米国核不拡散エリート集団の欺瞞と笹川平和財団提言

2019年06月24日 16:00
河田 東海夫
元原子力発電環境整備機構(NUMO)理事、元核燃料サイクル開発機構(JNC)理事

米国の核不拡散エリート集団

米国には、カーター政権以来伝統的にPuの民生利用や再処理に強く反対する核不拡散論者たちがいて、一種の「核不拡散エリート集団」を形成している。彼らの多くは民主党政権で安全保障関連の役職を経験した元政府高官たちで、退任後、同分野の民間シンクタンクや大学で活動を続ける。彼らに共通するのは、核の不正転用防止のためのIAEA保障措置制度の存在や、テロリストによる核物質等の盗取防止のための核セキュリティシステムの存在を全く無視して、「すべてのプルトニウムは兵器転用が可能」とし、日本のプルトニウムの蓄積は地域安全保障上の軋轢を生むとの国際懸念論を声高に主張することである。

現在日本が保有するプルトニウムは、すべて品位が悪い原子炉級プルトニウムで、発熱が大きすぎるため、ミサイルに搭載する核弾頭に使用するのには全く不都合で本格的核武装用には使えない。たしかに、航空機で敵国上空に飛び、投下寸前に組み立てるタイプの原爆なら、最新の技術を加味することで相当の爆発威力を発揮できる。しかしそんなものでは、自動小銃の時代に火縄銃を持ち出すようなもので、今の時代には役立たない。仮に日本が核武装するとしても、原子炉級プルトニウムの利用は、技術的にありえない。

そもそも、厳格な保障措置制度の下では、日本が隠匿して核兵器開発を進めることは不可能であり、本気でそれを進めるためには、核拡散防止条約から脱退し、核の傘を提供する日米安保条約も破棄することになる。エネルギーの9割以上、食料の約6割を輸入に頼る日本は、その報復として降りかかる全世界からの厳しい経済制裁にはまったく耐えようがなく、政治選択としてもそれはありえない。

日本が保有するプルトニウムはあくまでも備蓄エネルギー資源(プルトニウム47トンはスーパータンカー170隻分の原油に相当)である。不正転用リスクは保障措置制度で完全に抑え込まれているのであるから、それを一定量蓄積し、保持していくことは決して後ろめたいことではなく、他国からとやかく言われる筋合いのものではない。

米国の核不拡散論者たちの日本のプルトニウムに対する国際懸念論(注1)は、以上のような実態を完全に無視した極度に誇張された脅威論に立脚し、日本の再処理封じ込めを狙った戦術的レトリックなのである。

米露解体核プルトニウム処分計画の漂流

2000年に米露間で、戦略核兵器削減条約(START)等に基づいて進められる核兵器解体で生ずる余剰プルトニウムを双方で34トンずつ処分する協定(PMDA)が締結された。合計1万7千発分の核弾頭の消滅を意味し、核の脅威削減に向けての画期的な協定であった。紆余曲折はあったが、米国は軽水炉で、またロシアは高速炉(BN800およびBN600)で、ともにMOX 燃料として燃やすことで合意され、米国では2007年に当該プルトニウムをMOX 燃料に加工するための施設MFFFの建設がサバンナリバーで開始された。

しかしながら、直接処分政策をとる米国自身が軽水炉でMOX燃料を燃やすことに対する米国核不拡散エリート集団からの反発は根強く、彼らは、2012年にMFFFの建設費高騰が表面化したのを契機に、MOX燃焼計画放棄に向けた強烈なロビー活動を開始した。こうした動きに呼応し、オバマ大統領は2016年2月に、MFFFの建設を打ち切り(MOX燃焼計画破棄を意味する)、希釈処分を検討する方針を示した(注2)。

希釈処分とは、酸化物粉末にしたプルトニウムを希釈用粉末(成分未公表)で希釈混合して容器に密閉し、そのまま地層処分場(WIPPを想定)に埋設する方式で、処分コストを大幅に軽減できる。しかし、この方式は、解体核プルトニウム処分の議論が始まった当初に米国科学アカデミーが提示した処分方法選定上の重要な判断基準である「使用済燃料基準」(注3)を満たさないことから一旦棄却された方式である。ロシア側は米国が進めようとしている希釈処分では、兵器級プルトニウムを再び核兵器に戻す潜在的可能性が否定できないと強く反発し、2016年10月にプーチン大統領はPMDAの履行を停止する大統領令を発行した。2015年にBN800を完成させ、クラスノヤルスクに自主技術によるMOX燃料工場も完成させたことで、ロシア側の解体核プルトニウム燃焼体制は完全に整った。しかし、PMDAは米露が同時進行的に処分を進めることを前提とした双務協定であり、ロシアが納得する方式で米国側の処分が進まない限り、ロシアのプルトニウム処分も進むことはない。米国側の迷走で、PMDAは完全に暗礁に乗り上げてしまい、実質的に流産してしまったのである。

米国の核不拡散エリート集団の大いなる欺瞞

前述したオバマ大統領によるMFFF建設打ち切りの決定を強力に後押ししたのは、その前年の2014年9月に米国核不拡散エリート集団の中核メンバーである14名の高名な専門家(注4)が当時のDOE 長官アーネスト・モニツ氏に送った書簡である。この書簡で彼らは、希釈処分への変更を支持し、MOX燃焼計画を断念することを強く勧告した。モニツ氏自身、2013年5月にDOE 長官に就任する前は、MOX 燃焼計画は高くつくと繰り返し批判してきており、その意味で14人の専門家の盟友ともいえる。そのモニツ氏は著名な脱原発団体である憂慮する科学者連盟の元会長をDOEの実務を取り仕切る右腕(Chief of Staff)に据えた。彼の指揮下のDOEは、MFFFの建設費高騰問題に関してはきわめて冷淡で後ろ向きな対応に終始し、DOE自身の運営のマズさを棚に上げ、価格高騰の責任のすべてを工事受注者に押し付けた。その結果、受注者との信頼関係は完全に損われ、そのことが建設費高騰の負のスパイラルを著しく助長させた。14人の専門家の書簡は明らかにこうしたDOEとの間のマッチポンプであった。書簡では、彼らがMOX燃焼計画断念を勧告する理由を以下のように述べている。

「(米国が)MOX 計画とそのリサイクルを継続することは、中国、日本及び韓国のプルトニウム・リサイクル推進論者を助け、その他の国にも、プルトニウムの分離・リサイクルは分別ある非核兵器国が関与できる行為であるとの幻想を抱かせる。」

「今MOX計画を終わらせることは、米国の核不拡散目標にとって、特に都合が良い。日本は、六ケ所で大型再処理工場の運転を今にも開始しようとしている。米国がMOX 計画を止めることで、プルトニウムがまったく経済価値を持たないということを明確に示すことは、日本に運転開始を先送りさせる上で米国をより強い立場に立たせることができる。」

「更には、日本だけでなく、韓国や中国に、プルトニウム燃料の商業利用活動を延期する決定に加わることを求める好機となる。」

こうした理由を前面に出す一方で、彼らが推奨する希釈処分は、米国科学アカデミーが提示した使用済燃料基準を満たさないことや、PMDAにおけるロシアとの合意に反しており、米露間の解体核プルトニウム処分計画を頓挫させるリスクが高い(実際そうなった)ことなど、全く意に介していない。

START-II調印の翌年の1994年1月に米国科学アカデミーの国際安全保障・軍縮委員会(CISAC)は余剰核プルトニウムの管理・処分に関する最初の報告書を取りまとめた。CISACは、核兵器解体で生ずる余剰の核兵器材料の存在を、米国および国際社会における「今そこにある危機」(clear and present danger:注5)と呼び、米露が協調して早急にその対策を講ずる必要性を強い危機感を持って訴えた。それから様々な障壁を乗り越えてようやく構築できた危機回避策がPMDA なのである。14人の専門家の書簡からは、そのPMDA(すなわち余剰核プルトニウムの脅威削減)を犠牲にしてまで、核不拡散エリート集団の悲願である民生用再処理・プルトニウム利用の放逐を達成しようとする異様な執念を見て取ることが出来る。彼らにとっての「今そこにある危機」は、行き場を失う68トンの兵器級プルトニウムの存在ではなく、民生用の再処理・プルトニウム利用なのである。彼らは、核の脅威削減を目指す平和の戦士を装ってはいるが、彼らの実行動は1万7千発分の兵器用プルトニウムの脅威削減の機会を人類から奪うことに直接加担したのである。

笹川平和財団提言の意味するもの

6月上旬に笹川平和財団が「プルトニウム国際管理に関する日本政府への提言」という提言書を公表した。この提言書は元原子力委員長代理で現在長崎大学核兵器廃絶研究センター副センター長を務める鈴木達治郎氏を座長とする研究会の検討成果を取りまとめたものであるが、座長の鈴木氏の視点が色濃く反映されている。鈴木氏は、冒頭に述べた米国核不拡散エリート集団の信奉者であり、日本のプルトニウム保有は国際安全保障上の大きな脅威との認識(国際懸念論)を基本に据えている。そこから議論を出発させるので、プルトニウム在庫量最小化が至上命題となり、必然的に再処理に関してきわめて厳しい制約を加える方向の提言となっている。しかし、冒頭にも述べたように、米国核不拡散エリート集団や鈴木氏が主張する国際懸念論は、保障措置制度や核セキュリティシステムの存在を無視してリスクを過度に誇張した観念論に過ぎないので、そこから派生するプルトニウム在庫量最小化が至上命題との考え方も現実から遊離した一種のイデオロギーに過ぎない。読者は、そうしたイデオロギーから生まれる提言は眉に唾して読む必要がある。

エネルギー基本計画では、2030年代の発電における原子力比を20~22%と想定している。これが達成できなければ、日本はパリ協定の約束を果たせない。その後のさらに厳しい脱炭素化のためには、同程度、またはそれ以上の原子力比維持が必要なことも明白である。

ところで、仮に日本が直接処分に移行するとした場合、処分前に使用済燃料を50年以上冷却するための中間貯蔵施設が必要になる。上述の原子力比率を維持するためには5年に一度のペースで「むつリサイクル燃料備蓄センター」並みの施設を建設し続ける必要が生じる。立地問題が極めて厳しい日本では、それは到底不可能であり、中間貯蔵施設が出来なければ、発電所は直ちに停止に追い込まれる。直接処分への移行は、脱原発への最短コースなのである。

一方、再処理政策を維持すれば、40年間の再処理で発生する高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)の全量を貯蔵するための施設の敷地はすでに六ケ所に確保済み(一部施設建設済み)で、新規立地問題で悩む必要はない。発電所側も中間貯蔵能力確保は不要かミニマムで済む。また、最も厄介な高レベル廃棄物処分場の必要面積も直接処分の場合の三分の一で済む。立地問題で悩まなくて済むのが、今日の日本では最良の原子力政策といえる。再処理方式堅持は、発電コストで1円/kWh近く余分になっても、実質的には国民に大きなお釣りが来る選択肢なのである。

笹川平和財団提言には、明示的ではないが、再処理を否定し、直接処分に日本を誘導する巧妙な仕掛けが埋め込まれている。そこには、上述したような視点は全く欠落している。日本沈没に誘う提言書といってよいだろう。

(2019年6月24日 記)


(注1)2018年6月10日付け日本経済新聞は、米政府が核不拡散上の懸念から我が国にプルトニウム削減を求めてきたと報じた。核燃料サイクル政策こそ異なるものの、米政府はこれまで一貫して日本の核不拡散規範順守を高く評価してきており、共和党トランプ政権がその姿勢を転じたことに、米国の一部の識者は予想外の出来事と受け止めたようである。2016年3月に、米政府からの懸念の有無について記者から問われた菅官房長官は「まったくない」と即答しているが、実際に2016年12月時点でも、当時交わした「核セキュリティ協力に関する日米ファクトシート」で「両国は、日本のプルトニウム管理に関する懸念には与しないことを強調する」ことを明記していた。その姿勢が2018年に入って一転したのは、同年2月にサウジアラビアとの原子力協力交渉が始まったことに加え、3月には急遽米朝首脳会談の実施が決まったことに起因している。米国核不拡散エリート集団がその機に乗じて展開した「日本のプルトニウム保有はこれらの交渉に悪影響を与える」との主張が議会にまで拡がり、トランプ政権を揺さぶったのである。

(注2)公式の建設契約破棄はオバマの方針をそのまま引き継いだトランプ政権が2018年10月に行った。

(注3)処分体からのプルトニウムの回収や再利用の困難性を高めるため、標準の軽水炉使用済燃料と同等またはそれ以上の放射線量を処分体に随伴させることを求めた基準

(注4)ロバート・ガルーチ元北朝鮮核問題担当大使、ヘンリー・ソコロスキー核不拡散政策研究センター(NPEC)所長、ビクター・ギリンスキー元原子力規制委員会委員・NPEC顧問、フランク・フォン・ヒッペル プリンストン大学名誉教授などが含まれる。彼らはいずれも、ここ数年の間に脱原発団体や新外交イニシャティヴ(ND)などが六ケ所再処理工場の運転開始阻止を目論んで日本で開催したシンポジウムや講演会に招かれ、盛んに国際懸念論を喧伝した。

(注5)もともとは、米国最高裁判例で生まれた、表現の自由の制約が是認される極限条件を示した文言であるが、トムクランシーの小説のタイトルとなり、非常に差し迫った危機を表す言葉として定着した言い回し。

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河田 東海夫
元原子力発電環境整備機構(NUMO)理事、元核燃料サイクル開発機構(JNC)理事

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