欧州で対照的なスウェーデンとドイツの原子力発電

2019年12月17日 06:00
諸葛 宗男
NPO法人パブリック・アウトリーチ・上席研究員 元東京大学特任教授

はじめに

欧州の原子力発電政策は国ごとにまちまちである。昔は原子力発電に消極的だったスウェーデンが原子力発電を推進する政策を打ち出しているのもおどろきだが、ドイツの脱原発政策も異色である。

原子力発電政策が対照的なこの2つの国の原子力発電政策を比較し、我が国の原子力政策の参考としたい。

スウェーデンの原子力世論の急転換

スウェーデンは米国のスリーマイル島事故を受け、1980年に稼働していた12基の原発全てを廃棄する決定を行った。

ニュークリア・ルネッサンスの最中だったから誰しもが驚いた。このインパクトが大きいため、日本人の多くがいまだにスウェーデンは脱原発国だと思っている。

しかし、事実は小説より奇なるである。スウェーデンが実際に停止したのは1999年のバーセベック1号機(Barsebeck:出力60万kW、1975年運転開始)と2005年のバーセベック2号機(出力60万kW、1977年)だけである。この2基の停止理由はデンマークに近いためとのことである。

スウェーデンの新しいエネルギー政策

スウェーデン政府は2009年2月、以下の4項目を柱とする新しいエネルギー政策を発表した。

(1)今後も出力増強の申請を、従来通り適切に取り扱う。

(2)原子力発電所の基数が現状の10基以内に維持されるのであれば、同一サイトへのリプレースも承認する。

(3)「脱原子力法」を破棄し、新規炉の建設に向けた新しい法体系を整備する。

(4)原子力発電所の新規建設に対し、財政面での補助は行わない。

この新しい政策で注目されるのは新規炉の建設を容認した(3)である。(2)で原発基数を10基以内としているものの新規炉の建設を容認していることは注目される。

スウェーデンでは最近、原発支持世論が急増している

スウェーデンで2019年に実施した世論調査では、78%が原子力を強く支持し、43%が新規建設に賛成し、35%が国の原子炉をフルに使い続けたいとしている。原発に否定的な人は世論調査対象者の11%に急減している。

スウェーデン政府は2040年までに8基すべての原子炉を段階的に廃止する予定を変えていない。しかし、上述の世論調査結果はこの方針が世論を反映していない。

原発反対者は長年にわたり約20%だったが今年の調査で11%という記録的な低さまで低下した。この結果は原発利用に幅広いコンセンサスがあるという事実を反映している。

今回の世論調査は、ノーバスのランダムに選出されたパネルとのウェブベースのインタビューを通じて実施されました。18〜79歳の合計1027人が、10月24日から30日に実施された最新の調査に回答した。参加率は54%だった。

なお、2015年10月には、2020年までに古い原子炉4基が閉鎖され、オスカーシャム1,2号機は完全に閉鎖されることになっている。

スウェーデンで2020年までに停止する原発2基はどれか

(オスカーシャム原子力発電所:Wikipediaから)

(オスカーシャム原子力発電所:Wikipediaから)

スウェーデンでは2015年に2020年までに4基の原発を停止することを決定している。その内の2基は前項で触れた通りオスカーシャム1,2号機だが報道では残りの2基の名称は明らかになっていない。しかし「古い方から4基」とある。すると残り8基のなかで古い順に2基を選ぶと表1からリングハルス1,2号機になる。次に停止するのはリングハルス1,2号機になるものと思われる。

ドイツは相変わらず脱原発を進めている

ドイツは福一事故の後、最も敏感に反応した。事故が起きた6日後の3月17日に稼働していた17基の原発の内、古い原発7基を3ヶ月間暫定的に停止した[1]。そして、事故からたった4か月後の7月8日、全原発を2022年までに停止することを決めた[2]。スウェーデンと好対照なこの決定には驚かされるが、なぜそのような決定をしたのかについてメルケル首相は次のように述べている。「議会制民主主義に基づくこの国で、過半数を超える市民が原発全廃を支持しているのだから、そうした世論に逆行する政党は敗北する。」これがドイツのエネルギー政策の根拠のようである[3]。とはいうもののドイツでは日本の9基を8基上回る17基の原発が現在も運転しているのは事実である(図2参照)。

[1] ドレスデン情報ファイル「ドイツの原子力発電所 - 現状と分布地図」
[2] ポリタス「脱原子力を選択したドイツの現状と課題」
[3] Ibid。

両国の世論の差はなぜ生まれたのか?

スウェーデンとドイツの世論は大きく異なる。その差はなぜ生れたのかを想像ではあるが以下の通り考察する。

① 原発問題にどう対処すべきかの知識の差が大

スウェーデンは1979年に起きた米国スリーマイル島事故直後の1980年の国民投票で原発廃止を決議し、それ以来脱原発の研究をしているから、2011年の福一事故の時には既に31年の研究蓄積があった。

これに対してドイツのメルケル氏は首相に就任したのが2005年だから2011年に福一事故が起きた時は就任後6年で「関係閣僚や原発の専門家にほとんど相談せず、独断でドイツの脱原発を発表した」と言われている 。ドイツにとって福一事故は寝水に水だったようである。

② 環境問題への影響の認識の差が大

スウェーデンは脱原発で低下する発電量の穴埋めを再エネで穴埋めすると発電コストが高くなり、化石燃料で穴埋めすると排出する二酸化炭素で森林が破壊されるとして原発利用に対する支持が増大した。また、チェルノブイリ事故の後フィルターベントの設置等の原発の安全対策やセキュリティ対策の強化が行われ、オスカーシャム3号機はその際、出力が145万kWの世界最大出力のBWRとなって経済性が大幅に改善された。

一方、ドイツは原発に対する情緒的な恐怖心が高く、論理的な脱原発方策の検討が出来ていない。これが大きな差を生んだものと考えられる。

スウェーデンでは最初から穴埋めには再エネを使うことを決めており、化石燃料の火力発電は使わないこととしていた。だから再エネの発電単価が高くなった時点で原発利用の支持が増大したのは当然で、それがドイツと大きな差が生じた原因だと考えられる。

③ 高レベル放射性廃棄物最終処分場の選定問題

周知のとおりスウェーデンは2009年6月に高レベル放射性廃棄物処分場建設予定地としてフォルスマルクを選定している。しかし、ドイツはいまだに高レベル放射性廃棄物処分場予定地選定が難航しており原発は“トイレなきマンション”状態から脱却できていない。この差が影響した可能性を否定できない。

原子力発電のゴールはエバキュエーション・フリーである

スウェーデンの世論の8割が原子力発電所を支持するようになったといっても原発推進者は手放しで喜んではいけない。ドイツは2022年、スウェーデンは2040年までに原子力発電所を全廃する計画は変っていないからである。

エバキュエーション・フリー(避難しなくても良い)の原子力発電所を実現しないと世論からの真の支持は得られない。原子力技術者はそれを目標としてこれからも努力しなければならない。

This page as PDF
諸葛 宗男
NPO法人パブリック・アウトリーチ・上席研究員 元東京大学特任教授

関連記事

  • 昨年末の衆議院選挙・政権交代によりしばらく休止状態であった、電力システム改革の議論が再開されるようだ。茂木経済産業大臣は、12月26日初閣議後記者会見で、電力システム改革の方向性は維持しつつも、タイムスケジュール、発送電分離や料金規制撤廃等、個々の施策をどのレベルまでどの段階でやるか、といったことについて、新政権として検証する意向を表明している。(参考:茂木経済産業大臣の初閣議後記者会見の概要
  • 事故確率やコスト、そしてCO2削減による気候変動対策まで、今や原発推進の理由は全て無理筋である。無理が通れば道理が引っ込むというものだ。以下にその具体的証拠を挙げる。
  • 小泉純一郎元総理(以下、小泉氏)は脱原発に関する発言を続けている。読んでみて驚いた。発言内容はいとも単純で同じことの繰り返しだ。さらに工学者として原子力に向き合ってきた筆者にとって、一見すると正しそうに見えるが、冷静に考えれば間違っていることに気づく内容だ。
  • 日本の原子力の利用は1955年(昭和30年)につくられた原子力基本法 を国の諸政策の根拠にする。この法律には、原子力利用の理由、そしてさまざまな目的が書き込まれている。その法案を作成した後の首相である中曽根康弘氏が当時行った衆議院での演説を紹介したい。
  • 高速増殖炉もんじゅ(福井県敦賀市) 政府は、高速増殖炉(FBR)「もんじゅ」を廃炉にする方針を明らかにした。これはGEPR(記事「「もんじゅ」は研究開発施設として出直せ」)でもかねてから提言した通りで、これ以外の道はなか
  • 産経新聞
    産経新聞7月15日。福島事故の対応計画を練る原子力損害賠償・廃炉等支援機構が、東京電力福島第1原発事故の廃炉作業で新たな「戦略プラン」で建屋をコンクリートで覆う「石棺」に言及し、地元の反発を招いた。汚染物質の除去をしないため。これを考える必要はないし、地元への丁寧な説明が必要だ。
  • 米国シェールガス革命に対する欧州と日本の反応の違いが興味深い。日本では、米国シェールガス革命によって日本が安価に安定的に燃料を調達できるようになるか否かに人々の関心が集中している。原子力発電所の停止に伴い急増した燃料費負担に苦しむ電力会社が行った値上げ申請に対し、電気料金審査専門委員会では、将来米国から安いシェールガスが調達できることを前提に値上げ幅の抑制を図られたが、事ほど左様に米国のシェールガス革命に期待する向きは大きい。
  • 現在の日本のエネルギー政策では、エネルギー基本計画(2014年4月)により「原発依存度は、省エネルギー・再生可能エネルギーの導入や火力発電所の効率化などにより、可能な限り低減させる」こととなり、電力事業者は今後、原発の新増設が難しくなりました。原発の再稼動反対と廃止を訴える人も増えました。このままでは2030年以降にベースロード電源の設備容量が僅少になり、電力の供給が不安定になることが懸念されます。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑