「活断層の評価はリスクで行うべき」としています。ところが日本は「あるからダメ」という乱暴な規制をしているのです。

池田・新しい規制委員会が作られたときに、これまでの審査官の規制を減らし、確率を考慮したをリスク評価を導入すると言ってましたよね。確率で評価すると、原発の事故リスクは小さくなってしまうから、採用しないのでしょうか。

岡本・そうでしょう。12年4月に規制委員会はリスク評価をすることを決めました。「原子炉の破損を1万炉年分の1にする」とか、「放射性物質の漏洩を100万テラベクレル、これは小さな放射線量ですが、目標を掲げて事故の際にそこまでいく確率を100万分の1以下にする」などです。それなのに、13年夏に出てきた基準はそれを横において、感覚で規制をしているわけです。

活断層は確率で評価すると、原子炉への影響は、100万分の1以下と、とても小さくなってしまいます。確率で考えると止められないから、「あったらダメ」と乱暴なことをしているのでしょう。

石川・専門家が見て、危ない原発とは、どのようなものでしょうか。

岡本・ソフト面で言えることは、思想の面では常に努力する、改善する組織に運営される原発は、安全な原発です。そういう電力会社は日本にもいくつかあります。規制委員会の「後だしじゃんけん」のルールに何とかあわせようという、大変な状況になっています。その嵐の通り過ぎることを待つだけの電力会社の原発は危険です。どことは言いませんがね。

石川・では、危ない規制政策というのはどのようなものでしょうか。

岡本・安全のために改善しない規制、事業者の改善をうながさない規制ですね。今の日本で行われていることです。事業者、原子力メーカー、学会などの専門家と話し合わなければならないのに、今の規制委員会はそれを排除して、自分たちで決めています。規制は役人の作文なんです。規制委員会の目的は、「規制すること」であって、「安全な原子炉」にすることではないように思えてしまうのです。「動かしても安全な原子炉にする」が、目的であるべきです。

石川・刑事犯罪の規制の場合は、例えば暴力団など犯罪組織である規制対象の意見を聞かなくてもいいでしょう。しかし原発規制は経済法制であって、目的は「安全と経済の両立、事業の育成」です。ステークホルダーの意見を聞かないというのは、そうした目的から離れていってしまうでしょう。規制も効果のあるものではなくなりますね。

岡本・その通りで、全体が分かっている人が、規制作りに関わらなければなりません。それなのに規制委員会は専門家の意見も聞かず、また全体を分かっている人がいないわけです。

コミュニケーションが質を高めるのに…

池田・話をまとめると、制度設計に問題があるようです。事故の後で、原子力政策は政治のおもちゃにされてしまった面があります。民主党政権と当時の菅直人首相が「事故を起こした」と、原子力村バッシングをやって自分たちの政治的立場を良くしようとしたわけです。それに当時野党だった自民党が乗ってしまったのです。

自民党の提案で、経産省の下にあった原子力規制の既存の組織を潰して、「3条委員会」という独立性の高い組織にしました。塩崎恭久さんなどが中心になりました。民主党もそれに同調したのです。

アメリカのNRC(原子力規制委員会)もそうですが、独立性の高い委員会にすると、監督官庁もなく、権限も強くなる。ところが、それが独善になる場合があります。民主党は、規制庁を経産省から切り離し、2度と本省に戻るなとしているんです。これは役所の情報も使えないし、孤立するばかりです。

岡本・個人的には独立性が強いものが悪いとは思わないのです。中身の人次第ですね。アメリカもフランスも、職員の研修がしっかりしていて、それが組織の上の方に昇進していきます。

日本では、原子力規制庁に500人ぐらい職員がいます。そのうち50人ぐらいは現場をよく分かっています。若手は中心です。こうした人が行政の担い手になる組織をつくってほしいと思うのです。10年経てば、変わるかもしれません。今は過渡期ですが、だからこそ、行政が間違える可能性があると、慎重にやってほしいと思います。

池田・アメリカの組織の人事はリボルビングドアと言われ、政権が変わると幹部が変わり、官民の入れ替わりもあり、流動的です。日本は役所に入ると、たいていずっとそこで、固定的です。そして、今は役所相互とも、民間との情報のやり取りも、交流も遮断されています。情報が流れづらいのです。

さらに原子力ムラバッシングがあったので、電力会社など民間は意見を言うことを萎縮しています。バッシングが裏目に出て、ステークホルダーとのコミュニケーションが壊れているんですね。

岡本・その通りです。コミュニケーションが規制当局を育てるし、業者が一番、現場を知っているのですから。この人たちの意見を聞かなければ適切な規制ができるわけがありません。

石川・私は経産省に勤めていましたが、現場の話を聞かないと、効果のある規制が作れないんです。役所の机の前にいてもダメなんですよね。

岡本・今回の福島事故ではハードの面でも問題ですが、ソフトの面の問題も大きいと思うのです。東電にも、規制当局にも、「安全性を高めるために改善を続ける」という考えが足りなかったのです。「セーフティカルチャー」という言葉でまとめられますが、これが今、規制委員会、規制庁に欠けていると思います。

池田・福島のような大事故が起き、東電が事実上倒産してしまいました。この現実を見れば、事故を防ぐのは事業者にとってインセンティブになるわけで、手を抜くことはありえないでしょう。事故前はあったかもしれませんがね。ところが今、事業者に規制を押しつけ、自発性を発揮させない方向になっている訳です。

原発の停止で貿易赤字は膨らみ、電力会社の経営は危機にあります。こうした状況を変えていかなければなりません。行政の手続き上も、そして経済の損失の上でも、原子力規制委員会の行動は、間違っている点が多いのです。

(2014年3月17日)

This page as PDF

関連記事

  • アゴラ研究所は日本最大級のインターネット上の言論空間アゴラ、そしてエネルギーのバーチャルシンクタンクであるグローバルエナジー・ポリシーリサーチ(GEPR)を運営している。新しい取り組みとして、インターネット上で、識者が政策を語り合う映像コンテンツ「言論アリーナ」を提供している。その中で、月1回はエネルギー問題を取り上げている。
  • 2015年7月15日放送。出演は村上朋子(日本エネルギー経済研究所研究主幹)、池田信夫(アゴラ研究所所長)、石井孝明(ジャーナリスト)の各氏。福島原発事故後、悲観的な意見一色の日本の原子力産業。しかし世界を見渡せば、途上
  • 福島原発事故の後で、日本ではエネルギーと原子力をめぐる感情的な議論が続き、何も決まらず先に進まない混乱状態に陥っている。米国の名門カリフォルニア大学バークレー校の物理学教授であるリチャード・ムラー博士が来日し、12月12日に東京で高校生と一般聴衆を前に講演と授業を行った。海外の一流の知性は日本のエネルギー事情をどのように見ているのか。
  • ロシアの国営原子力企業ロスアトムが、日本とのビジネスや技術協力の関係強化に関心を向けている。同社の原子力技術は、原子炉の建設や安全性から使用済み核燃料の処理(バックエンド)や除染まで、世界最高水準にある。トリチウムの除去技術の活用や、日本の使用済み核燃料の再処理を引き受ける提案をしている。同社から提供された日本向け資料から、現状と狙いを読み解く。
  • Web原産新聞
    7月6日記事。クリントン氏はオバマ大統領の政策を堅持し、再エネ支援などを主張する見込みです。
  • 使用済み核燃料の処理問題の関心が集まる。しかしどの国も地中処分を目指すが、世界の大半の国で処分地が住民の反対などがあって決まらない。フィンランドは世界で初めて、使用済み核燃料の処分場の場所を決め、操業開始を目指す。
  • (1)より続く。 【コメント1・ウランは充分あるか?・小野章昌氏】 (小野氏記事「ウランは充分あるか?」) 無資源国日本ではエネルギー安全保障上、原子力しかない。莫大な金をかけて石油備蓄しているが、これは1回使ったら終わ
  •   人形峠(鳥取県)の国内ウラン鉱山の跡地。日本はウランの産出もほとんどない 1・ウラン資源の特徴 ウラン鉱床は鉄鉱石やアルミ鉱石などの鉱床とは異なり、その規模がはるかに小さい。ウラン含有量が20万トンもあれば

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑