脱炭素化でガソリンは値上がりするか

2022年01月25日 21:30
池田 信夫
アゴラ研究所所長

ガソリン価格が1リットル170円を上回り、政府は価格をおさえるために石油元売りに補助金を出すことを決めました。他方で政府は、脱炭素化で化石燃料の消費を減らす方針です。これはいったいどうなってるんでしょうか。

Q1. 脱炭素化って何ですか?

これは炭素を減らすことではなく、CO2(二酸化炭素)を減らすことです。具体的には、燃やすとCO2の出る化石燃料の消費を減らし、CO2が出ないようにすることです。

Q2. 化石燃料って何ですか?

遺跡を発掘して出てくる化石と同じように、地球に昔くらしていた生物が分解されて地下に沈み、圧縮されたり熱で温められたりして、燃えやすい成分に変化したのが化石燃料です。そのうち石油は微生物が圧縮されて液体になったものです。これを精製してガソリンや重油や灯油などをつくるので、ガソリンも化石燃料です。

Q3. 化石燃料の排出を減らすにはどうすればいいんですか?

いろんな方法がありますが、いちばん簡単なのは、化石燃料に税金をかける炭素税(カーボンプライス)です。たとえばガソリンに100%の炭素税をかければ、値段は2倍になるので、ドライバーのみなさんがガソリンを使わなくなってCO2の排出が減るわけです。タバコをなくすためにタバコ税を上げるのと同じです。

しかし増税は政治的に人気がないので、日本政府は石炭火力やガソリン車の禁止などの裁量的規制でCO2を減らそうとしています。これはコストがかからないようにみえますが、日本から製造業が逃げ出して雇用が失われ、国民はもっと大きなコストを負担することになります。

Q4. 炭素税はどれぐらいかかるんですか?

2050年にCO2の排出を実質ゼロにするという政府の目標を実現するには、ガソリンが170円になる程度では足りません。IEA(国際エネルギー機関)は、化石燃料への投資をゼロにして、その消費を90%減らさないといけないと試算しています。

ガソリンの消費を90%減らすには1リットル300円以上にし、ガソリンエンジンの自家用車は廃止するしかありません。電気代は2倍以上になります。再エネ100%にすると、電気代は4倍になります。

Q5. それなのに170円になったら補助金を出すのはどうしてですか?

世界的に資源価格が上がっているので、石油元売りの赤字を補填して卸値を下げる一時しのぎですが、資源価格が上がるのは一時的な現象ではありません。その原因は国連の「化石燃料への投資をゼロにする」という方針ですから、これが変わらない限り資源インフレは続きます。

ガソリンは原油を精製してつくるので、石油精製工場が減ると、ガソリンの供給が減って値段が上がるのです。脱炭素化とかカーボンプライスとか、わかりにくいことばを使っているから、岸田首相にも脱炭素化で家計負担が激増することが実感としてわからないのでしょう。

Q6. ガソリンが値上がりしたら、生活は苦しくなりますね?

でもそれが脱炭素化です。CO2を急激に減らすと、家計負担とのトレードオフ(あちら立てればこちらが立たず)がおこるのです。岸田さんは気候変動対策で「環境と経済成長の好循環」が起こるといっていますが、どういう好循環が起こるのか、具体的に示したことがありません。

Q7. もうかる企業もありますね?

電気自動車は脱炭素化でもうかる数少ない産業ですが、去年のテスラの販売台数は93万台。全世界で1000万台売るトヨタの1割にもなりません。自動車は衰退産業なので、今より大きくなることはありえない。

水素やアンモニアでもうかるのは、その設備をつくる会社だけで、それを使って発電する会社は、1キロワット時あたり約100円の水素を燃やして、20円以下の天然ガスと同じ電力をつくるので、大幅な赤字になります。政府がその損を埋める巨額の補助金を出さない限り、ビジネスとしては成り立たない。

Q8. 経済は成長するんでしょうか?

IEAは、2050年にCO2を「ネットゼロ」にするには、毎年4兆ドルのコストがかかると試算しています。これは世界のGDP(国内総生産)の5%ですが、リターンは気温が1.5℃下がるだけ。つまり脱炭素化で成長率は5%下がるのです。これが30年続くと、GDPは80%下がります。

政府が考えるべきなのは、そのコスト負担をどう公平にするかということです。「グリーン成長」などという幻想をふりまくから、脱炭素化で成長できると錯覚した企業が化石燃料投資をやめ、インフレが起こっているのです。

Q9. では政府も日経新聞も「脱炭素化で成長する」というのはなぜでしょうか?

経産省や環境省にとっては、脱炭素化にばらまく補助金を獲得でき、日経新聞にとっては脱炭素化の広告を取れるからでしょう。それにあおられて脱炭素化に投資した企業が莫大な赤字を出しても、それを救済する数十兆円の財源はありません。

民主党政権のやった再生可能エネルギーの固定価格買い取り(FIT)は大失敗だったので、岸田政権は二度とやらないでしょう。ガソリンが170円になったぐらいでビビる政権が、ガソリン価格が何倍にもなる炭素税をかけることはありえない。

Q10. 脱炭素化は必要ないんでしょうか?

気候変動対策は必要ですが、日本がCO2排出をゼロにしても、地球の平均気温は0.01℃も下がりません。排出量を急激に減らそうとすると莫大なコストがかかりますが、今回のガソリン騒動でわかったように、それは政治的に不可能なのです。

「グリーン成長」などという幻想を振りまくのをやめ、脱炭素化のメリットだけではなくコストを正直に明らかにし、どれぐらいコストを負担してもいいかという費用対効果を国民が判断すべきだと思います。

This page as PDF

関連記事

  • 前回に続いて、環境影響(impact)を取り扱っている第2部会報告を読む。 今回は生態系への気候変動の影響。 本文をいくら読み進めても、ナマの観測データがとにかく図示さていない。 あったのは、以下の3つ(いずれも図の一部
  • きのうのアゴラシンポジウムでは、カーボンニュートラルで製造業はどうなるのかを考えたが、やはり最大の焦点は自動車だった。政府の「グリーン成長戦略」では、2030年代なかばまでに新車販売の100%を電動車にすることになってい
  • 国際環境経済研究所(IEEI)版 新型コロナウイルスの緊急事態宣言が7都府県に発令されてから、およそ3週間が経ちました。様々な自粛要請がなされる中、宣言の解除予定である5月を心待ちにされている方もいらっしゃると思います。
  • 今年も3・11がやってきた。アゴラでは8年前から原発をめぐる動きを追跡してきたが、予想できたことと意外だったことがある。予想できたのは、福島第一原発事故の被害が実際よりはるかに大きく報道され、人々がパニックに陥ることだ。
  • 今回も嘆かわしい報道をいくつか取り上げる。 いずれも、筆者から見ると、科学・技術の基本法則を無視した「おとぎ話」としか受け取れない。 1.  排ガスは資源 CO2から化学原料を直接合成、実証めざす 排ガスは資源 CO2か
  • はじめに 原子力規制委員会は2013年7月8日に新規制基準を施行し“適合性審査”を実施している。これに合格しないと再稼働を認めないと言っているので、即日、4社の電力会社の10基の原発が申請した。これまでに4社14基の原発
  • 消費税と同じく電気料金は逆進性が高いと言われ、その上昇は低所得者層により大きなダメージを与える。ドイツの電力事情④において、ドイツの一般家庭が支払う再生可能エネルギー助成金は、2013年には3.59 ユーロセント/kWh から約 5 ユーロセント/kWh に 上昇し、年間負担額は185ユーロ(1万8500円)にもなると予測されていることを紹介した。
  • 【要旨】過去30年間、米国政府のエネルギー技術革新への財政支援は、中国、ドイツ、そして日本などがクリーン・エネルギー技術への投資を劇的に増やしているにもかかわらず著しく減少した。政府のクリーン・エネルギー研究開発への大幅な支出を増やす場合に限って、米国は、エネルギー技術革新を先導する現在の特別の地位を占め続けられるはずだ。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑