もんじゅ型、ナトリウム冷却炉の安全性は高い

2016年05月09日 12:00
碇本 岩男
エネルギー問題に発言する会会員 元原子炉メーカー技術者
(写真)もんじゅ(福井県敦賀市)の全景

4月4日のGEPRに「もんじゅ再稼働、安全性の検証が必要」という記事が掲載されている。ナトリウム冷却炉の危険性が強調されている。

筆者は機械技術屋であり、ナトリウム冷却炉の安全性についての考え方について筆者の主張を述べてみる。なお、筆者の主張は、日本原子力学会2014年春の年会合新型炉部会セッション「研究開発段階発電用原子炉に対する規制基準に関する論点」で報告されている内容に基づいている。

原子力プラントでの重大事故時に守るべき機能

すべての炉型(軽水炉、高速炉、ガス炉など)で共通であるが、原発の安全確保とは、最終的には公衆被曝と環境への影響の防止であり、重大事故時であっても放射性物質の放出を制限するために、放射性物質を格納する機能を維持しておく必要がある。

重大事故が発生した場合に放射性物質を格納する機能の維持を期待するのは、少なくとも燃料被覆管(燃料被覆材)、1次系バウンダリ(圧力バウンダリ、冷却材バウンダリ)、原子炉格納容器(コンファインメント)といった格納バウンダリ(格納障壁)のいずれか一つである。

重大事故発生時、放射性物質の放出制限のために、どの格納障壁により行うのが合理的かは、原子力プラントの炉型(プラントの特徴)と、重大事故事象推移によって異なる。

ナトリウム冷却炉の特徴

高速炉の多くは冷却材に液体金属のナトリウムを用いている。ナトリウムは化学的に活性であり、水と反応するという負の特徴があり、これのみを強調してナトリウム冷却炉の危険性を指摘する一部専門家もいるが、これは化学的活性の観点からだけの意見である。ナトリウムは水と比べて沸点が高い(大気圧で水が約100度に対して、ナトリウムは約880度)。このため、軽水炉では1次系の圧力を70~150気圧の高圧にしなければならないが、ナトリウム冷却炉の場合には1~5気圧程度の低圧での運転が可能である。この軽水炉に比べて圧力が著しく低いという特徴により、冷却材バウンダリが損傷したという万が一の場合に、炉心部での冷却材挙動が大きく異なる。

軽水炉においては急激な減圧によりフラッシングが起こり、炉心が露出するが、ナトリウム冷却炉では炉心が露出することはない。この観点からは、ナトリウム冷却炉の安全性は軽水炉よりも優れているとも言えるのである。また、ナトリウムの熱伝導率は水の100倍以上あり、密度は水よりも小さいことなどから、除熱特性も水と比べて著しく大きく、自然循環により崩壊熱除熱が可能であるため、軽水炉のように常に大容量電源が必要なポンプで冷却材を循環する必要ではないという優れた特性がある。

記事では、高速炉の冷却材として、鉛合金がナトリウムより安全と述べているが、これは鉛合金がナトリウムと異なり化学的に水に対して不活性であるという一面でしかない。鉛合金は密度がナトリウムの約10倍、比熱は約1/10、熱伝導率は約1/5である。しかも、構造材(主としてステンレス鋼)に対し、ナトリウムの場合は腐食量が非常に小さいが、鉛合金は有意に大きく、これらの特徴を考慮して高速炉プラントの設計、製作を考えた場合には、耐震性、容器、配管の強度(減肉)などから、むしろ、鉛合金の方が危険性は大きいとも言えるのである。

事実、鉛合金を冷却材とした高速炉としてはロシアにSVBR(出力10万kW)という炉があるが、そのロシアでもBOR60、BN350、BN600、BN800、BN1200という高速炉がナトリウムとなっていて、高速炉の冷却材の主流はナトリウムである。ロシア以外でもフランス、中国、インドなどで開発が進められている高速炉の冷却材もナトリウムが主流であり、過去の高速炉でもPFR(英)、PHENIX、S-PHENIX(仏)、EBR、FFTF(米)などもナトリウム冷却である。これらの実績からも、冷却材として鉛合金よりもナトリウムが高速炉に適していると言える。

ナトリウム冷却炉だけが危険ではない

記事では、重大事故対応として、ナトリウム冷却炉のIVR(溶融燃料の原子炉容器内保持)での除熱について、パッシブな自然循環冷却も可能な補助冷却系3系統及びメンテナンス冷却系の機能喪失を重ね合わせる状態を想定し、問題にしている。軽水炉においても同様な安全機能を全て失うような多重故障を想定すれば格納容器破損に至ることは容易に想像できる。

原発の安全確保の考え方として深層防護があり、IAEAでは第1の防護レベルから第5の防護レベルを定めている。重大事故対策は第4の防護レベルである。

軽水炉は一次系冷却材の圧力が高く、沸点が低いという特徴があるので、設計基準事象である配管破損(大破断LOCA:冷却材喪失事故)の状態で、すでに一次系内の冷却材は瞬時に失われ、炉心が露出する状態となることが分かっており、この場合の炉心冷却は格納容器全体を使って行われる。

このため軽水炉においてはそもそもIVRで重大事故に対応するという考え方が、設計思想上合理的でない。一方でナトリウム冷却炉の場合には一次系冷却材の圧力が低く、沸点が高いので、ガードベッセルなどの対策で冷却材液位、冷却機能が維持できるのでIVRの状態で炉心を冷却するのが設計上合理的な対応といえる。

すなわち、炉型、プラントの特徴を踏まえれば、ナトリウム冷却炉のIVRの除熱は軽水炉の格納容器内除熱と同じ第4の防護レベルであり、ほぼ同等の確率で、放射性物質の放出を合理的に達成できていると解釈できるのである。なお、記事で述べられている複数系統がある空気冷却器が全部停止(全ての安全対策機能不全)というような著しく発生確率の低い事象は、重大事故よりもさらに発生確率が小さい事象であり、通常、こういった事象は「残余のリスク」として考えることになる。

ナトリウム冷却の高速炉でも、多重の防護対策は可能

深層防護の思想から言えば、たとえ「残余のリスク」であっても対応策がないことは許容されない。このため、基本的には「残余のリスク」に対しては第5の防護レベル、即ち放射性物質の格納施設からの放出の抑制、人及び環境への放射線の影響の緩和として対応すると考えることが自然である。これに対応する軽水炉の安全対策は、泡放水砲などが考えられており、ナトリウム冷却炉では窒素による冷却が考えられている。

どんな原子力プラント(軽水炉、高速炉、ガス炉など)であっても、仮定に仮定を重ねて安全対策を喪失させれば非常に過酷な状態となる。これは原発に限ったことではなく、飛行機、鉄道、自動車、船舶、ビル、橋梁、トンネルなど全ての工業製品に共通である。

要は、安全設備が機能しなくなるとした場合のリスクがどのくらいなのか、その確率は炉型で異なるのか、他の工業製品の安全機能喪失と比較して、その確率は十分小さいのかが工学的に意味がある対応と言える。

記事では軽水炉のように水で冷却することが不可能と述べているが、ナトリウム冷却炉の溶融燃料の冷却は、前述の通り、窒素ガスでも可能である。また、仮に記事に示されたように原子炉容器から溶融燃料が格納容器に流出するような事態となったとしても、ナトリウム冷却炉は軽水炉と比べて、事象推移の時間余裕が大きいという違いがある。ナトリウム冷却炉の場合には、大きなイベントリーの冷却材が系統内に残っているため、温度上昇速度はゆっくりであり、その間に崩壊熱のレベルも下がっていくものと考えられている。

この他、記事では、「もんじゅ」が新規制基準に合格するためには、「「ナトリウム冷却高速炉の溶融炉心が原子炉容器の外に流出することは絶対にない」という軽水炉とは異なる新基準を規制委員会が受け入れなければなりません」、と書かれているが、既に述べたように、ナトリウム冷却炉の場合の重大事故対応(第4の防護レベル)はIVRで対応できている。

溶融燃料が格納容器に漏れ出る事象は、重大事故を超えた事象として想定するのであり、絶対ないということではなく、この場合にも対応することを考える必要があり、実際に対応は考えられているのである。

ナトリウム冷却炉の安全に対する基本的考え方も、新規制基準で定められた軽水炉の安全確保の考え方と基本的には同じであり、炉型(プラントの特徴)が違うことにより軽水炉とは具体的な安全対策が異なっているというだけである。このため、軽水炉と炉系の異なるナトリウム冷却高速炉に新規制基準を適用した場合の具体的な対策の違いを規制委員会に理解してもらえばよいのである。

もんじゅ(ナトリウム冷却炉)に対しては、反原発派や一部メディア、専門家が化学的活性というナトリウムの負の特徴だけを取り上げた主張をよくしている。しかし、それは一面的でナトリウムは沸点が高く(このため一次系の圧力が低い)、熱伝導率が大きく(除熱特性、自然循環力に優れている)、構造材との共存性が良い(構造材の腐食が小さく、アルカリ環境なので応力腐食割れも生じない)などの安全上優れた特徴があり、軽水と同等以上に冷却材として適していることを、多くの人に理解してもらいたい。

(2016年5月9日掲載)

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碇本 岩男
エネルギー問題に発言する会会員 元原子炉メーカー技術者

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