全面自由化で重要度増す電力取引の最新事情

2016年05月16日 13:00
石井 孝明
経済ジャーナリスト

日本卸電力取引所(JEPX)の存在が改めて注目されている。電力自由化が進む中で取引の仲介と価格発信をする同所の重要性が、一段と高まることは間違いない。日本のエネルギーシステムに、同所は将来どのような貢献をするのか。

(図表1)スポット(1日前)市場の取引量の推移(月別)

電力小売り全面自由化がスタートした初日の4月1日。各メディアのサイトに「日本卸電力取引所、取引停止」の文字が躍った。送配電を管理する電力広域的運営推進機関のプログラムミスの影響を受け、数時間取引を止めただけだが、大ニュースのように扱われてしまった。電力自由化をめぐるJEPXへの社会的関心の高まりがうかがえる。

JPEXは2005年から取引を開始し、現在は電力事業者144 社が会員となっている。取引量はここ数年で急増しているが、15年度で126億キロワットアワーの取引と、日本の全電力量の2%程度にすぎない。ただし、2012年度から15年度まで毎年前年比2割増のペースで取引量が急増している。

同所は1日前スポット市場を運営してきた。翌日受け渡しの電力を、30分刻みに取引するものだ。今年4月1日から土日を含めたすべての日で取引を開始した。1取引単位は1000キロワット。大型ショッピングセンター をまかなう電力量だ。

また4月1日から当日市場(時間前市場)も始まった。その日 受け渡しの1時間前までの取引が可能になる。ただし、これは調整のための市場で、4月時点で1日数十件程度の約定しかない。

EUの電力は3割を市場が通る

電力自由化が先行したEUでは、2014年には各国に存在していた電力市場をつなげる形で欧州全域の電力市場がつくられた。同市場を通じて、欧州の全電力の3割強が市場取引を通じて供給されている。

全面自由化前の電力供給では、電力市場全体の6割を占める特別高圧・高圧分野は自由化されていた。残る4割の低圧・電灯分野の料金は総括原価方式で決定されていた。それが4月1日からは小口の自由料金が認められ、また「ライセンス制」も導入された。発電、送配電、小売り部門ごとに従来は認可だった参入が、登録することで原則自由に行えるようにした制度だ。東京電力は今年4月、既存の大手電力会社の中でいち早く、持ち株会社制事業ごとに担い手が分離したことで、各分野の企業ごとの卸電力市場への参加がうながされるだろう。

どのような経済活動でも、多数の参加者による公開された市場で形成された商品価格は、信頼を集め活動の指標になる。全面自由化された電力でも同じだ。市場価格がその価格が産業、そして社会全体を動かしていくだろう。

政府・経産省はJEPXの取引拡大、さらには東京商品取引所での電力先物市場の整備を積極的に支援している。電力・エネルギー業界はこれから重要インフラとしてJPEXの活用を今まで以上に考える必要がある。その健全な成長を期待したい。

【インタビュー】事業の「根っこ」に取引所を組み込む

日本卸電力取引所の企画業務部長である国松亮一氏に、電力取引の現状と課題を聞いた。

−4月からの事業者の動きはどうか。

取引の増加は続いているが、参加者の動きが4月1日前後で急に変わったことはない。しかし小売り自由化、またライセンス制という重要な制度変更があった。これらは今後、電力取引の拡大をもたらすだろう。

私たちは取引所の名前の通り「卸」分野、つまり発電事業者と送配電事業者の間に位置する。ライセンス制度で、発電と小売り の会社が分離して役割分担が明確になれば、それぞれの組織から、取引所への注文がしやすくなる。

また電力小売りでは「何と電力事業を結びつけるか」ということを、事業者の方は今真剣に考えている最中であろう。どのような形になっても、前提になるのが適切な価格による、安定した電力の調達だ。取引所はそれができる場である。事業にその活用を組み入れることは、合理的なビジネス 行動になる。

−市場取引を増やすためにはどうすべきか。

「原発が稼働し余剰電力が増えれば取引高が増える」という予想を関係者から聞く。それは違うと思う。余った電力を取引するという考えが根強くあるゆえに、JPEXの取引高がわずかにとどまっていると思う。電力事業者の皆さんに事業の「根っこ」のところから取引所を使う発想が広がればと考えている。

取引の厚みがあれば、より適切な価格形成が行われ、注文がマッチングしやすくなり、さらに使いやすくなる。そうした循環を期待したい。

−今後の利便性向上の計画にどのようなものがあるか。

私たちは裏方として、仲介をしっかりやるということに尽きる。電力事業者にとって取引にかかわるすべての費用は事業コストになる。会員の皆さまの負担を減らすため、私たちはコスト削減に努め、私たちは事務方の人数を切り詰め、事業所も貸しビルにするなどの努力をしている。

市場の整備と利便性の向上の努力も続ける。東京工業品取引所で設置の検討が進む先物電力市場との連携も課題の一つだ。会員が重なる可能性があるので、その負担が増えないように、資格をどうするかの検討をしている。経産省、事業者の間でネガワット市場(使用削減分の取引)、欧州で導入が検討されている容量市場(設備の使用に対価を出す取引)の研究にも参加する。

今後の電力事業の重要なインフラとして、電力・エネルギー事業者の皆さまの役に立ちたい。そして活用いただき、市場が役割を果たせば、日本の電力事業がより効率的になっていくはずだ。

【注】この原稿は「エネルギーフォーラム5月号」掲載の原稿を要約、抜粋した。転載を許可いただいた関係者の方に感謝を申し上げる。

(2016年5月16日掲載)

This page as PDF

関連記事

  • 福島第一原発事故は、日本人が原子力とともに生きるかどうかの選択を突きつけています。他方、化石燃料には温暖化や大気汚染などのリスクもあり、私たちの直面している問題は単純ではありません。十分なエネルギーを利用し、豊かな環境を維持しながら、私たちは持続可能な文明を構築できるのでしょうか。
  • 上野から広野まで約2時間半の旅だ。常磐線の終着広野駅は、さりげなく慎ましやかなたたずまいだった。福島第一原子力発電所に近づくにつれて、広野火力の大型煙突から勢い良く上がる煙が目に入った。広野火力発電所(最大出力440万kw)は、いまその総発電量の全量を首都圏に振向けている。
  • 判定の仕組みも問題だ。原子力規制委員会の決定は、制度上は5人の委員の合議で決まることになっている。しかし今は島崎氏が地震関係業務を一人で引き受けている。島崎氏はこれまで原子力関係の規制づくり、判定の経験がほとんどない地震学者だ。委員に就任してから、事業者とほとんど対話をせずに規制基準をつくり、そしてその後は自ら判定者となってしまった。日本各地の原発の周辺で意味があるとは思えない「穴掘り」を繰り返している。
  • アゴラ・GEPRにこれまで寄稿した、オックスフォード大学名誉教授(物理学)のウェイド・アリソン氏が「命のための原子力」という本を英国で出版した。
  • 全国の電力会社で、太陽光発電の接続申し込みを受けつけないトラブルが広がっている。これは2012年7月から始まった固定価格買い取り制度(FIT)によって、大量に発電設備が設置されたことが原因である。2年間に認定された太陽光発電設備の総発電量は約7000万kW、日本の電力使用量の70%にのぼる膨大な設備である。
  • 今年は2019年ということもあり、再エネ業界では「住宅太陽光発電の2019年問題」がホットトピックになっている。 と、いきなり循環論法のようなおかしな言い回しになってしまったが、簡単に言ってしまえば、そもそも「住宅太陽光
  • 事故を起こした福島第一原子力発電所から流れ出る汚染水問題が社会的な関心を集めている。この問題は2020年に開催の決まった東京五輪にも、福島事故の収束にも影を落とす。本当の状況はどうなのか――。
  • ロシアの国営原子力企業ロスアトムが、日本とのビジネスや技術協力の関係強化に関心を向けている。同社の原子力技術は、原子炉の建設や安全性から使用済み核燃料の処理(バックエンド)や除染まで、世界最高水準にある。トリチウムの除去技術の活用や、日本の使用済み核燃料の再処理を引き受ける提案をしている。同社から提供された日本向け資料から、現状と狙いを読み解く。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑