被害者の再生産する「風評差別」の構造

2018年09月03日 17:00
池田 信夫
アゴラ研究所所長

福島のトリチウム水をめぐって、反原発派も最近は「危険だ」とはいわなくなった。トリチウムは環境基準以下に薄めて流せば人体に害はなく、他の原発ではそうしている。福島第一原発でも事故までは流していた。それをゼロにしろという科学的根拠はない。その代わり彼らがいうのは「風評被害で魚が売れなくなる」という話だ。

これを聞いて私が思い出したのは、子供のころの出来事だ。私の実家は京都の大きな被差別部落の隣にあり、子供のころよく差別事件が起こった。中でも根強く残ったのが結婚差別だった。このとき親が反対したのは「部落出身者と結婚してはいけない」という理由ではなかった。「私はかまわないが世間には偏見がある」という理由だった。

これは反原発派のいう「風評」と同じである。「トリチウムは危険だから流すな」というと、具体的にどういう量でどういう健康被害があるのか答えなければならないので、彼らは「科学的には危険でなくても世間が危険だと思っている」と問題をすりかえ、福島に対する差別を再生産するのだ。

3・11で放射能による健康被害はなかったが、風評被害は今でもある。福島の漁民はその被害者だが、それは彼らが事故処理を阻止する理由にはならない。これは部落差別を長年にわたって再生産してきた構造と同じ風評差別である。

差別を食い物にする人々は差別がなくなると困るので、問題をすりかえて差別を再生産する。反原発派がいうと「非科学的だ」と批判を受けるので、県漁連を利用する。東電も行政も、被害者に対しては何もいえないことを知っているからだ。

福島第一原発事故のほとんどの被害は、民主党政権とマスコミの作り出した風評被害である。これは心理的な問題なので、その心理を科学的に乗り超えない限り、福島への差別はなくならない。まず原子力規制委員会が、公式見解を発表すべきだ。

This page as PDF

関連記事

  • アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクGEPRはサイトを更新しました。 今週のアップデート 1)英国のEU離脱、エネルギー・気候変動対策にどのような影響を与えるのか 英国のEU離脱について、さまざまな問
  • 電力自由化は、送電・配電のネットワークを共通インフラとして第三者に開放し、発電・小売部門への新規参入を促す、という形態が一般的な進め方だ。電気の発電・小売事業を行うには、送配電ネットワークの利用が不可欠であるので、規制者は、送配電ネットワークを保有する事業者に「全ての事業者に同条件で送配電ネットワーク利用を可能とすること」を義務付けるとともに、これが貫徹するよう規制を運用することとなる。これがいわゆる発送電分離である。一口に発送電分離と言ってもいくつかの形態があるが、経産省の電力システム改革専門委員会では、以下の4類型に大別している。
  • 九州電力は川内原子力発電所1号機(鹿児島県薩摩川内市、出力89万kW)で8月中旬の再稼動を目指し、準備作業を進めている。2013年に施行された原子力規制の新規制基準に適合し、再稼働をする原発は全国で初となるため、社会的な注目を集めている。
  • 産経新聞によると、5月18日に開かれた福島第一原発の廃炉検討小委員会で、トリチウム水の処理について「国の方針に従う」という東電に対して、委員が「主体性がない」と批判したという。「放出しないという[国の]決定がなされた場合
  • 5月21日、大飯原発運転差し止め請求に対し福井地裁から原告請求認容の判決が言い渡さ れた。この判決には多くの問題がある。
  • 国境調整炭素税を提唱したフォンデアライエン次期欧州委員長 先般、次期欧州委員長に選出されたフォンデアライエン氏は今後5年間の政策パッケージ案において6つの柱(欧州グリーンディール、人々のために機能する経済、デジタル時代へ
  • 事故確率やコスト、そしてCO2削減による気候変動対策まで、今や原発推進の理由は全て無理筋である。無理が通れば道理が引っ込むというものだ。以下にその具体的証拠を挙げる。
  • 原子力規制委員会は24日、原発の「特定重大事故等対処施設」(特重)について、工事計画の認可から5年以内に設置を義務づける経過措置を延長しないことを決めた。これは航空機によるテロ対策などのため予備の制御室などを設置する工事

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑