原子力への理解のために-専門家は一歩踏み出し説明を

2015年10月05日 07:00
高橋 実
東京工業大学 科学技術創成研究院先導原子力研究所 教授

長期的なベースロード電源の設備容量減少の懸念

現在の日本のエネルギー政策では、エネルギー基本計画(2014年4月)により「原発依存度は、省エネルギー・再生可能エネルギーの導入や火力発電所の効率化などにより、可能な限り低減させる」こととなり、電力事業者は今後、原発の新増設が難しくなりました。原発の再稼動反対と廃止を訴える人も増えました。このままでは2030年以降にベースロード電源の設備容量が僅少になり、電力の供給が不安定になることが懸念されます。「図表1」で示すように、今後は原子力の設備容量は減っていくでしょう。

(図表1)

この背景には、東京電力福島第1原発事故以降、原発の安全性と使用済み核燃料と高レベル放射性廃棄物の処分に不安を感じる人が急増したことが原因にあります。

総合科学技術の難しさ

この不安を払拭するように説明して、原子力への理解と支持を取り戻さなければ、この原子力の窮状を打破することはできません。ところが、原子力について知りたくて、情報源をWebサイト等に求めてみると、放射線から構造・耐震までさまざまな科学技術情報が並んでいますから、とても理解できないとあきらめてしまうのではないでしょうか。

若い人たちに原子力技術を体系的に学べるようにするために、大学や大学院では原子力工学を教えています。最近は原子力分野の人材不足が叫ばれていますから、社会人に対しても基礎からしっかり学習することができる再教育の機会を提供することが重要です。短期の原子力強化コースを設けて集中的に学べるようにすることも効果があるでしょう。いろいろな取組を通じて、原子力分野の人材育成は促進されることと思います。

不安を解消するための根幹技術の理解促進

一方で、これとは別に一般の多数の人に対して、不安を解消するための原子力の説明も必要です。そうでなければ、ベースロード電源として原発を今後も利用していき、いずれ近いうちの新増設も視野に入れて、国民の支持を得ることはできないからです。

それには、どうしたらよいかが一番の問題です。現状では技術的な疑問にわかりやすく答える状態になっていないようです。つまり専門家も「難しい」とあきらめ、一般の方も最初から難しいと、問題を調べないようになっていると、思えます。

原子力について説明をする際には、今全体の中でどの部分を説明しているのかを明瞭にして、錯綜する議論をすっきりと整理することからはじめなければなりません。原子力には、政治、経済、社会、地域・自治体、環境・資源、安全保障などのいわゆる政治・経済・社会問題も関わっていますから、まずそうした問題と、純粋な科学技術の議論は区別したほうが明快になります。

多分、人々にとっては科学技術の部分が最も難解ですから、原子力の専門家はわかりやすくそこを解き明かすことが一番大事な仕事であると思います。

そして純粋な原子力の科学技術であっても、それを構成している専門分野は非常に多岐にわたっています。この点をさらに整理して考えると、原子力を活用する科学技術は、原子力発電所の設計・運転や核燃料・廃棄物の取扱いに関わる根幹の技術と、それを支える周辺技術からなっています。

周辺技術の説明に重点を置き過ぎると、枝葉末節の議論となって、技術の根幹が見えなくなってしまいます。そのことが、一般の人たちにとって原子力技術がわかりにくい原因の一つではないかと考えています。根幹の部分をしっかり理解されれば、周辺技術はおのずから理解されると思います。

化学的燃焼と原子炉の核反応の原理の違いの説明

以上まで、抽象的な話になりましたが、「根幹の部分」の例を考えてみましょう。「火でものを燃やす際に安全に熱を発生させるにはどうしたらよいか、その原理は何か」と尋ねれば、誰でも大体説明できるはずです。ところが、「原子炉で核分裂連鎖反応を起こして、安全に熱を発生させるにはどうしたらよいか、その原理は何か。」と尋ねると答えられない人が大部分です。

この点が根幹であって、それほど難しくないので基本的な常識として理解してもらいたいと思います。こう言うと、「物理学や熱学や材料学を深く学ばなければ、それはとうてい無理だ」と原子力の専門家に言われてしまいます。しかし、「火でものを燃やすこと」は、化学反応や熱学を学ばなくても人類はできました。それと同じで、「原子力の原理」もそう難しいことではないと考えています。物が燃える(燃焼)ことは反応熱と酸素の移動で制御され、原子力の場合は中性子の数とエネルギーで制御されています。

原子力利用への支持拡大のために

私の大学院の講義では、原子力工学が専門でない学生にも、説明を工夫すれば理解されています。わずかな工夫によって、原発の運転や核燃料・廃棄物の取扱が科学技術によって安全に行えることを多くの人たちに理解されるようになれば、原子力利用への支持も大きく広がることと期待しています。

それには専門家の説明の工夫が必要でしょう。原子力技術の根幹の部分のわかりやすい説明によって原子力をめぐる過度な不安は、少しではあるものの解消の方向に進むでしょう。

高橋実・東京工業大学 原子炉工学研究所教授(研究室ホームページ)

(2015年10月5日掲載)

This page as PDF
高橋 実
東京工業大学 科学技術創成研究院先導原子力研究所 教授

関連記事

  • 【要旨】(編集部作成) 放射線の基準は、市民の不安を避けるためにかなり厳格なものとなってきた。国際放射線防護委員会(ICRP)は、どんな被曝でも「合理的に達成可能な限り低い(ALARA:As Low As Reasonably Achievable)」レベルであることを守らなければならないという規制を勧告している。この基準を採用する科学的な根拠はない。福島での調査では住民の精神的ストレスが高まっていた。ALARAに基づく放射線の防護基準は見直されるべきである。
  • 原子力規制委員会(以下「規制委」という)は、原子力規制委員会設置法に基づき2012年9月11日に発足した。規制委の正規メンバーである委員長・委員、規制委の事務局である原子力規制庁(以下「規制庁」という)の職員にとってこの3年間は、洪水のように押し寄せる業務の処理に悪戦苦闘する毎日であったに違いない。
  • 【概要】特重施設という耳慣れない施設がある。原発がテロリストに襲われた時に、中央操作室の機能を秘匿された室から操作して原子炉を冷却したりして事故を防止しようとするものである。この特重施設の建設が遅れているからと、原子力規
  • 自民党政権に交代して、ようやくエネルギー政策を経済・生活の観点から検討しようという動きが出てきた。
  • JBpressの記事は、今のところ入手可能な資料でざっとEV(電気自動車)の見通しを整理したものだが、バランスの取れているのはEconomistの予想だと思う。タイトルは「内燃機関の死」だが、中身はそれほど断定的ではない
  • 原子力規制庁の人事がおかしい。規制部門の課長クラスである耐震・津波担当の管理官が空席になり、定年退職後に再雇用されたノンキャリアの技官が仕事を担うことになった。規制庁は人員不足による特例人事と説明している。
  • 今回は長らく議論を追ってきた「再生可能エネルギー大量導入・次世代ネットワーク小委員会」の中間整理(第三次)の内容について外観する。報告書の流れに沿って ①総論 ②主力電源化に向けた2つの電源モデル ③既認定案件の適正な導
  • 小泉元首相を見学後に脱原発に踏み切らせたことで注目されているフィンランドの高レベル核廃棄物の最終処分地であるONKALO(オンカロ)。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑