【映像報告】政治の失敗のツケを新電力に回す経産省

2016年11月30日 11:32

アゴラ研究所の運営するネット放送「言論アリーナ」。11月29日放送分は「政治の失敗のツケを新電力に回す経産省」というテーマで、今行われている東電福島事故の処理、電力・原子力再編問題を取り上げた。

( YouTube)(ニコニコ生放送

出演は池田信夫(アゴラ研究所所長)、宇佐美典也(再エネコンサルタント)、司会は石井孝明(ジャーナリスト・GEPR編集者)。東電の処理に焦点を当て議論の要旨抜粋をまとめた。

福島事故処理、虚構の対策

石井・放射能のデマ、原発の賛否という話が、東京電力福島第一原発事故の後で、今でも一般に流れています。それよりも、現実ではとんでもない問題が起こっているのです。東電の経営と、福島第一原発の事故処理です。大問題なのに、社会的な関心はなぜか大きくないように見受けられます。

経産省は10月に「東電改革・1F問題委員会」を立ち上げました。そこでは東電負担分の事故処理費用、廃炉費用、除染費用が、当初11兆円としていましたが膨らむ見通しが示されました。

 図1 toden_bunri5_sj

出典:経産省資料

報道によると経産省は、非公式に処理総額を20兆円と試算したとされます。これは事故後20年の見通しです。東電は2010年に売上高5兆円なのに経常利益の割合は少なく2000億円の会社です。払えるわけがありません。また東電は、経営改善の根本策である、柏崎刈羽原発の再稼動もできない状況です。

電力自由化で小売り自由化が今年4月から行われました。経産省は、この送配電網を使う際の託送量に事故費用を負担させることになっています。問題はかなりもめるでしょう。なんでこうなったのか、振り返ろうと思います。

池田・この問題は複雑です。処理スキームでは原則として、処理・賠償費用は、東電がすべてを支払い、国民の負担はゼロということになっています。ただし一時的に、このためにできた原子力損害賠償・廃炉等支援機構が、貸し付けて資金繰りを支援することになっています。

ところが18兆円から20兆円以上の負担になるわけです。18兆円は全電力会社の1年間の売上高にほぼ等しい。これを東電一社が負担するのは不可能でしょう。本当にするなら、電気料金はものすごい上昇になります。そんなことはすぐ分かるはずなのに、虚構が積み重ねられてきました。

事故直後の処理から、問題が始まっています。事故の際に使われる原子力損害賠償法ですが、通常は無限責任ですが、当時、異常な天災があったとき、事業者は免責され、国が支援するということになっていました。「3条但し書き」という条項です。関係者はこれが適用されると思い込んでいました。ところが当時の民主党政権が、その適用を拒否し、東電負担が政治的に決まりました。

84_1

東電本店・筆者撮影

石井・これは池田さんがさまざまなところで指摘していることに加えて、朝日新聞記者の大鹿靖明さんが『メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故』(講談社)という本で書いています。

宇佐美・難しい問題ですが、まとめれば、民主党政権のせい、できないことをできるとやってしまったということでしょう。経産省が緊急融資を要請。そのときに銀行側は事故の責任を負わない確約を求め、経産省がそれを受け入れざるを得なかったと聞いています。

東電の処理、破綻という選択はあった

池田・大鹿さんは当時の松永和夫経産省の事務次官が2兆円の貸し出しに口約束をしたと名前を出しています。この事典で、国が原発事故の面倒見ませんと言えないとは思いますが、そこからボタンのかけ違いが起こり、連鎖しておかしくなっていきました。

この政治の決定の結果、東電は無限責任を負うことになりました。東電が無限責任を負うと債務超過になります。そうした場合、処理のパターンは決まっています。通常の企業の破綻処理では、負債を背負う「バッド東電」と、優良資産を継承して事業を存続させる「グッド東電」に分けます。そして清算会社の「バッド」が賠償を背負い、国、そして「グッド」からの支援を続けるのです。日本航空の破綻処理でも同じことをしました。日本航空では、再上場することで、国の負担もかなり減額されたのです。

私も含めて、専門家がこの処理方法を事故直後に提言したのです。企業法務の専門家である弁護士の久保利英明さん、同じく野村修也さんも参加していました。この提言には、反原発の飯田哲也さんも賛同しました。専門家の一致した意見でした。そうしないと、債務関係、負担がぐちゃぐちゃになるとみな懸念していたのです。しかし国民負担が嫌気され、いわゆる「ゾンビ」という、東電が生きているか、死んでいるのか分からない状況になってしまいました。これは無責任体制を生んでいます。

東電処理策は複雑になっていて、誰もよく分からない。薄く広く負担をさせ、隠そうと経産省が動いています。支援機構には事故を起こしていない電力会社が毎年2000億円支出しています。それに法的根拠はない。これは憲法違反で、内閣法制局で「財産権の侵害だ」と疑問を示しました。このことはほとんど知られていない。全国民が事実上、事故処理の負担を電気料金を始めているのです。

石井・東電で働く人も、すべてがあいまいだと苦しいでしょう。東電に福島原発事故処理を見せてもらいました。賠償はかなり優遇され、また除染、廃炉対策も、リスクゼロの厳重すぎる対応をしていて、経費がかかりすぎる状況です。そして、幹部の人は、福島復興のために、人生をかけるという態度をしていて、頭が下がります。しかし、責任を事故に関係のない東電の若い、他の社員が引き受けるのは酷です。

まず「割れ鍋に綴じ蓋」のようになっている、賠償負担、処理負担を線引きして、その縮小も視野に入れていくべきです。

4cf983104d106b687a187cc489f85fd4

原発事故直後の様子(東電提供)

宇佐美・私は福島に太陽光発電所をつくる手伝いに行っています。賠償によって若い人が働かない例も一部にあり、問題があることはたしかです。しかし、農業などで30年、底に住んだ人が、仕事ができなくなる状況になるなどの問題が出ています。石井さんは、電力会社の人に取材するから、経営の視点から見てしまうのでしょう。

石井・その面はあり、私の意見は視野の狭い部部があります。幅広く問題を見なければなりませんね。

東電は破綻処理を一回しなければ、国民負担が増える

池田・ただし問題の明らかな点もあります。今処理スキームでは、責任が明確でないから、無限のディープポケットがあるとみんな勘違いしてしまった。

宇佐美・その通りで、誰も責任をとっていないのが問題なんです。いわば太平洋戦争みたいなもので、頑張っても勝てないわけです。どこかで「負け」を認め、国の負担を受け入れなければなりません。終止符打つのは政治家しかない。誰かが昭和20年のように「終戦の詔勅」を書かなくてはいけないわけです。できるのは、ここまでこじれたら安倍首相しかいないでしょう。

石井・1990年のバブル崩壊の後で銀行の不良債権処理は2004年ごろまでかかりました。それで損失が膨らんだ。日本は、まずい話を政治が決断しないし、それも常に遅い。できるでしょうか。また東電がなくなるということに、怖さを感じてしまいます。

池田・いまさら原賠法「3条但し書き」をが、適用するのは難しい。ただし東電を破綻処理する方法はまだできます。東電のサービスを存続させて、電力供給を維持しながら処理する方法は、説明したようにあるわけです。

そして、日本の会計規則は改良され、減損会計になっています。大きな損失を早めに出し、ガラス張りにするという考えの会計です。東電は年度末の決算が乗り越えられないでしょう。

破綻処理し、責任を株主、資金の貸し手、債権者などが責任を負わせるしかない。これが資本主義の原則です。

そして最後にはどう頑張っても、国民負担が出るわけです。その現実を認識して処理制度を作り直さなければなりません。国民負担はいくらかという議論、そしてその処理の方法さえ、まだ決まっていない。例えば、税金で投入する、電気料金で負担するで、制度も経済への影響も変わってきます。国会で議論をすべきです。

早く決めないと大変なことになります。

参考・池田信夫氏の東電処理案の論考「迷走する原発事故の賠償・廃炉費用の負担 無責任体制を断ち切り原発を「一時国有化」せよ」(JBpress)

screenshot1

放送で、左から、石井、宇佐美、池田の各氏

【「東電を会社更生法で整理すべきだと思いますか?」というニコ生アンケートでは母数不明ながら、「すべき」という答えが77.8%、「すべきでない」の22.2%を大きく上回った】

 (編集・石井孝明)

This page as PDF

関連記事

  • 「アジア投資銀行の狙いは、中国が「赤い原子炉」を輸出するための融資体制づくりではないか。また中国の中東からの石油、天然ガスを運ぶ海上交通路を安全にするための、途中の港湾の整備にも使うだろう。アジア開銀がやっていない融資だ。中国のエネルギー戦略と、この銀行は密接に結びついている」。日米の参加がないことで話題になっている中国主導のアジア投資銀行(AIIB)について、在東京のアジア某国の外交官は、取材に見通しをこう述べた。
  • 2015年7月15日放送。出演は村上朋子(日本エネルギー経済研究所研究主幹)、池田信夫(アゴラ研究所所長)、石井孝明(ジャーナリスト)の各氏。福島原発事故後、悲観的な意見一色の日本の原子力産業。しかし世界を見渡せば、途上国を中心に原発の建設が続く。原子力産業の未来を、最新情報と共に考えた。
  • 私は自民党議員連盟「FCVを中心とした水素社会実現を促進する研究会」(通称:水素議連)の事務局長として、会長である小池百合子衆議院議員(編注・インタビュー時点)や仲間と共に、水素社会の実現を政治の立場から支えようとしている。水素の活用による国民の幸福を確信している。
  • 原子力の始まりが、政治の主導であった歴史を紹介している。中曽根氏の演説は格調高いが、この理想はなかなか活かされなかった。
  • 今年のCOP18は、国内外ではあまり注目されていない。その理由は、第一に、日本国内はまだ震災復興が道半ばで、福島原発事故も収束したわけではなく、エネルギー政策は迷走している状態であること。第二に、世界的には、大国での首脳レベルの交代が予想されており、温暖化交渉での大きな進展は望めないこと。最後に、京都議定書第二約束期間にこだわった途上国に対して、EUを除く各国政府の関心が、ポスト京都議定書の枠組みを巡る息の長い交渉をどう進めるかに向いてきたことがある。要は、今年のCOP18はあくまでこれから始まる外交的消耗戦の第一歩であり、2015年の交渉期限目標はまだまだ先だから、燃料消費はセーブしておこうということなのだろう。本稿では、これから始まる交渉において、日本がどのようなスタンスを取っていけばよいかを考えたい。
  • 学生たちが語り合う緊急シンポジウム「どうする日本!? 私たちの将来とエネルギー」(主催・日本エネルギー会議)が9月1日に東京工業大学(東京都目黒区)で開催された。学生たち10名が集い、立場の違いを超えて話し合った。柔らかな感性で未来を語り合う学生の姿から、社会でのエネルギーをめぐる合意形成のヒントを探る。
  • 1ミリシーベルトの壁に最も苦悩しているのは、いま福島の浜通りの故郷から避難している人々だ。帰りたくても帰れない。もちろん、川内村や広野町のように帰還が実現した地域の皆さんもいる。
  • 核燃料サイクル事業の運営について、政府は2月に関連法の改正案を閣議決定し国会で審議が続いている。電力システム改革による競争激化という状況の変化に対応するために、国の関与を強める方向だ。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑