遺伝子組み換え作物は安全と米科学アカデミーが報告

2016年08月12日 00:47

23395-0309437385-450米科学アカデミー(NAS)は5月17日、遺伝子組み換え作物は人間や動物が食べても安全であり、環境を害することはないと結論を示す報告書をまとめた。がんや肥満、胃腸や腎臓の疾患、自閉症、アレルギー、遺伝的疾患などの増加を引き起こす証拠はないとした。

20人の生物、倫理、法律家など多様な分野の専門家が、過去20年間の約900件におよぶ研究成果を調べ、80人へのヒアリング、草案段階で公開し、700ものをまとめて包括的に評価した。

 遺伝子組み換え作物、増収、農薬削減のプラス面

報告書によると、遺伝子組み換え作物は収量の向上に役立ち、害虫や雑草から収穫物を守り、農薬の削減や農家の収入向上などの効果がある。遺伝子組み換え作物と野生種の交配による危険性は確認されなかった。しかし、その拡大が、耕地や土地にどのような影響があるかは不確実性があるとした。

ただし、日本や欧州では食品に遺伝子組み換え作物を使う際に表示義務を課しているが、報告書では「表示義務化は国民の健康を守るために正当化されるとは思われない」と指摘。ただ「製品表示には食品の安全性を超える意味がある」として、社会的、経済的に幅広く検討する必要があるとした。報告は400ページにおよぶ。(特設ホームページ

遺伝子組み換え作物とは何か

遺伝子組み換え作物は遺伝子を人工的に改変し、害虫や病害への抵抗や生産量などを高めたもの。商品化された種苗が市場販売されたのは1996年で、今年で20年前になる。現在は米でつくる大豆やトウモロコシ、綿の9割超が遺伝子組み換えとなっている。

販売企業は、モンサントやデュポンといった、遺伝子工学技術を持つ米国の先進企業。特にモンサントは、特定の農薬をかけても耐えられる植物を開発。種子と農薬をセットにする販売を行っている。

消費者の「健康への影響が不透明だ」との声を踏まえ、米のバーモント州でも表示義務化を法制化する動きがある。また米国は政府行政機関が、全国での表示の統一化を行うことを検討している。

SONY DSC

モンサント社の研究所で展示された、遺伝子組み換え作物の大豆。畑から1週間が経過した上から反時計回りに、無農薬、農薬を使った普通の作物、遺伝子組み換え(GM)作物の順。害虫の影響で、GM作物の効果が分かる。

 慎重意見も掲載

このリポートは広範な提言もある。従来型の交配による品種改良と、人為的に遺伝子組み換えをした示したことは、新しい技術の区別は明確ではないということもしめした。ただし、規制、監視体制は従来の食物検査から大きく変わっていないために、新しい議論を行うべきであるとも提言している。また米国でも約6割の消費者が、遺伝子組み換え作物の安全性に懸念を示しているという。そのために、作物の議論を終わらせることは期待できず、両論を併記している。

また遺伝子組み換え作物でも、害虫が農薬や植物からの毒に耐性を持つことが確認されている。そうした変化の観察も重要としている。

「私たち熱的な要求、シンプルで、概括的で、確実なものを提供した」と、委員会の委員長であったノースカロライナ大学のフレッド・グルード博士は語った。

専門家が積極的に社会問題に関与する米国の力

遺伝子組み換え作物をめぐる議論は、米国では冷静だ。これは他の科学的な知見を必要とする問題でも同じ事がいえる。米国科学アカデミーが、社会的な問題への関与に積極的だ。

一方で、日本では首相への勧告を行う日本学術会議が、社会問題への解決にまったく機能していない。福島の放射線問題、狂牛病問題などでは、科学的知見に基づく、国民への呼びかけをしなかった。米国の取り組みは、日本が科学問題に向き合う中で大変参考になるだろう。

タグ:
This page as PDF

関連記事

  • (写真は北海道の畑、イメージ。提供はぱくたそ) アゴラ研究所、またその運営する環境問題のシンクタンク・GEPRは8月9日(火曜日)に、遺伝子組み換え作物(GM作物)の生産現場の見学・試食会を行います。参加費用は無料です。
  • 世界の農業では新技術として遺伝子組み換え作物が注目されている。生産の拡大やコスト削減、農薬使用の抑制に重要な役割を果たすためだ。ところが日本は輸入大国でありながら、なぜかその作物を自由に栽培し、活用することができない。健康に影響するのではないか、栽培すると生態系を変えてしまうのではないかなど、懸念や誤った情報が消費者の間に広がっている。この問題を議論するために、アゴラ研究所は「第6回シンポジウム 遺伝子組み換え作物は危険なのか?」を今年2月29日に東京・内幸町のイイノホールで開催した。
  • 筆者は米国穀物協会の招待で、8月初旬米国のイリノイ州の穀倉地帯を取材した。そこで印象に残ったのは米国の農業の、産業としての力強さだった。 遺伝子組み換え作物、ITを利用し、農家は「補助金はいらない」「フォローマネーがモッ
  • (写真1)モンサント社ロゴとホームページ(米国本社)(日本モンサント) 米国農業探訪取材・第2回・全4回 第1回「社会に貢献する米科学アカデミー」 食糧不足は技術で解決できるのか? 「世界の食糧が足りなくなるのではないか
  • アゴラ研究所は2016年12月20日、農業技術情報の提供を行う日本バイオテクノロジーセンターと共催で、第6回アゴラ・シンポジウム「成長の可能性に満ちる農業−新技術と改革は日本再生の切り札となるか」を開催した。
  • 12月22日公開。日本の農業の姿が変わろうとしています。 規制と補助金主導から、自立と競争への転換です。改革が遅れた分野ですが、それゆえに発展に大きな「伸びしろ」があります。
  • 遺伝子組み換え(GM)作物に関する誤解は、なぜ、いつまでたっても、なくならないのか。1996年に米国で初めて栽培されて以来、「農薬の使用量の削減」などたくさんのメリットがすでに科学的な証拠としてそろっている。なのに、悪いイメージが依然として根強い背景には何か理由があるはずだ。
  • 米国の農業を米国穀物協会の取材支援によって8月に現地取材できた。それを全4回に渡って紹介する。(第1回、全4回) 米国科学アカデミー(NAS)は5月、「遺伝子組み換え作物-経験と見通し」という報告書を発表した。この作物を総合的に評価するものだ。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑