電気自動車、より使いやすく-充電インフラ整備で普及に期待

2016年06月13日 11:00
石井 孝明
経済ジャーナリスト
(写真1)「道の駅ごか」に設置された急速充電器と日産リーフ。中央は登場する本郷社長

次世代自動車として期待される電気自動車(EV)の急速充電器の設置が着々と進んでいる。道の駅、高速道路、コンビニなどに15年度末で約6100台が置かれ「走行中の電池切れが不安」というユーザーの懸念は解消されつつある。EVの増加は私たちの生活を変え、充電器のつくる新しい電力需要と自動車のガソリン、軽油の削減はエネルギーの姿を変えていくはずだ。

補助金活用でインフラ整備

道の駅ごか(茨城県五霞町)を、3月の日曜日の朝に訪ねた。道の駅は休憩施設と地域振興施設が一体になった場所で、全国に約1100ケ所ある。車社会である北関東圏では近隣の人々のショッピングの場として賑わっている。ここの道の駅ごかも、買い出し客で混雑していた。

ここに今年3月から急速充電器が1台置かれた。日産のEVリーフの充電を見た。充電器を車体のソケットにつなげるだけで簡単に行え、半分の電池の残量は約15分でいっぱいになった。

決済は専用のカードで行う。日産のサービスでは、同社製のEVには月会費3240円で何度でも公共の場にある指定された充電器を利用できる。また他にもカードの決済サービスがある。 (写真1)

「国が補助金でほぼ全額を負担し手続きも業者がやってくれたので設置した。利用者は1日数台とぽつりぽつりだが、今後は増えてほしい」と、道の駅の職員は期待していた。

この充電器は企業コンソーシアム「E-OASISプロジェクト」が五霞 町との共同事業として設置した。充電器メーカー、通信会社、電気工事会社の連合体だ。その中心でコンサル会社の大樹環境システム(東京)の本郷安史社長が自らのリーフで案内してくれた。どのカーナビでも、今は充電器の位置が自動的に地図に映る。

本郷氏は、もとはテレビ番組製作のプロデューサー。取材でEVの可能性に魅了され、普及のためのさまざまな活動を行ってきた。「EVに関心を持つ人は多いものの、『電気切れ』の懸念を持つ人がいる。公共の充電器の数が増えれば懸念を解消できる」と本郷氏は期待する。E-OASISは全国160 の道の駅に急速充電器を導入し、他にもゴルフ場、ショッピングセンターなどに充電器を設置するインフラ作りを行っている。

充電器は1台約250万円と高額だが、2015年度は国がほぼ全額を補助した。本郷氏らは補助金が下りるまで手続きの大半を代行し、充電費用の一部を受け取る。「EVは『あったらいい』という夢の段階は終わった。今後は、いかに利用者の利便性を上げるかの具体的な取り組み、インフラ作りが普及のために必要だ」と本郷氏は言う。

20年にEV100万台の普及計画

政府・経産省は、温暖化対策と次世代産業育成への期待から、厳しい財政事情の中でも積極的にEVとPHV(プラグインハイブリッド車:充電走行の可能なガソリン車)の普及を支援している。

経産省は2012年度の補正予算で、急速充電器などEVのインフラ整備事業のために1005億円の基金を設置。230億円を使って予算を組み替え、2014年度は300億円の予算を支出し、2年でほぼ使い切った。この集中的な努力で充電器の設置状況は変わった。

現在の急速充電器の設置数は全国に約6100基(16年4月時点)。約3万3000所あるガソリンスタンドよりは少ないが、総延長18.4万キロメートル(㎞)の国道と都道府県道で30㎞ごとに設置した数とほぼ同じになる。16年度の当初予算は25億円と減らし、共同住宅や未設置の公共施設に増やす意向という。

設置場所に密度のばらつきがあるものの、数だけ見れば普及は一定程度進んだ。道の駅以外にも、高速道路のサービスエリア、宿泊施設、郊外型の大型量販店には、たいてい置かれている。

「役所の力だけでは無理で、民間企業を巻きこんだ。数はそろいつつあるので、今後は状況をチェックし、未設置の場所の設置を増やしたい」。経産省自動車課課長補佐の田中宗介氏は現状をまとめた。田中氏らが短時間で普及を成し遂げたのは、旅行会社や高速道路会社など、各業界でネットワークを持ちカギとなる企業との連携を強めたからだ。EVは社会的イメージがよいため、補助金があれば関係者は積極的に充電器の設置に動いた。

同自動車課は関係企業や、研究者などを集めて昨年「EV・PHV ロードマップ検討会」を立ち上げ、今年3月に現状と課題をまとめた報告書を作成した。(同研究会報告書)ここでEV(PHV含む)の普及台数を現在の14万台から2020年に100万台に伸ばすという意欲的な目標を発表した。それを支えるために充電インフラの一段の整備の必要性を指摘した。

田中氏によれば、同課は今後、住まいや職場の近くの充電器の設置を支援するという。「エネルギーシステム改革で、電力事業者は付加価値を付けることに頭を絞っている。EV向けの急速充電器は地域デイベロッパーや、他業種と協力する重要な道具になるはずだ。また職場に充電器とEVの導入が増えれば、通勤や移動のスタイルが変わる」と、社会の変化を期待した。

自動車メーカーでは日産、三菱が EVとPHVに力を入れ、16年には国内ではトヨタが、海外ではダイムラーやアウディなど欧州勢が新モデルを発売する。EVの走行距離も日産リーフ15年型のフル充電で300㎞と、3年前の1.5倍になるなど改良も進む。「『2020年にEV・PHVを最大で100万台の普及 を目指す』という目標は、チャレンジングだが決して荒唐無稽ではない」と、田中氏は言う。

動き鈍いエネルギー業界、消費者の関心も必要

ただしEVについて、既存の電力会社、またガソリンスタンドのネットワークを支える石油業界の動きは鈍い。電力インフラの整備、そして「チャデモ」と呼ばれる急速充電器の日本規格づくりは、東京電力が中心的な役割を果たした。

しかし福島第一原発事故の後に動きは止まってしまった。ある電力会社の幹部は「自由化対応と原発再稼動などで今は手一杯。EV対応は現場からまだ要望が少ないので後回しだ」と、事情を話した。

前述の検討会の報告書では「(エネルギー事業者から)EV・PHVユーザーや充電器の設置者 にメリットが還元されるようなサービスについても、 今後検討 が期待される」という一文が盛り込まれた。EVやPHVのユーザーは電力をたくさん使う優良顧客だ。そういう人らに料金やサービスの制度を整え、EV普及の支援をしてほしいという関係者の要望を反映したという。

EV向けの電力は、エネルギー需要で成長の見込める数少ない分野だ。そして化石燃料の使用を減らし、省エネのツールとなる社会的意義も大きい。電気自動車の普及を支え、社会を変える次の一手が、エネルギー業界からほしい。

そして消費者や事業者も、可能性のあるEVに、関心を向けるべきだろう。CO2の削減、化石燃料を使わない環境への優しさそして快適さはEVの特長だ。さらに今回の充電器設置の取り組みで、電気切れという懸念もなくなった。福島第一原発事故の前は安く、余剰の夜間の原発の発電した電力で、EVを家で充電して電力使用の平準化を促進する構想が各電力会社にあった。さらに災害の電力バッテリーになることも、期待された。原子力発電が正常化されれば、そのような使い方ができるようになるだろう。

この充電設備の広がりによって、EVの普及が一段と促進されてほしいと願う。

(2016年6月13日掲載)

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