原子力規制委、訴訟対応で解説書

2016年07月12日 20:48

 

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会見する原子力規制委員会の田中俊一委員長

原子力規制委員会は6月29日、2013年7月に作成した新規制基準をめぐって、解説を行う「実用発電用原子炉に係る新規制基準の考え方に関する資料」を公表した。法律、規則で要求していることを整理するという名目だが、頻発する行政訴訟をめぐった対応策の意味もあるという。

規制委は活断層問題など、法律上あいまいさを残した問題を放置したままだ。法的に問題のある活動への対応を早急に行って、公正な行政を行うべきであろう。行政訴訟の心配よりも、自らの活動の見直しが必要である。

何が示されたのか

今回の規制委の資料では以下の論点について解説が示されている。

①原子力規制委員会の専門技術的裁量、②規制の策定経過、③国際原子力機関の安全基準との関係、④深層防護についての考え方、⑤共通要因故障対策についての考え方、⑥重大事故等対処施設についての要求事項、⑦電源の確保についての要求事項、⑧使用済燃料貯蔵施設の要求事項-以上のようなものだ。そして問いと答えの例を示す形で、説明を行っている。

今後は地震などの自然現象の問いと答えを用意し、必要に応じて内容を追加して記載表現の工夫を試みるという。

例えば①の原子力規制委の専門技術的裁量については「原子力規制委員会が設置許可基準規則を策定するにあたり、裁量が認められるのか、認められる場合、その内容はどのようなものか」という問いが設定されている。

これについて答えは、原子力は災害時に、「広範で深刻な影響」をもたらすため、「多角的、総合的見地」から、「専門技術的知見を取り入れた」行政の審査が認められていると解説した。そして関連法規の根拠条文などを紹介している。

②の新基準策定過程では、答えとして「福島事故の知見を取り入れ」、設備面、規制当局の組織面での改善策を、列挙している。

頻発する訴訟対応が意図

原子力規制については、電力会社などの原子力事業者から「分かりづらい」「恣意的」という批判が根強い。そうした状況の中で、解説文書を公表して、多少でも規制当局の意図を明確にし、行政の透明性を高めることは前向きの変化だろう。

ただし、この文章は原子力事業者や社会への説明責任のためというよりは、規制委、また下部組織の原子力規制庁の組織防衛、特に訴訟を念頭に置いたものであるようだ。田中俊一規制委員会委員長は会見で「訴訟に使える資料をまとめてもらった」と認めた。更田豊志委員は公開された規制委の会合で「これまで法律や規制で要求していることと、実際の対策の関係を整理した文章が欠けていた。これらをつなぐ文章は重要」と、この取り組みの狙いを解説している。

現在、規制委を相手どった行政訴訟は16件起こされている。このうち14年5 月には福井地裁が関電大飯原発の運転差し止めを認める判決を下し、16年3月には大津地裁が再稼動した関電高浜原発で、運転差し止めの仮処分を下した。いずれも規制委の新規制基準の安全性を否定したものだ。前者は覆り運転が認められたが、後者は現在も係争中だ。

判決を下した裁判官は、事実認定での誤り、規制委員会の新規制基準についても理解不足であることが原子力の専門家によって指摘されている。(参考・「工学者が見る大飯原発差し止め判決の誤り」)しかし、それは規制委の説明不足も一因だ。

反原発訴訟を弁護士らが連絡しながら各地で起こしており、それは今後も続きそうだ。この文章は、そうした動きへの対応策として、使える道具になるだろう。

詰めていない法的な問題はまだ放置

ところが、規制委は重要な法的対応を行っていない3つの問題を抱えている。

第1に原発を止める法律上の根拠の問題がある。規制委・規制庁は、すべての原発について、新規制基準に適合しているかどうかの審査を求めた。その根拠は、13年3月に出された通称「田中私案」と呼ばれる「原子力発電の新規制施行に向けた基本的な方針(私案)」という私文書にすぎない。原子炉等規制法など、関連の法律上は運転が原則であって、動かしながら審査を継続してできる。ところが、今は一律に止めて、審査を行っている。

第2にバックフィット(法の遡及適用)の問題がある。原子炉等規制法43条の3で「発電用原子炉設置者は、発電用原子炉施設を原子力規制委員会規則で定める技術上の基準に適合するように維持しなければならない」と書いてある。ところがバックフィット規制の負担と責任については、どこにも書いていない。欧米のどの原子力規制の法律でも、その負担の行政と民間の負担の分担について書かれている。

第3に活断層の問題がある。規制委は原子炉の下に存在する活断層の判定について、有識者会合という法律上の規定のない組織に判断を委ねている。活断層があった場合に、新規制基準では、原子炉は稼動できないことになっている。有識者会合の判断の法的な根拠、原子炉の審査にどのように影響するかについて、規制委は「判断の重要な参考にする」との認識を示しただけで、法的な詰めをしていない。

(以上参考・「原子力規制委員会のバックフィット規制の問題点」池田信夫アゴラ研究所所長)

規制委は訴訟を恐れる

これらの法律上の問題が放置されることで、電力会社は工事負担が増加し、原発の再稼動が遅れている。新規制基準が2012年7月に施行されてその適合性審査を現在行っているが、それを満たしたと判断されて稼働したのは日本の48基の原発のうち、わずか4基にすぎない。

また工事対策費用は10電力会社の類型で3兆円を超えている。さらに2011年からの原発の停止によって、代替燃料費となる天然ガスの代金は12兆円に達し、各電力会社、そして国民が負担した。こうした問題に規制委は向き合っていない。

「重要な法律問題が放置されたままで、訴訟対応の小手先の説明をするのは違和感がある」というのは電力会社幹部の感想だ。

一連の規制委の動きが示すことは、独善性が批判される規制委であっても、行政訴訟を警戒しているということだ。日本の電力会社はおとなしく、規制委の明らかにおかしいと思われる行動にもしたがうことを繰り返している。しかし訴訟という手段も、一つの意思表示として使うべきではないだろうか。

また規制委も、弁解の文章を作る前に、自らの行動を法律に基づいて動かす適正なものにする必要があるだろう。

原子力規制行政をめぐる状況は、いつも、何かが、おかしい。

(2016年7月12日掲載)

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