新潟県民の「NIMBY症候群」を解決する方法

2018年06月08日 09:00
池田 信夫
アゴラ研究所所長

新潟県知事選挙では、原発再稼動が最大の争点になっているが、原発の運転を許可する権限は知事にはない。こういう問題をNIMBY(Not In My Back Yard)と呼ぶ。公共的に必要な施設でも「うちの裏庭にはつくるな」という意味で、わかりやすい日本語に訳すと「地域エゴ」である。

これは原発に限らず迷惑施設の立地がむずかしい原因だが、理論的には「コースの定理」で解が求められる。電力会社が住民に「ワイロ」を出せばいいのだ。もう少し上品な表現でいうと、原発を運転する権利を住民から買えばいい。これはCO2の排出権取引と同じで、交渉コストが十分低ければ、パレート効率的な解が存在する。

柏崎刈羽原発の場合も、東電は地元に電源三法交付金など多くの迷惑料を払って「原発を建設する権利」を買ったが、新潟県の場合、柏崎刈羽が東電の発電所であることが問題をややこしくしている。ここで発電される電力は新潟県では使われないので、いつまで止めていても地元はコストをまったく負担しないのだ。

そのリスクははっきりしないがゼロではないので、平均的な新潟県民にとっては「原発のリスク>メリット」だが、柏崎市や刈羽村の住民にとっては交付金や雇用などのメリットが大きいので「リスク<メリット」である。新潟県民は「原発に不安がある」からそれに反対する米山知事を選んだのではなく、「原発が動かなくても困らない」から合理的な選択をしたのだ。

この仮説は、データで検証できる。もし新潟県民が原発に(経済的な価値には代えられない)絶対的な不安を感じているとすれば、反原発派の池田千賀子候補の支持率は地元で最高になるはずだが、今の票読みではその逆である。前回の知事選でも、自民党公認の森氏の得票率は刈羽村で最高だった。

つまり選挙民はかなり合理的に行動していると考えられる。地元市町村には経済的メリットが大きいが、平均的な県民にはメリットが少ないので、県知事は再稼動反対に傾く。これは他の立地県でもみられる傾向で、交付金が市町村に片寄っていることが大きな原因だ。

その解決法は、県全体に広くメリットをもたらすことだ。その方法としては県単位の交付金や地元振興策、あるいは東電が新潟県に安く電力を供給することも考えられる。2050年にCO2排出量を80%削減するというパリ協定の約束を実行するには火力発電を廃止するしかないので、原発を温存する公共的利益は大きい。「カネの問題じゃない」という人は多いが、NIMBYは合理的な行動なのでカネで解決できる。

This page as PDF

関連記事

  • 原油価格は年末に向けて1バレル=60ドルを目指すだろう。ただし、そのハードルは決して低くはないと考えている。
  • 原子力規制委員会により昨年7月に制定された「新規制基準」に対する適合性審査が、先行する4社6原発についてようやく大詰めを迎えている。残されている大きな問題は地震と津波への適合性審査であり、夏までに原子力規制庁での審査が終わる見通しが出てきた。報道によれば、九州電力川内原発(鹿児島県)が優先審査の対象となっている。
  • このタイトルが澤昭裕氏の遺稿となった論文「戦略なき脱原発へ漂流する日本の未来を憂う」(Wedge3月号)の書き出しだが、私も同感だ。福島事故の起こったのが民主党政権のもとだったという不運もあるが、経産省も電力会社も、マスコミの流す放射能デマにも反論せず、ひたすら嵐の通り過ぎるのを待っている。
  • 日本経済新聞
    日本経済新聞 5月18日公開。中国電力は17日、島根原子力発電所(松江市)1号機の廃炉計画を巡り、周辺自治体への説明会を松江市で開いた。
  • アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクであるGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。
  • 判定の仕組みも問題だ。原子力規制委員会の決定は、制度上は5人の委員の合議で決まることになっている。しかし今は島崎氏が地震関係業務を一人で引き受けている。島崎氏はこれまで原子力関係の規制づくり、判定の経験がほとんどない地震学者だ。委員に就任してから、事業者とほとんど対話をせずに規制基準をつくり、そしてその後は自ら判定者となってしまった。日本各地の原発の周辺で意味があるとは思えない「穴掘り」を繰り返している。
  • 4月3日は、台風並みの暴風雨が全国的に吹き荒れた。交通機関などの混乱にとどまらず、全国で死者3人、けが人は300人を超える被害を引き起こしている。東京電力のウェブサイトによれば、23時現在、同社サービスエリア内で約2100軒が停電中という。電気が止まってしまったご家庭はさぞ心細い思いをされているだろうと心配しつつ、同時に、嵐の中で必死に復旧作業にあたっているであろう、かつての同僚の顔が目に浮かぶ。私は昨年末まで同社に勤めていた。
  • 過去10年のエネルギー政策においては、京都議定書のエネルギー起源CO2排出削減の約束水準が大前提の数量制約として君臨してきたと言える。当該約束水準の下では、エネルギー政策の選択肢は「負担の大きい省エネ・新エネ」か「リスクのある原子力発電」か「海外排出権購入」かという3択であった。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑