原発のテロ対策工事で運転を停止する必要はない

2019年04月25日 16:10
池田 信夫
アゴラ研究所所長

原子力規制委員会は24日、原発の「特定重大事故等対処施設」(特重)について、工事計画の認可から5年以内に設置を義務づける経過措置を延長しないことを決めた。これは航空機によるテロ対策などのため予備の制御室などを設置する工事だが、予定より大幅に遅れ、5年の期限内に工事が終わらない見通しだ。

NHKニュースより

NHKニュースより

このため電力会社が経過措置を延長するよう要望していたが、規制委員会が延長しない方針を決めたため、図のように最大13基の原発に影響が出る見通しだ。この決定をNHKは「運転の停止を命じることを決めました」と報じているが、これは誤りである。

いま安全審査の終わっていない原発が止まっているのは、規制委員会が停止を命じたからではない。2013年に田中私案という非公式のメモで「規制の基準を満たしているかどうかの判断を、事業者が次に施設の運転を開始するまでに行うこととする」と決めたからだ。

これは停止命令ではなく、規制委員会が規制基準に適合しないと判断しただけだ。安念潤司氏も指摘するように、原子炉等規制法では安全審査は運転と並行して行う制度設計になっており、規制基準と運転をリンクさせた田中私案は誤りだ。これが再稼働問題の混乱する原因である。

もともと規制委員会は「再稼働の認可」をしているわけではない。政府答弁でも、「発電用原子炉の再稼働を認可する規定はない」と明言しているが、田中私案で両方を混同したため、規制委員会が規制基準に適合すると認めるかどうかが事実上の再稼働の基準になってしまった。

特重はバックアップ施設なので、工事は本体の原子炉を運転しながらできる。たとえ5年の経過措置が終わっても、運転を停止する技術的な必然性はないのだ。まして規制委員会が運転停止を命令する必要はない。

法的には、規制委員会は原子炉の停止命令を出すことができる(原子炉等規制法43条の3の23)が、日本では前例がない。命令に対して電力会社が行政訴訟を起こしたら、国が敗訴するおそれが強い。規制委員会は従来のように「規制基準に不適合」という判断を示して自発的な停止を求めるのだろうが、電力会社が従わない可能性もある。

この問題については安倍政権が「原子力規制委員会が世界で最も厳しいレベルの新規制基準に適合すると認めた原発のみ、地元の理解を得ながら再稼働を進める」という方針を決めたが、これには法的根拠がない。内閣が「緊急性のない施設については運転しながら規制基準に適合させる」と決めれば、原発は動かせるのだ。

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