もんじゅへの勧告、規制委の判断のおかしさ-担える組織はJAEAのみ

2015年12月21日 11:00
碇本 岩男
エネルギー問題に発言する会会員 元原子炉メーカー技術者
(写真)高速増殖炉もんじゅ

【GEPR編集部より】もんじゅの存続問題について、GEPRはプロジェクトの停止を求める意見も示しています。この存続を求める意見も尊重し、掲載します。ここで主張されているように、原子力規制委員会の行政手続きに、多くの問題があります。

原子力規制委員会の勧告

原子力規制委員会が11月13日に文部科学大臣宛に「もんじゅ」に関する勧告を出した。

点検や整備などの失敗を理由に、「(日本原子力研究開発)機構という組織自体がもんじゅに係る保安上の措置を適正かつ確実に行う能力を有していないと言わざるを得ない段階に至った」ことを理由にする。①機構に代わってもんじゅの出力運転を安全に行う能力を有すると認められる者を具体的に特定すること、②具体的に特定することが困難な場合には、もんじゅが有する安全上のリスクを明確に減少させるよう、防護システム設計のあり方を抜本的に見直すこと、を勧告した。

日本原子力研究開発機構(JAEA)という組織

JAEAは旧原研と旧動燃が合併してできた組織であり、現在の職員数は約4000人である。研究内容は原子力関連とはいえ多岐に亘っており、核分裂原子炉(軽水炉、高速炉、ガス炉)を用いた研究だけではなく、核融合、加速器、再処理、廃棄物処理、地層処分などに関する研究を行っている。職員のほとんどは研究職、技術職である。

JAEAは、原子炉の研究炉、臨界実験装置を建設、運転、保守を行ってきた。即ち、研究炉だけではなく発電炉も運転してきた組織であり、「もんじゅ」と同じ敦賀にあるふげんを1978年から20年以上運転した実績がある。

「もんじゅ」はナトリウム冷却高速増殖炉(FBR)の原型炉であり、電気出力が280MWe(メガワットエレクトリカル、約28万kw)、熱出力は714MWt(メガワットサーマル)で、JAEAが運転してきた研究炉よりは大きいが、標準的な軽水炉の電気出力約1200MWe、熱出力約3400MWtから見れば、かなり小さい規模である。

JAEAにはFBR発電炉の運転経験はないものの、発電炉としては「もんじゅ」とほぼ同規模のふげんの運転実績、FBRとしては運転経験は、「もんじゅ」と同じナトリウム冷却の高速(増殖)炉である「常陽」がある。また、大洗工学センターでのナトリウム試験施設の運転経験も豊富であり、「もんじゅ」でも40%出力運転試験を経験している。

これら実績を踏まえれば、ナトリウムの取り扱い技術に優れ、これまでの、常陽、ふげん、「もんじゅ」の出力運転、保守・点検経験を有しているJAEAという組織が、技術的観点から客観的に考えれば最も適している。JAEAという組織が「もんじゅ」の運転、保守を行える技術的能力がない、という規制委の主張は説得力に欠けている。

保守管理不備の内容

日本原子力研究開発機構(JAEA)が起こした保守管理不備の発端とは、保全計画書を改訂することなく、点検対象機器の点検間隔を延ばしたことを2012年9月の規制委による保安検査で指摘された。

ここで考えなければいけないことは、「もんじゅ」は長期停止(休止)中であったということだ。純技術的に安全ということを考えれば、長期停止中に安全確保のために実施しなければならない点検項目は実質的にはないということである。

2013年5月16日の衆議院、原子力問題調査特別委員会で、当時のJAEA理事長である鈴木篤之氏が、本問題を形式的ミスと言ったと報道されたことに関し、安全性には「実体的安全性」と、「手続き的安全性」があると発言している。「もんじゅ」は長期停止中で炉心の崩壊熱も実質0であり、止める、冷やす、閉じ込めるという実体的安全性は確保できているので、こういうプラント状態で求められているのは手続き的安全性だと言っているのである。

本来、保全計画書は、運転中のプラントに対する保全活動の一環として作成するものであり、主として定期検査における点検計画を定めたものである。長期停止中なので実体的安全性は確保できていたとしても、保全計画書に書かれている内容通りに杓子定規に点検を実施するのが手続き的安全性ということだ。保全計画書を、運転中とは別に、長期停止中の保全計画として点検間隔の変更などをきちんと見直しておけば、そもそもこの問題は生じていなかった。

今でも報道されているが、「もんじゅ」は停止中であっても毎年約200億円の維持費が必要とされ、税金であるこの200億円について、政治家、メディアから非難され続けている。経費削減の中、十分な点検予算も国に認められていない。さらに、政治的混乱もあって再稼働時期も不透明であった。こんな中、JAEA職員のほとんどが技術職、研究職なので、長期停止中の「もんじゅ」の安全確保に必要な点検は実質的にはないことが分かっており、無駄な点検費用を発生させることを避けるために、運転中を前提とした保全計画を杓子定規に適用しなかったのである。

もちろん技術的には正しいことであっても、保全計画書を見直しもせずに、保全計画書に書かれていた点検間隔を変えた運用をすることは、法の手続きとしては明らかに誤りであり、許されることではない。手続き的安全性も重要なことなのである。また、手続き的不備について、3年経っても解決できていないというのは、福島支援などで人手不足の問題があるにしても、JAEAに組織としての事務処理能力、管理能力に問題があることは事実であろう。

ただし、これをもって、安全軽視、安全文化の欠如といった規制委の批判は、本質的には的外れである。「もんじゅ」の実態的安全ということの本質的意味を理解していたからこそ、税金の無駄遣い、予算不足を気にして手続き的安全が疎かになってしまったのである。

規制委勧告の疑問

保全管理不備については、2010年の中国電力島根原発、2012年の東電柏崎刈羽原発、2015年の東北電力女川原発でも生じている。膨大な数の機器、設備、計器等の保全計画の書類手続きをミスなく完璧に実施するのは容易ではなく、二重、三重チェックを行っても人間である以上、軽微なミスを0にすることは残念ながらできない場合もあるのである。このため、JAEAはIT化も進めている最中である。

規制委による10月21日の文科省との意見交換、11月2日のJAEAとの意見交換で、両者が主張したことは、①高速増殖炉「常陽」(茨城県大洗町)の運転経験を踏まえ、「もんじゅ」がナトリウム炉という軽水炉とは異なる特徴があることは十分理解していること、②保守管理不備という問題に対して未だに解決できないことは遺憾であるが、着実に改善が進んでいること、③原点に戻って保全計画を全面的に見直しているため時間が掛かっていること、④保全計画の見直しと並行して進めているため手戻りも生じていること、⑤保全計画の見直しを含め、改善途中での保安検査のため、保安検査時点では規定違反になってしまうことがあること、を述べている。

これら真摯な説明に対し規制委の委員長、委員は、「その答えはちょっと違う気がする」「試験研究炉とは違う」「原発に相当するぐらいの大きさ」「本質的な問題」「安全上の問題」「もう十分待った」「まったく変わっていないように見える」「資質を持っているというふうには判断できない」「手詰まりとしか聞こえない」「心もとない意見」「安全文化が全然できていない」「この問題はJAEAだけで解決できる問題ではない」など、全て明確な理由もなく、揚げ足取りのような感情論で答えている。

手続き的安全性については、難しい技術開発事項がある訳ではなく、時間と人手(潤沢な予算)があれば必ず解決できることであり、原子炉を安全に運転する技術能力とは別の問題だ。残念ながら「もんじゅ」には時間も人手(予算)も十分ではなかったことが、この問題を生じさせた最大要因であり、これにJAEAが研究者集団であるが故の事務処理能力、管理能力不足が加わって時間が掛かっているのである。従って、あと1年もあれば必ず解決できる問題である。

手続き的安全性の確保も重要であることは理解できるが、それ以上に実体的安全性の確保が重要であることは当然のことである。この実体的安全性確保の議論、指摘はまったくされず、手続き的安全性だけを問題にし、まだ改善中のこの時期に、事業主体の変更を求めるという重大な勧告をしたことは大いに疑問である。勧告文でも、文科省、JAEAの説明を一方的に無視して、「具体的成果を上げていない」「十分な改善は見られない」と決めつけ、冒頭に記載した結論を導いていることも大いに疑問である。

今回の「もんじゅ」への勧告は、実体的安全性を無視して手続き的安全性、即ち、時間と人手があれば必ず解決できる書類手続き上の問題を、安全上の問題にすり替えて行われたものであり、軽水炉の再稼働に係る新規制基準適合性審査における不合理な対応同様、この問題もNRAによる独善的横暴の現れと言わざるを得ない。日本の高速炉核燃料サイクルの開発、確立にも重大な支障をきたす可能性のある規制委の横暴を許して良いのであろうか。

(2015年12月21日掲載)

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碇本 岩男
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