CO2による海洋酸性化の危機が煽られて消滅した構図

2021年05月14日 07:00
杉山 大志
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

Placebo365/iStock

以前、CO2による海洋酸性化研究の捏造疑惑について書いた

これを告発したクラークらは、この分野で何が起きてきたかを調べて、環境危機が煽られて消滅する構図があったことを明らかにした

下図は、「CO2が原因の海洋酸性化によって、魚類の異常行動にどの程度の影響があったか」、その結論を、「強い影響」「弱い影響」「影響無し」の3つに分けて、論文の発表年ごとに発表件数を示したものだ。

これを見ると、当初「強い影響があった」とする論文が相次いだが、やがて減少し、後から「弱い影響」「影響無し」の論文が増えていることが分かる。(2019年のデータは中途のもの)。

当初に「強い影響があった」とする論文は、実験の方法に不備があったり(今では捏造も疑われている)して、じつは不確かな知見に過ぎなかったのだが、「強い影響があった」としたがゆえに、有名論文誌に掲載され、メディアの注目も集め、大きな予算を獲得した。

だが再現実験をしてみると、実験方法の問題が発見されたり(捏造も発覚したり)して、追試をするほどに「影響なし」とする論文が増えてきた。

環境問題にはこの手の「煽られては消滅する」話が数多く思い当たる。問題を煽るとメディアにもウケて予算もつく。けれども実験や観測と突き合わせると、問題は消滅する。

クラークらは、新しく何かの「大惨事が起きる」と予言する初期の研究結果には、十分に懐疑的かつ批判的に対処した方が良い、と述べている。心に刻んでおきたい。

地球温暖化のファクトフルネス

This page as PDF
杉山 大志
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • 国連気候変動枠組み交渉の現場に参加するのは実に2 年ぶりであったが、残念なことに、そして驚くほど議論の内容に変化は見られなかった。COP18で、京都議定書は第2約束期間を8年として、欧州連合(EU)・豪などいくつかの国が参加を表明、2020年以降の新たな枠組みについてはその交渉テキストを15年までに固めることは決定した。
  • 福島原子力事故について、「健康被害が起こるのか」という問いに日本国民の関心が集まっています。私たちGEPRのスタッフは、現在の医学的知見と放射線量を考え、日本と福島で大規模な健康被害が起こる可能性はとても少ないと考えています。GEPRは日本と世界の市民のために、今後も正しい情報を提供していきます。
  • 実は、この事前承認条項は、旧日米原子力協定(1988年まで存続)にもあったものだ。そして、この条項のため、36年前の1977年夏、日米では「原子力戦争」と言われるほどの激しい外交交渉が行われたのである。
  • 原子力基本法が6月20日、国会で改正された。そこに「我が国の安全保障に資する」と目的が追加された。21日の記者会見で、藤村修官房長官は「原子力の軍事目的の利用意図はない」と明言した。これについて2つの新聞の異なる立場の論説がある。 産経新聞は「原子力基本法 「安全保障」明記は当然だ」、毎日新聞は「原子力基本法 「安全保障目的」は不要」。両論を参照して判断いただきたい。
  • 11月11日~18日にかけてボンのCOP23に行ってきた。パリ協定の詳細ルールは2018年にポーランドのカトヴィツェで開催されるCOP24で合意を目指すことになっている。このため今回のCOPはストックテーキングとの位置づ
  • 「原発、国民的合意を作れるか? — 学生シンポジウムから見たエネルギーの可能性」を GEPR編集部は提供します。日本エネルギー会議が主催した大学生によるシンポジウムの報告です。
  • 「もんじゅ」の運営主体である日本原子力研究開発機構(原子力機構)が、「度重なる保安規定違反」がもとで原子力規制委員会(規制委)から「(もんじゅを)運転する基本的能力を有しているとは認めがたい」(昨年11月4日の田中委員長発言)と断罪され、退場を迫られた。
  • 6月29日のエネルギー支配(American Energy Dominance)演説 6月29日、トランプ大統領はエネルギー省における「米国のエネルギーを束縛から解き放つ(Unleashing American Ener

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑