炭素税を「国境調整」する保守派の提案

2017年04月03日 20:00
池田 信夫
アゴラ研究所所長


パリ協定を受けて、炭素税をめぐる議論が活発になってきた。3月に日本政府に招かれたスティグリッツは「消費税より炭素税が望ましい」と提言した。他方、ベイカー元国務長官などの創立した共和党系のシンクタンクも、アメリカ政府が炭素税を採用するよう求める提言を出した。彼らの柱は4つある:

  1. ゆるやかに炭素税を増税し、40ドル/トン程度にする
  2. 炭素税の収入は一般財源として全国民に還元する
  3. 国際的な炭素税率の違いは国境調整し、アメリカ国内で課税する
  4. 環境規制を大幅に緩和する

この提言のポイントは、炭素税による国際競争力の低下を国境調整することだ。炭素税の最大の問題は、高い税率をかけると製造業の国際競争力が低下することだが、彼らの提言では、国内で払った炭素税は輸出するとき払い戻され、輸入品には国境で(両国の差に相当する)炭素税をかける。

これは共和党が提案している税制改革案の考え方で、すべての輸入品に20%の関税を課し、輸出品に20%の補助金を出す。フェルドシュタインの説明では、国境税は輸入減と輸出増をもたらすので、アメリカの貿易赤字は減るが、貿易収支はその国の投資と貯蓄の差額に等しいので、国境調整で変化しない。変化するのは為替レート、つまりドル高だ。たとえば日本からの輸入品には20%の関税がかかるが、円が20%下がると、その効果は相殺される。

フェルドシュタインやマンキューが提案していることでわかるように、国境調整税は保護主義ではない。これは課税ベースを(個人や法人の)所得から支出に切り替え、その負担を国際的に均等化するものだ。彼らの炭素税も、需要を抑制する消費税の代わりに「外部性」を内部化する炭素税をかけようというものだ。

たとえばアメリカが40ドル/トンの炭素税をかけると、炭素税のない国はそれに「ただ乗り」して輸出できる。このときアメリカが輸入品にも40ドルの炭素税をかけ、輸出品には炭素税を払い戻せば、貿易収支に中立になる。日本で財界が炭素税に反対しているのも「国際競争力」が理由だが、これも国境調整すれば炭素税のバイアスはなくなる。

しかし国際調整税は保護主義的なイメージが強いので、輸入コストの上がる流通業界や石油業界などが反対している。足元のふらついてきたトランプ政権が、石油業界の反対を押し切って実行できるかどうかも不明だが、もしアメリカがこういう課税の国際的な均等化を始めると、税制の枠組が大きく変化する可能性がある。

This page as PDF

関連記事

  • 今年のCOP18は、国内外ではあまり注目されていない。その理由は、第一に、日本国内はまだ震災復興が道半ばで、福島原発事故も収束したわけではなく、エネルギー政策は迷走している状態であること。第二に、世界的には、大国での首脳レベルの交代が予想されており、温暖化交渉での大きな進展は望めないこと。最後に、京都議定書第二約束期間にこだわった途上国に対して、EUを除く各国政府の関心が、ポスト京都議定書の枠組みを巡る息の長い交渉をどう進めるかに向いてきたことがある。要は、今年のCOP18はあくまでこれから始まる外交的消耗戦の第一歩であり、2015年の交渉期限目標はまだまだ先だから、燃料消費はセーブしておこうということなのだろう。本稿では、これから始まる交渉において、日本がどのようなスタンスを取っていけばよいかを考えたい。
  • 電力自由化は、送電・配電のネットワークを共通インフラとして第三者に開放し、発電・小売部門への新規参入を促す、という形態が一般的な進め方だ。電気の発電・小売事業を行うには、送配電ネットワークの利用が不可欠であるので、規制者は、送配電ネットワークを保有する事業者に「全ての事業者に同条件で送配電ネットワーク利用を可能とすること」を義務付けるとともに、これが貫徹するよう規制を運用することとなる。これがいわゆる発送電分離である。一口に発送電分離と言ってもいくつかの形態があるが、経産省の電力システム改革専門委員会では、以下の4類型に大別している。
  • 原子力の始まりが、政治の主導であった歴史を紹介している。中曽根氏の演説は格調高いが、この理想はなかなか活かされなかった。
  • アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクであるGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。
  • 福島の原発事故では、原発から漏れた放射性物質が私たちの健康にどのような影響を与えるかが問題になっている。内閣府によれば、福島県での住民の年間累積線量の事故による増加分は大半が外部被曝で第1年目5mSv(ミリシーベルト)以下、内部被曝で同1mSv以下とされる。この放射線量では健康被害の可能性はない。
  • 原子力問題のアキレス腱は、バックエンド(使用済核燃料への対応)にあると言われて久しい。実際、高レベル放射性廃棄物の最終処分地は決まっておらず、高速増殖炉原型炉「もんじゅ」はトラブル続きであり、六ヶ所再処理工場もガラス固化体製造工程の不具合等によって竣工が延期に延期を重ねてきている。
  • きのうの言論アリーナでは、東芝と東電の問題について竹内純子さんと宇佐見典也さんに話を聞いたが、議論がわかれたのは東電の処理だった。これから30年かけて21.5兆円の「賠償・廃炉・除染」費用を東電(と他の電力)が負担する枠
  • 今年7月から再生可能エネルギーの買取制度が始まります。経産省からは太陽光発電で1kWh42円などの価格案が出ています。この価格についての意見を紹介します。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑