小泉進次郎氏は「プラスチック容器の絶滅」をめざす
小泉進次郎環境相の発言が話題になっている。あちこちのテレビ局のインタビューに応じてプラスチック新法をPRしている。彼によると、そのねらいは「すべての使い捨てプラスチックをなくす」ことだという。

FNNプライムオンラインより
(フジテレビ)今回の国会でもう1つの目玉なのが、プラスチック資源循環促進法案ですね。プラスチック使用量を削減し脱プラ社会を目指すものですが、プラスチックスプーンやフォークの有料化に国民の関心が集まっています。
(小泉)日本では年間約1000万トンのプラスチック生産があって、そのうち排出、つまりゴミになるのは約900万トンです。そのうち使い捨てプラと呼ばれる容器包装が約400万トンで、その中にはペットボトル約60万トン、レジ袋約20万トンが含まれます。さらに使い捨てプラにはスプーンやフォークなどが約10万トンあります。
「なぜスプーンが狙い撃ちされるんだ」という批判に対しては、答えは明確です。スプーン狙い撃ちではありません。プラスチック全部です。スプーンは一つの例で、プラスチック製品全部が[有料化の]対象だと、説明を理解を広げていきます。
ここで彼が「使い捨てプラ」と呼んでいるのは、次の図の「包装・容器・コンテナ類」に使われるプラスチック407万トンのことである。つまりこの新法の目的はスプーンやストローだけでなく、すべてのプラスチック容器・包装をなくすことなのだ。次にねらわれるのは、彼があげているペットボトルだろう。

WWFジャパンより
これは法案にも明記されている。
第三十条 主務大臣[環境相]は、特定プラスチック使用製品廃棄物の排出の抑制の状況が著しく不十分であると認めるときは、多量提供事業者に対し、その判断の根拠を示して、特定プラスチック使用製品の使用の合理化によるプラスチック使用製品廃棄物の排出の抑制に関し必要な措置をとるべき旨の勧告をすることができる。
「必要な措置をとる」というのは、すべてのプラスチックを有料化する権限を環境省に与えるという意味だが、わからないのは何のために有料化するのかということだ。次の図のように日本で年間に消費されるプラスチック899万トンのうち、廃棄されるのは15.6%だけで、残り84.4%はリサイクルされている。

WWFジャパンより
環境省がプラスチックを滅ぼす
問題はこのうちサーマルリサイクル(ゴミ焼却による発電)を認めない原理主義者が増えてきたことだ。これを「CO2を排出するのでだめだ」というが、プラスチックを分別回収して再利用するマテリアルリサイクルは多くのエネルギーを消費する。
サーマルリサイクルのエネルギー削減効果はマテリアルリサイクルより大きく、CO2もほとんど増えない。プラごみを分別しないで焼却している東京都の調査でも、次の図のようにサーマルリサイクルで年間53億円のコストが節約でき、CO2排出量は0.01%増えただけである。

東京都の資料より
しかし環境団体が「サーマルリサイクルは国際的にはリサイクルとは認められていない」と主張して熱回収を排除した結果、出てきたのが今回の「廃プラ絶滅法案」である。
世界的にサーマルリサイクルが少ないのは、日本のような高性能のゴミ焼却炉がほとんどなく、ゴミを埋め立て処分しているからだ。日本の焼却炉は1990年代にダイオキシン問題で高温焼却が義務づけられたため、今は800℃以上の高温に耐えるので、東京都23区ではプラスチックを分別していない。
このような実態を環境省も知っているはずだが、環境原理主義者のいう「世界の流れ」に押されて、膨大なエネルギー浪費を強制しようとしている。小泉氏はその宣伝塔に利用されているが、これを許したらプラスチックの生産量は激減し、石油化学業界は没落する。国民も業界も怒るべきだ。

関連記事
-
福島原発事故後、民間の事故調査委員会(福島原発事故独立検証委員会)の委員長をなさった北澤宏一先生の書かれた著書『日本は再生可能エネルギー大国になりうるか』(ディスカバー・トゥエンティワン)(以下本書と略記、文献1)を手に取って、非常に大きな違和感を持ったのは私だけであろうか?
-
なぜか今ごろ「東電がメルトダウンを隠蔽した」とか「民主党政権が隠蔽させた」とかいう話が出ているが、この手の話は根本的な誤解にもとづいている。
-
この4月に米国バイデン政権が主催した気候サミットで、G7諸国はいずれも2050年までにCO2ゼロを目指す、とした。 コロナ禍からの経済回復においても、グリーン・リカバリーということがよく言われている。単なる経済回復を目指
-
電力需給が逼迫している。各地の電力使用率は95%~99%という綱渡りになり、大手電力会社が新電力に卸し売りする日本卸電力取引所(JEPX)のシステム価格は、11日には200円/kWhを超えた。小売料金は20円/kWh前後
-
北朝鮮の1月の核実験、そして弾道ミサイルの開発実験がさまざまな波紋を広げている。その一つが韓国国内での核武装論の台頭だ。韓国は国際協定を破って核兵器の開発をした過去があり、日本に対して慰安婦問題を始めさまざまな問題で強硬な姿勢をとり続ける。その核は実現すれば当然、北だけではなく、南の日本にも向けられるだろう。この議論が力を持つ前に、問題の存在を認識し、早期に取り除いていかなければならない。
-
「法則」志向の重要性 今回は、「ドーナツ経済」に触れながら、社会科学の一翼を占める経済学の性格について、ラワースのいう「法則の発展を目的としない」には異論があるという立場でコメントしよう。すなわち「法則科学か設計科学か」
-
公開質問状の背景 先週末の朝、私のところに標記の文書(小泉 進次郎氏への公開質問状)が舞い込んできた。発信者は、自民党自民党総合エネルギー戦略調査会会長代理で衆議院議員の山本 拓氏である。曰く、小泉環境大臣は9月17日、
-
地震・津波に関わる新安全設計基準について原子力規制委員会の検討チームで論議が進められ、その骨子が発表された。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間