2030年EUエネルギー気候変動パッケージ(その1)― 続・欧州のエネルギー環境政策を巡る風景感
昨年7月に5回にわたって「欧州のエネルギー・環境政策をめぐる風景感」を投稿したが、その後半年の間に色々な動きがあった。これから数回にわたって「続・欧州のエネルギー環境政策を巡る風景感」を綴ってみたい。
2030年パッケージ案
昨年の投稿では2020年の20:20:20目標(2020年までに温室効果ガスを90年比20%削減、最終エネルギー消費に占める再生可能エネルギーのシェアを20%、エネルギー効率を20%改善)に代わる2030年パッケージを巡る議論について紹介した。おさらいのために再掲すると、昨年(14年)1月に欧州委員会が出したパッケージは以下の通りである。
●2030年までにGHG排出量を90年比▲40% とする。うち、EU-ETS部門は2005年比▲43%に、非EU-ETS部門は2005年比▲30%とし、後者については各国間で割り振りを行う。
●EU-ETSを強固で効果的なものとすべく、次期取引期間が開始する2021年初頭に市場安定化リザーブを導入する。
●再生可能エネルギーのシェアを2030年最低27%とする。これはEU全体の目標として拘束力を有するが、各国の国情に合わせたエネルギーシステム改革を可能にするため、EU指令の形で各国別の目標を設定することはしない。
●省エネ指令を2014年末までに見直す(欧州委員会の分析では40%削減を達成するためには2030年に25%程度のエネルギー効率改善が必要)。
●Competitive, Affordable, Secure なエネルギー供給を確保すべく、複数の指標、例えば貿易相手国とのエネルギー価格差、供給多様化、国産エネルギーへの依存度、加盟国間の接続能力等を設定する。
●各国のエネルギー計画がEUレベルでの整合性を確保する共通のアプローチに基づくものとなるよう、新たなガバナンスフレームワークを構築する。
●2030年パッケージの検討材料として、欧州委員会はエネルギー価格、コストに影響を与える要因、主要貿易相手国との比較に関する報告書を提出する。
昨年は、このパッケージ案を巡って温室効果ガス削減の目標レベルをどうするか、単一目標か複数目標か(温室効果ガス削減目標一本でいくのか、20:20:20のように再生可能エネルギー、省エネについても目標を設定するのか)をめぐって加盟国間に色々な議論があることまで紹介した。
加盟国のポジション
パッケージ案発表後、EU内では10月の理事会に向けて色々な議論が行われた。3つの目標に対する各国のポジションを色分けした興味深い分析もある。
図1は温室効果ガス削減目標に関する各国のポジションであり、濃い緑色が「少なくとも40%削減」を支持する国々、淡い緑色が「40%削減」を支持する国々、赤が40%削減目標に反対している国々である。

(出所:Carbon Brief)掲載は「Energy Transition」
図2はEUワイドの再生可能エネルギー目標に対する各国のポジションであり、最も濃い緑色が27%以上の目標を志向する国々、次に濃い緑色が27%の拘束力ある目標を支持する国々、淡い緑色が27%の拘束力のない目標を支持する国々、赤が27%目標に反対している国々である。ここで興味深いのはしていた単一目標を主張していた英国が拘束力ある27%目標を支持する国として分類されていることだ。
この分析が出された2014年10月時点では英国は「各国レベルの目標設定につながらないのであれば、EUワイドでの拘束力ある再生可能エネルギー目標も受け入れ可能」というポジションに軟化していた。
英国のヒンクリーポイント原発プロジェクトをドイツが受け入れる(注:この2014年秋時点ではヒンクリーポイント原発プロジェクトについて国家補助に関する欧州委員会の調査が続いていた)ことの見返りとして英国がドイツの主張する再生可能エネルギー目標を受け入れたという穿った見方もある。

(出所:Carbon Brief)
図3は省エネ目標に対する各国のポジションである。2014年1月のパッケージ案の時点では、温室効果ガスを40%削減するためには25%程度のエネルギー効率改善が必要との欧州委員会試算が提示されているのみであったが、その後の省エネ指令見直しの中で7月に「30%改善」という数字を提案した。
ウクライナ危機を背景にエネルギー安全保障に対する関心が急速に高まる中で、エネルギー安全保障、気候変動対策双方に有効で費用対効果の高い省エネ対策への関心が高まったということであろう。最も濃い緑色がEUワイドで30%以上、次に濃い緑色がEUワイドで拘束力のある30%目標、淡い緑色が拘束力のない30%目標、ピンク色が「検討中」、薄い赤色が拘束力のない25%目標、濃い赤色が25%目標に反対している国々である。

(出所:Carbon Brief)
3つの図を見るとポーランドを中心とする東欧諸国が欧州委員会提案の目標全てについて反旗を翻していたことがわかる。10月の欧州理事会でパッケージに合意できるかどうかは、東欧諸国の反対を抑え込めるかどうかにかかっていた。
(その2)に続く
(2015年4月6日掲載)

関連記事
-
第二部では長期的に原発ゼロは可能なのかというテーマを取り上げた。放射性廃棄物処理、核燃料サイクルをどうするのか、民主党の「原発ゼロ政策」は実現可能なのかを議論した。
-
福島県では原発事故当時18歳以下だった27万人の甲状腺診断が行われています。今年2月には「75人に甲状腺がんとその疑いを発見」との発表が福島県からありました。子どもの甲状腺がんの発生率は、100万人に1〜2人という報道もあります。どのように考えるべきでしょうか。中川 これは、原発事故の影響によるものではありません。
-
池田・本日は専門家を招き、さまざまな視点から問題を考えます。まず「遺伝子組み換え」という言葉に私たちは、なじみがありません。説明をいただけますか。 田部井・私たちの食べる農作物はたいてい品種改良で作られています。遺伝子組み換えはその技術の一つです。品種改良は花粉を交配させ作ってきましたが、遺伝子組み換えは重要な形質を持つ遺伝子を持ってきて植物の種子に加えるというものです。
-
後半では核燃料サイクルの問題を取り上げます。まず核燃料サイクルを簡単に説明しましょう。核燃料の95%は再利用できるので、それを使う構想です。また使用済み核燃料の中には1-2%、核物質のプルトニウムが発生します。
-
トランプ政権のエネルギー温暖化対策やパリ協定への対応に関し、本欄で何度か取り上げてきたが[注1]、本稿では今年に入ってからのトランプ政権の幹部人事の影響について考えて見たい。 昨年半ば、米国がパリ協定に残留するか否かが大
-
ドナルド・トランプ新大統領は、グリーンエネルギー事業は同国経済にとって悪材料だと主張している。だが、そのトランプに異議を唱えたい人たちにとっては歓迎すべきデータが発表された。
-
原発の稼動の遅れは、中部電力の経営に悪影響を与えている。同社は浜岡しか原発がない。足りない電源を代替するために火力発電を増やして、天然ガスなどの燃料費がかさんでいるのだ。
-
パリ協定については未だ明確なシグナルなし トランプ大統領は選挙期間中、「パリ協定のキャンセル」を公約しており、共和党のプラットフォームでも、「オバマ大統領の個人的な約束に過ぎないパリ協定を拒否する」としている。しかし、政
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間