ドイツ「ジャマイカ連立政権」のエネルギー温暖化政策の行方

2017年10月30日 19:28
有馬 純
東京大学大学院教授

本年9月の総選挙の結果、メルケル首相率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU)は全709議席のうち、246議席を獲得して第1党の座を確保し、中道左派の社会民主党(SPD)が153議席で第2党になったものの、これまで大連立を組んできたこれらの2大政党はいずれも大幅に議席を減らすこととなった。他方、移民排斥を唱える極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)は94議席を獲得して第3党に躍り出た。社民党は連立を離脱するとしており、メルケル首相にとって極右政党との連立は選択の外であり、再選挙を防ぐためには80議席を獲得した自由民主党(FDP)、67議席を獲得した緑の党との間で「ジャマイカ連立」を組むしかない。ジャマイカ連立とは三党のシンボルカラー(CDUの黒、FDPの黄、緑の党の緑)がジャマイカ国旗の三色に一致することに由来する。

しかし企業寄りの経済自由主義を志向するFDPと「大きな政府」を志向する緑の党が、国際問題で主導的役割を担おうとするCDUと平和主義を標榜する緑の党が、ユーロ圏強化のための仏独協力を重視するCDUと欧州会議主義のFDPがそれぞれ対立関係にあり、連立協議は年内いっぱいかかるとの観測が強い。そしてエネルギー環境政策についても三党のポジションには際立った違いがある。

温室効果ガス削減目標について、FDPのリントナー党首は「経済資産を守るためにもドイツは非現実的な国別温室効果ガス目標を廃止し、EUの方針に足並みをそろえるべきだ」と主張している。他方、緑の党スポークスマンのバエルボック氏は「FDPはパリ協定を支持しておきながら、再生可能エネルギーの拡大や温室効果ガス削減目標に反対するのは精神分裂的だ。法的拘束力があり、予見可能な温室効果ガス削減目標を設定するための法律を制定すべきだ」と主張している。

EU-ETSに関しては三党とも有益なツールであると考えているが、緑の党はクレジット価格に下限を設定し、クレジット価格低下を防ぐため、余剰クレジットを段階的に廃止すべきであると主張している。他方、FDP、CDU/CSUはこうした措置は市場介入的、競争歪曲的であるとして反対している。

石炭火力の将来に関し、緑の党が排出原単位の多い20の石炭火力発電所を直ちに閉鎖し、2030年までに脱石炭を行うべきだと強く主張しており、選挙キャンペーンの中でも「脱石炭法」の制定を提案している。他方、CDU/CSUやFDPは選挙期間中、脱石炭をプライオリティにしてこなかった。CDU/CSUは脱化石燃料は長期の目標であるが、その目標年としては2030年ではなく、今世紀末を目指すべきだとしており、FDPは化石燃料は予見しうる将来において引き続き不可欠のエネルギー源だとしている。石炭火力が集中しており、CDUとFDPが連立を組んでいるノルトライン・ヴェストファーレン州のラシェット首相は緑の党を指して「脱石炭狂(exit frenzy)」と非難している。

自動車の脱炭素化については緑の党が英国やフランスよりも10年早い2030年に内燃機関自動車の新車販売禁止を主張しているのに対し、CDU/CSU、FDPは電気自動車の拡大やバッテリー開発を方向性としては支持しつつも、性急な販売禁止期限の設定には反対している。FDPのリントナー党首は「ガソリン・ディーゼル車販売禁止は経済的ダメージが大きく、環境面では疑問があり、実現不可能である。そもそも電気自動車が将来の唯一のオプションであるか疑問であり、技術中立的な政策をとるべきだ」と述べており、CSUは内燃機関自動車販売禁止は連立協議のレッドラインであるとしている。

再生可能エネルギーについては緑の党が再生可能エネルギー電力のシェアを現在の35%から2030年までに100%に引き上げること、CDU/CSUとSPDの連立政権時に国民負担抑制のために導入された再エネ導入上限を撤廃し、再生可能エネルギー法(EEG)を強化することを主張している。これに対してFDP、CDU/CSUは再エネ補助を段階的にフェーズアウトし、オークションを含め、市場メカニズムを活用した枠組みへに移行すべきであると主張している。ババリア州のFDP、CDU/CSUは陸上風力について、直近の家屋との間に一定以上の距離を置く、環境面でセンシティブな地域には建設を禁止するなど、陸上風力の野放図な拡大を規制するルールを導入している。これに対して緑の党はこれに強く反発している。

このようにエネルギー環境政策において三党の立場の違いは大きい。緑の党は環境大臣のポジションを要求しており、現在、環境省が担当する再生可能エネルギー、原子力安全に加え、経済省管轄下にある他のエネルギー政策の権限も自分たちのポートフォリオの下に移すことを主張しているという。更に緑の党はIEAの世界エネルギー見通し(World Energy Outlook) におけるレファレンスシナリオを各国の導入済み、今後導入見込みの政策を盛り込んだ「新政策シナリオ(New Policy Scenario)」ではなく、「2℃以下シナリオ(Well Below 2 Degrees Scenario)」にすることを主張しているそうだ。

緑の党は環境至上主義政党なので、このような主張をすることは驚くにはあたらない。連立を組むためには緑の党の協力が不可欠であり、彼らが最重要視する環境政策において彼らの顔を立てざるを得ないだろう。ドイツのエネルギー環境政策が更に環境面で過激性を増す可能性が高い。そうなれば、国内ではまたぞろ、「ドイツを見習え」と拍手喝采する人が出てくるだろう。筆者は前回の投稿で「日独脱原発・再エネ同盟を結ぶ気にはとてもなれない」と書いたが、緑の党が連立政権に入ることにより、ドイツとのcommon ground がますます少なくなると感じている。翻って日本に緑の党のようなワン・イシュー政党がいない(日本みらいの党は発足してすぐに消滅した)ことを心から有難いと思っているのである。

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