国交省が作り出す「EVのジレンマ」

2017年11月08日 13:00
池田 信夫
アゴラ研究所所長

トヨタ自動車が、ようやく電気自動車(EV)に本腰を入れ始めた。今までも試作車はつくっており、技術は十分あるが、「トヨタ車として十分な品質が保証できない」という理由で消極的だった。それが今年の東京モーターショーでは次世代の技術「全固体電池」の開発に力を入れていると強調し、「EV企画室」を社内カンパニーに移管すると発表した。

しかし問題は技術だけではない。2040年ぐらいまでの長期では、EV(ハイブリッドを含む)の生産台数が内燃機関をしのぐという予想が多いが、その前提は配車サービス・カーシェアリングなどのTaaS (Transport as a Service)だ。充電は自家用車では限界があり、配車と充電を一体で行うインフラが整備されないと、EVの普及は進まない。つまりEVの普及は、

1.自動車の保有形態の多様化
2.内燃機関から電池への移行
3.自動運転などのIT化

という3要素が補完的に働いて進むと予想される。特にインフラ整備で重要なのは1だが、これは自動車業界にとって喜ぶべきこととも限らない。そうでなくとも都市部では「クルマ離れ」が進行し、図のように2012年から乗用車の国内販売台数は減っている(自動車工業会調べ)。この傾向は、配車サービスが普及すると、いっそう強まるだろう。

ところが役所の所管は、1は国土交通省、2は経済産業省、3は総務省とわかれ、しかも国交省にはEVの普及を促進するインセンティブがない。今年の国土交通白書は「イノベーションが切り拓く新時代と国土交通行政」がテーマだが、配車サービスについては、こう書いている。

自家用車を用いたいわゆる「ライドシェア」については、運行管理や車両整備等について責任を負う主体を置かないままに、自家用車のドライバーのみが運送責任を負う形態を前提としており、このような形態の旅客運送を有償で行うことは、安全の確保、利用者の保護等の観点から問題があり、極めて慎重な検討が必要

「極めて慎重な検討が必要」というのは、霞ヶ関文学で「やらない」という意味だ。ウーバーのサービスについてはタクシー業界が労使ともに強硬に反対しており、日本で認められる見通しは立たない。

タクシー業界の市場規模は自動車産業(52兆円)の3%ぐらいだが、衰退産業の政治力が弱いとは限らない。むしろ規制で守るしか生き残る道がないので、ロビイングの力は発達する(農業をみればわかる)。

中国では「滴滴」などの配車サービスの利用者が4億人以上に達するという。これは自家用車を買う経済力がないことが原因だが、中国政府は配車サービスと一体で充電インフラの整備も進めており、この分野で日本を圧倒する可能性もある。

これはパソコンがIBMの経営を脅かし、インターネットが電話料金を大きく引き下げたのと同じ破壊的イノベーションのジレンマだ。独占企業は消えるが、コストが下がって消費は広がり、産業全体は大きくなる。それを規制で止めることは既存企業を延命するだけで、結果的には業界全体がグローバル化の敗者になる。それが1990年代以降、日本のIT業界が経験したことである。

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