北海道で再び大規模停電を起こさないために考えるべき論点について

2018年10月16日 19:00
宇佐美 典也
エネルギーコンサルタント

本稿の目的は、北海道で再び大規模な停電が起きないように、北海道胆振東部地震の経験から学ぶべき教訓を考えることにある。他方現在北海道の大停電については電力広域的運営推進機関(以下「広域機関」)において検証委員会が開催され、大停電の発生原因の分析、停電後の供給力確保に至るプロセス、再発防止策、などが議論されているところである。従ってこれらの論点については、ここで中途半端な推測を披露するよりは、委員会での議論の結果が出るのを待つのが正しい態度であるように思える。そこで本稿ではより前に遡って、胆振東部地震以前に北海道エリアにおいては、どのような電源脱落対策がなされていたのか整理した上で、「今後の発電所の運用方針はどうあるべきか」ということについて簡単に考えてみたい。

本題に入ろう。今回の大地震のように、何らかの突発事象により大規模な電源脱落が起きた場合、大規模な停電を避けるためには、当然のことながら短時間で需給を再び一致させる必要がある。そのため、各送配電系統は電源脱落の影響をカバーしうる供給力の余剰資源を常時確保しておかなければならないことになる。こうした余剰資源は「予備力」「調整力」「マージン」といった形で指標化・具現化され、各エリアの送配電事業者はあらかじめ緊急時に備えてその確保に務めている。専門語が先行したが、それぞれの言葉の定義については、2015年度に開催された「調整力等に関する委員会」において概ね以下のように定められている。

  • 「調整力」とは、供給区域における周波数制御、需給バランス調整その他の系統安定化業務に必要となる発電設備、電力貯蔵装置、ディマンドレスポンス、その他の電力需給を制御するシステムその他これに準ずるものの能力をいう。
  • 「予備力」とは供給区域において、上げ調整力と上げ調整力以外の発電余力を足したものをいう。なお予備力は出力増加までにかかる時間に応じて、瞬動予備力(10秒程度)、運転予備力(10分程度)、待機予備力(数時間)に分けられる。
  • 「マージン」とは、電力系統の異常時または需給ひっ迫時等の対応として、連携線を介して他の供給区域と電気を需給するため、または電力系統を安定に保つために、各連携線の運用容量の一部として広域機関が管理する容量をいう。

上記のように調整力、予備力、マージンは関連性の深い概念であるが、その関係性について理解を簡便にするため、大規模電源脱落時の役割という観点から一度整理してみよう。

電力広域的運営推進機関ホームページから

電力広域的運営推進機関ホームページから

上図は広域機関がまとめた大規模かつ長期的な供給力喪失への対策のイメージを示したものだが、大規模電源の脱落が起きた場合の望ましい対応を、上図を参考に整理すると以下のようになる。

  • 事故直後は一部の負荷を切り離して周波数を維持させ、
  • 他方10秒程度で出力増加できる瞬動予備力を発動し、
  • それでも電源脱落の影響がカバーできない場合は場合は連携線を介して広域機関の管理するマージンから必要相当の電力供給を受け周波数を安定させる。
  • 連携線を通じて電力供給を受けている間に、上げ調整力を活用し、運転中の火力発電の出力増加を図り、また需給調整契約に基づいて負荷の追加的な遮断を図る。
  • それでも出力が足りない場合は10分程度で出力増加できる水力発電などの運転予備力を起動させ供給力を回復し、遮断した負荷を回復させて停電から復旧する。
  • その後随時、待機予備力となっている停止発電所を稼働させて、また電源の復旧を進め、徐々に連携線の運用を平時に戻す。

電源脱落があったとしても、この範囲で対応できれば、長時間、大規模な停電が発生しないで済む。今回の胆振東部地震の残念ながら、マージンおよび調整力の範囲で対応できなかったため、周波数維持に失敗しブラックアウトに至り、節電要請なども含めて綱渡りの総力戦に挑むことになった。当然ながら、このような状況はリスクに極めて脆弱であるし、また地元経済に大きな負の影響を及ぼすので望ましくはない。そこで今後に対する有意義な知見を得るためには、胆振東部大地震以前に北海道において、どの程度の電源脱落が想定され、またその対策が講じられていたのかということを確認することが重要になる。

上図は、広域機関が北海道本州間連携設備(北本連携線)のマージンの必要量を、予備力・調整力との関係からまとめたものである。簡単に解説すると、原則として北本連携線のマージンの設定量は、最大電源ユニットの停止を想定して、

<算定式F:(a)最大電源ユニット出力―系統定数×周波数変動分(1Hz)×(b)最小需要>

で算出することとしているが、 式の結果が(c)マージンの上限(60万kW)を超える場合、

<(a-b)-c>

に相当する容量を、瞬動予備力で積みますことで対応することとしている。具体的に数値を当てはめると、

  • aについては北海道エリアの最大電源ユニットは泊原発3号機の91.2万kWだが、これに若干のバッファーを上乗せして94.1万kWとしている
  • bについては系統定数(0.06)と周波数変動分(1)はそれぞれ定数で、最小需要については年度によって異なるが、2017年度の計画ベースでは345.8万kWとしている
  • これを算定式Fに入れると73.352万kWとなるが、これは北本連携線の(c)マージンの上限60万kWを上回っているため、マージンの設定量は60万kwとなる
  • 加えてマージンの不足分<(a-b)-c>の13.352万kW分は瞬動予備力でカバーする

ということになる。。。と、色々小難しく述べたが、結果だけ言えば、北海道電力は少なくとも94.1万kWの電源脱落までは調整力とマージンで対応できるように準備していた“はず”ということである。では現実はどうだったのかを見てみよう。

上の表は地震直前の北海道の各電源の発電量をまとめたものである。まず気になるのが瞬動予備力に相当するGF量は8.95万kWしか確保されておらず、13.352万kWに至っていないことである。ただし、定格出力からの短時間の超過運転分をGF量と同様認めれば16.9万kWまでは瞬動予備力として確保が見込めるため、やや甘くなるが、この点についてはスレスレ及第点は与えられる体制は整えていたと言えよう。これに北本連携線のマージン分60万kWとエリア需要(308.7万kW)の周波数1Hz変動分18.5万kWを足せば、北海道電力は概ね95.4万kW程度の電源脱落に耐えられる体制は整えていたと評価できる。

しかしながら、現実には赤枠で囲った奈井江1号機、知内1号機、伊達2号機、苫東厚真1号機を除いて発電機は停止し、残った4つの発電機の運営も不安定な状況に陥った。結果として火力計119.4万kW、水力計9.0万kW、総計128.4万kWの電源が脱落し、想定範囲を大きく超えたため大規模停電が起きてしまい、その後も調整力不足のため、最終的には周波数を維持できず、全道ブラックアウトにつながってしまった。

以上端的にまとめると、

  • 北海道電力は事前の準備として最大95.4万kW程度の電源脱落までには対応できうる体制を整えていた
  • しかしながら現実には128.4万kWの電源脱落が生じたため、大規模な停電が起き、周波数の維持に失敗し、最終的には全道ブラックアウトした

ということになるが、ここから今後、今回のような大規模停電を避けるために学ぶべき教訓は、例えば以下のようなものになりうるだろう。

①今後は、電源脱落の想定を、電源ユニット単位ではなく、発電所単位に改めるべきなのではないか?

②また、①のような前提の下で、今後は発電所単位の電源脱落に耐えられるように、送配電事業者はより分散的な系統運用を行うべきなのではないか?

①に関してだが、今回の地震で苫東厚真発電所は、ユニット単位(最大70万kW)ではなく、最終的には発電所レベル(165万kW)の電源脱落を起こした。地震という災害の特性を考えれば、これは当然想定される話なのだが、このようなケースは超希頻度リスクとしてこれまで想定されていなかった。現実に発電所レベルのダウンという事態が起きたのだから、今後は電源脱落の想定もユニット単位から発電所単位に変更すべきであろう。

続いて②に関してだが、①のように電源脱落の想定を変えた場合、今回のような発電所の超集中運用は難しくなる。現状であれば北海道エリアが対応できる電源脱落はせいぜい110万kW規模までで、それ以上の電源脱落があれば、ブラックアウトとまでは行かずとも一部地域の長期停電は避けられなくなる可能性が高い。これは冬の北海道では命に関わる問題であろう。

したがって、例えば苫東厚真であれば<1号機(35万kW)+4号機(70万kW)=105万kW>、<1号機(35万kW)+2号機(60万kW)=95万kW>という発電所の組み合わせは認められるにしても、<2号機(60万kW)+4号機(70万kW)=130万kW> のような運用は認められるべきではないだろう。もちろん仮に泊原発が再稼働することがあったにしても、この議論は適用されるべきである。ただし原発に関しては、揚水発電所の夜間の運転予備力増強に貢献するため、その分は考慮に入れてもいいのかもしれない。いずれにしろ同原発の基毎の出力(1,2号機(57.9万kW)、3号機(91.2万kW))を考えると、1,2号機の同時運転までは許されても、3号機に関しては単独運転を条件にすべきであろう。2019年3月の北本連携線の30万kW分の増強以降は、苫東厚真2号機と4号機の併用や、泊原発3号機と1,2号機いずれかの併用も視野に入れてもいいのかもしれない。

以上やや雑な議論になったかもしれないが、今回の震災は「電源の分散」の重要性を我々に痛感させた。これを機に、政府として、この観点で何らかの系統の運用指針の見直しを図るべきであろうし、また、住民の命を守るためにも各地方自治体は電力会社と系統運用について協議をしていく体制のあり方を考えるべきなのではないかと思う。

This page as PDF

関連記事

  • 3.11福島原発事故から二年半。その後遺症はいまだに癒えておらず、原子力に対する逆風は一向に弱まっていない。このような状況で、原子力の必要性を口にしただけで、反原発派から直ちに「御用学者」呼ばわりされ、個人攻撃に近い非難、誹謗の対象となる。それゆえ、冒頭で敢えて一言言わせていただく。
  • 福島第一原発事故から3年近くたち、科学的事実はおおむね明らかになった。UNSCEARに代表されるように、「差し迫った健康リスクはない」というのがほぼ一致した結論だが、いまだに「原発ゼロ」が政治的な争点になる。この最大の原因は原子力を悪役に仕立てようとする政治団体やメディアにあるが、それを受け入れる恐怖感が人々にあることも事実だ。
  • 原発で働く作業者の労働条件の劣悪さや被ばく管理の杜撰さがメディアで取り上げられる際、現場の最前線の作業者が下請、孫請どころかさらにその下に入っている零細企業に雇用され、管理の目が行き届かず使い捨ての状態であると書かれる場合が多い。数次にわたる請負体制は「多層構造」と呼ばれているが、なぜそうなっているかも含め、その実態はあまり知られていない。
  • フィナンシャル・タイムズ
    英フィナンシャル・タイムズ7月19日記事。シェールガスで大量の生産が始まった米国から産出の中心である中東へガスが輸出された。エネルギーの流れが変わろうとしている。
  • 3.11から7年が経過したが、我が国の原子力は相変わらずかつてない苦境に陥っており、とくに核燃料サイクルやバックエンド分野(再処理、プルトニウム利用、廃棄物処分など)では様々な困難に直面している。とりわけプルトニウム問題
  • JBpressの私の記事を「中国語に訳したい」という問い合わせが来た。中国は内燃機関で日本に勝てないことは明らかなので、EVで勝負しようとしているのだ。それは1980年代に日本に負けたインテルなどの半導体メーカーが取った
  • 東日本大震災で事故を起こした東京電力福島第一原子力発電所を5月24日に取材した。危機的な状況との印象が社会に広がったままだ。ところが今では現地は片付けられ放射線量も低下して、平日は6000人が粛々と安全に働く巨大な工事現場となっていた。「危機対応」という修羅場から、計画を立ててそれを実行する「平常作業」の場に移りつつある。そして放射性物質がさらに拡散する可能性は減っている。大きな危機は去ったのだ。
  • 日本では福島第一原発事故の後で、世論調査では原子力発電所の再稼動や将来にわたる原子力発電利用についてネガティブな意見が多い。一方、世界に目を転じると、ドイツのように原子力の段階的廃止を明確に標榜した国は少数で、多くの国が将来のエネルギー安全保障やCO2対策などから、原子力開発を推進あるいは拡大する方向にある。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑