気候変動枠組条約の「枠組」を見直すとき

2017年06月02日 16:52
池田 信夫
アゴラ研究所所長

アメリカのトランプ大統領が、COP(気候変動枠組条約締約国会議)のパリ協定から離脱すると発表した。これ自体は彼が選挙戦で言っていたことで、驚きはない。パリ協定には罰則もないので、わざわざ脱退する必要もなかったが、政治的スタンドプレーだろう。だがこの際、COPの枠組に意味があるのかどうか考え直してもいいのではないか。

地球全体で排出可能な温室効果ガスの総量を決めて各国に割り当てるという考え方は自由経済にはなじまないもので、実効性もあやしい。京都議定書は、気候変動対策としては役に立たなかった。世界の温室効果ガス排出量は次の図のように、1997年の京都議定書以降も増え続けている。

特に議定書から除外された途上国の排出量が大きいが、これはパリ協定で見直され、彼らも入れた包括的な枠組になった。その代わり「プレッジ&レビュー」という自主規制で、排出量の削減枠を守ることになった。この考え方は、もともとはアメリカの一部で成功した排出権取引でできたものだ。

普通の公害対策では有害物質の排出量を濃度で決めるが、これだと排気や水を薄めればクリアできる。総量規制すると、古い(排出量の多い)工場が操業できなくなる一方、環境基準をクリアした新しい工場はフル操業しても枠が余る。こういうとき、地域全体の排出量を考えると、新しい工場の余っている枠を古い工場が買うことが効率的だ。

これは排出権の枠に所有権を設定して取引するもので、もとはロナルド・コースの発想である。普通の商品に財産権を設定するのと同じように、マイナスの環境汚染にも所有権を設定して取引すれば、古い工場も操業でき、新しい工場は排出権を売ってもうかり、パレート最適な配分が実現できる。

しかしこの枠組の前提には、所有権が一義的に決定できるという条件がある。たとえば工場が汚染物質の量をごまかしたり、契約を守らなかったりしたらどうするのか。アメリカの一つの州の中なら、州政府が監視して違反を摘発し、紛争は裁判所で解決できるが、国際間の取引には監視機関がなく、司法機関も機能しない。

国際的な約束を強制執行する機関がないことはどんな条約も同じだが、パリ協定のような途上国まで入れた多国間の条約では、正直に削減するOECD諸国に経済的な負担が集中し、中国やロシアが排出権を売ると称して金をもらう「ただ乗り」が起こりやすい。その最大の被害者が日本である。

世界全体の削減枠を(紳士協定で)決めるのはいいが、その実施方法として、統制経済的な排出権取引は効率が悪い。他方、炭素税は国際競争力が下がるので、マンキューやフェルドシュタインの提案している炭素税の国境調整が合理的だ。COP以降の気候変動の枠組を考えるべきだと思う。

This page as PDF

関連記事

  • 原子力問題のアキレス腱は、バックエンド(使用済核燃料への対応)にあると言われて久しい。実際、高レベル放射性廃棄物の最終処分地は決まっておらず、高速増殖炉原型炉「もんじゅ」はトラブル続きであり、六ヶ所再処理工場もガラス固化体製造工程の不具合等によって竣工が延期に延期を重ねてきている。
  • 1.はじめに 雑誌「選択」の2019年11月号の巻頭インタビューで、田中俊一氏(前原子力規制委員会(NRA)委員長)は『日本の原発はこのまま「消滅」へ』と題した見解を示した。そのなかで、日本の原子力政策について以下のよう
  • 今年の8月初旬、韓国の電力需給が逼迫し、「昨年9月に起こった予告なしの計画停電以来の危機」であること、また、過負荷により散発的な停電が起こっていることが報じられた。8月7日の電気新聞や9月3日の日本経済新聞が報じる通り、8月6日、夏季休暇シーズンの終了と気温の上昇から供給予備力が250万キロワット以下、予備率が3%台となり、同国で需要想定と供給責任を担う韓国電力取引所が5段階の電力警報のうち3番目に深刻な状況を示す「注意段階」を発令して、使用抑制を呼びかけたという。
  • 現在経済産業省において「再生可能エネルギーの大量導入時代における政策課題に関する研究会」が設置され、再生可能エネルギー政策の大きな見直しの方向性が改めて議論されている。これまでも再三指摘してきたが、我が国においては201
  • 世界の先進国で、一番再生可能エネルギーを支援している国はどこであろうか。実は日本だ。多くの先行国がすでに取りやめた再エネの全量買い取り制度(Feed in Tariff:FIT)を採用。再エネ発電者に支払われる賦課金(住宅37円、非住宅32円)は現時点で世界最高水準だ。
  • 東日本大震災とそれに伴う津波、そして福島原発事故を経験したこの国で、ゼロベースのエネルギー政策の見直しが始まった。日本が置かれたエネルギーをめぐる状況を踏まえ、これまでのエネルギー政策の長所や課題を正確に把握した上で、必要な見直しが大胆に行われることを期待する。
  • 現在、パリ協定第4条第19項に基づくパリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略の策定作業の最終段階にある。4月25日に政府原案が公表され、パブリックコメントに付された。政府原案の概要は以下のようなものである。 【基本的考え
  • 高浜3・4号機の再稼動差し止めを求める仮処分申請で、きのう福井地裁は差し止めを認める命令を出したが、関西電力はただちに不服申し立てを行なう方針を表明した。昨年12月の申し立てから1度も実質審理をしないで決定を出した樋口英明裁判官は、4月の異動で名古屋家裁に左遷されたので、即時抗告を担当するのは別の裁判官である。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑