中東の激動で原油はどうなる【言論アリーナ報告】

2016年01月25日 09:00

原油価格が1バレル=30ドル前後と直近の安値圏にある。一方で産油地域の中東が混迷を深めている。石油価格は今年どのように動き、そして世界経済にどのように影響を与えるのか。 エネルギーアナリストの岩瀬昇さんを招き、池田信夫さん(アゴラ研究所所長)と共に1月12日に放送した。司会はジャーナリストの石井孝明。以下は要旨。

今も昔もエネルギー戦略がない

石井・岩瀬昇さんは、三井物産、三井石油開発で石油のトレードと、石油開発などに43年間従事し、海外勤務は21年におよぶオイルビジネスの最前線で活躍しました。アゴラ・GEPRに1月12日、「2016年の石油価格の展望−供給過多状況続く」を寄稿しました。ぜひ一読ください。

14年に『石油の埋蔵量は誰が決めるのか-エネルギー情報学入門』を出版しました。本のポイントは何ですか。

岩瀬・エネルギー問題は、経済や生活に影響しているのに、必要な情報が伝わっていないように思えます。その動き、価格の決まり方などを紹介し、一般の方に、ニュースや情報を正しく理解してほしいということを願って書きました。

池田・エネルギーは安全保障の根幹であり、戦争の原因です。日本では、なぜか、それが忘れられている。太平洋戦争では、当時の石油の7割を輸入していたアメリカと戦争を起こすおかしな行動をしました。

岩瀬・今年1月文春新書から『日本軍はなぜ満州大油田を発見できなかったのか』を出版しました。太平洋戦争に日本が突入した状況をエネルギーの問題から調べた。残念ながら、今でも同じですが、国家百年の計に立つエネルギー政策がなかったのです。

石井・旧満州(現中国東北部)の黒竜江省には大慶油田がありますね。1959年に発見されました。また旧ソ連領北樺太からは石油、天然ガスが産出します。これをなぜ利用できなかったのでしょうか。

岩瀬・日本陸軍は、満州で、国防の理由で外国技術の導入を拒みました。米国の進んだ技術で探査しなかったのです。またソ連領の北樺太で石油生産を行っていましたが、日本の立場の強い時に権益をしっかり確保しなかったのです。

石井・日本は1941年夏の米国の石油禁輸措置を契機に同年12月に開戦します。開戦直後の日本軍の重要な戦略目標は蘭印(現インドネシア)の油田でした。

岩瀬・日本は奇襲により蘭印の油田をほぼ無傷で手に入れます。油田地帯のパレンバンを、空挺部隊が占領した直後に、東條英機首相が議会で「石油問題は解決した」と演説します。そして満州での探査を中止し、人造石油の開発のペースを落としてしまう。ところがその石油を利用できません。海上交通線を米軍に切断されてしまいます。そして経済活動も、軍の作戦も、石油不足で停滞します。現在の日本も、同じようにエネルギー源を確保する国家戦略が見当たりません。

供給過剰状態は変わるのか

石井・エネルギー源の確保の議論は今の日本でも少ないのです。政治の場でもない。専門家である経産省・資源エネルギー庁も原子力の問題から逃げ、電力自由化に一生懸命になるずれた政策を続けています。そして政治家は再エネ振興に動く。ちょっとおかしいと思います。

岩瀬・エネルギーの確保が真剣に語られない現状は問題です。14年4月にエネルギー基本計画を政府は発表しました。電源の燃料をどうするかという議論にとどまっています。もっと大事なのは一次エネルギー源、つまり石油、ガス、石炭などをどのように確保するかという問題です。

池田・戦争になると、エネルギーは戦略物資になります。中東情勢がおかしくなっています。サウジとイランが、国交が断絶状態になっています。ホルムズ海峡は、日本の使う原油の8割、天然ガスの3割を通ります。戦争はあり得るでしょうか。

岩瀬・私は戦争になる可能性、またホルムズ海峡の封鎖の可能性、双方ともないと思います。ホルムズ海峡はイラン、オマーンに挟まれています。タンカーの通行可能な場所は、オマーンの領海内ですが、そこに機雷を設置することは宣戦布告です。これは世界の安全保障の問題になり、世界を相手に戦うことになりますが、利益を得られないでしょう。イラン、サウジの対立も、国内の世論、強硬派を抑えるために、政府が強く出ているようであり、本当に戦争になる意思は見えません。これも得るものがないですから。

石井・次に原油価格の話をしたいと思います。原油価格は、直近において30ドル近辺とかなり安くなっています。私たちは石油価格を見るのには、何が大切でしょうか。

岩瀬・需給バランスが必ず影響しますが、市場参加者は様々な要因を考慮し、需給バランスがどうなりそうか、という予想で動きます。現在の需給は150 −200万BD(バレル・パーデイ、1日当たりの石油)の供給過多です。これは14年末と同水準です。米国で産出されるシェールオイルは昨年3月をピークに減産を始めています。だが、ロシアは増産、OPEC(石油輸出国機構)も生産枠を3000万BDにしたのに2015年11月の産出量は3170万となった。過剰な供給状態は、なかなか終わりそうにない。

池田・さらにイランが核開発疑惑による制裁が今春に解除され、石油マーケットに参加します。

岩瀬・私はイランに駐在したことがありますが、彼らはしたたかです。制裁解除後、すぐに増産し、輸出量を増加する準備はすでに始めているでしょう。

石井・なぜ各国は、損害覚悟で減産を続けるのでしょうか。

岩瀬・シェアを確保したいためでしょう。かつて逆石油ショック、1986年に30ドル以上だった原油価格が一時10ドル割れまで落ち込みました。OPECは減産を決めたのですが、守る国がほとんどなく、サウジだけが減産し、生産量が5分の1にまで落ち込みました。サウジは、価格を市場に委ね、シェア奪回を図り、成功しました。この時以降、価格は市場が決める、という時代になったのです。サウジは、OPECの生産調整による価格操作はシェアを高コスト原油に渡すだけだとして拒否しています。

原油安の国際政治への影響

石井・下落の流れが変わりそうなポイントはないのですか。

岩瀬・先ほど述べたようにマーケットは予想で動きます。過剰供給状態が終わる少し前から変わるでしょう。市場は今の値段は安すぎると判断しています。配当のキャッシュを確保するために、オイルメジャーなどは、既存の設備の更新や新しい採掘のための投資を減らしていますので、数年後にはまた供給不足になります。

池田・しかし、この原油安によって、産油国の財政、経済活動が悪化する可能性があります。

岩瀬・それは懸念されます。サウジの王族は今、世代が変わって、第二皇太子のムハマド・ビン・サルマンが英国メディアのエコノミストの1月9日号でインタビューに答えました。そこで国営石油会社のサウジアラムコが、上場を検討していると表明しました。サウジの埋蔵量は推計2600億バレルとされ、メジャーのエクソンモービルの持っている埋蔵量の十倍以上です。時価総額から考えると1兆ドルを軽く越えるでしょう。サウジ政府は「あらゆることを検討しているが何も決まっていない」とその後に表明しました。真意は分かりませんが、サウジが安泰であることを世界に示すことには成功しました。

サウジの現在の、家父長的福祉国家という統治システムは持たないでしょう。30歳以下が、今2800万のうち7割を占める若い国です。王族の人数も膨張しています。国王と王族の専制体制がいつまで続くか分かりません。

またロシア、ベネズエラ、ナイジェリアなどの産油国で、政府の歳入の減少、行政サービスの停止、国内経済の悪化、社会不安、政情不安が伝えられています。ISも石油への影響は現時点で小さいのですが、産油地帯でテロ起こす可能性があります。

池田・原油安は物価が下がるので、インフレ目標を掲げる日銀以外、日本にとっては喜ばしい状況です。ではどのぐらいの石油価格に2016年にはなりそうでしょうか。

岩瀬・石油の専門家の間では、「価格の予測は、神様しかできない」と言われます。ただし、オイルトレーダーの感覚でいうと、14年の12月の段階で「40ドル以下は買い、70ドル以上は売り」と言っていました。もうその水準であり、私が仕事で原油相場に向き合っていたら買う水準ですね。30ドル割れを見るでしょうが(1月22日に1バレル=26ドルを記録後、反発)それが長期にわたって定着することは考えられません。

【最後に視聴者アンケートでは試しに、「2016年に1バレル20ドルを切ると思いますか」という質問をした。「はい44.2%」、「いいえ55.8%」となり、見通しが分かれている。】

(2016年1月25日掲載)

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