IPCC報告の論点59:やはり過去を再現できない気候モデル

2022年05月07日 07:00
杉山 大志
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

昨年夏からこの春にかけて、IPCCの第6次報告が出そろった(第1部会:気候の科学、第2部会:環境影響、第3部会:排出削減)。

何度かに分けて、気になった論点をまとめていこう。

isil terzioglu/iStock

気候モデルが過去を再現できないという話は何度か書いてきたが、これをさらに裏付ける最新の分析が発表されたので紹介しよう(スカフェッタ2022)

過去40年について、IPCCで用いられた気候モデル(CMIP6)の計算結果と観測値(ERA5)の地表2mの気温を比較したものだ。

図1の一番上のパネルで、ERA5-T2m(青)は観測値、38の気候モデルの計算結果が赤で示してある。1980-1990年の平均との比較で表示してある。

続く3つのパネルには、14の高い気候感度(ECS)、11の中ECS、13の低ECSの記録を別々に描いている。

これを見ると、低ECSのGCMだけが観測値と一致し、中ECSと高ECSのGCMは気温上昇が高すぎることがわかる。

図4は、さらに、空間的な変化を調べたものだ。(上)は、全モデルの平均の気温上昇と観測値の差分。これを見ると、モデルでは暑くなりすぎているところが多いが(赤)、寒くなり過ぎているところ(青)もかなりあることがわかる。

図4(下)は空間的にモデルと観測が適合しているか、統計的に調べたもの。地球表面の81%でモデルの計算結果が観測と合っていないとして棄却されている。統計的に適合するのは水色の部分(t < t0)で、黄色から赤色の部分は不適合(t > t0)だ。

いくつかの興味深いパターンが観察される。例えば、北半球と大陸でより良い一致が見られるが、これは陸域が気候以外の温暖化バイアスの影響を受けている可能性が高いので偶然かもしれない

海洋、特に熱帯から温帯にかけての太平洋と大西洋、及び南極周極域では大きな乖離がある。これは世界の気候を決める上で極めて重要な場所だ。

図5(左)は、図4と同じGCMとERA5-T2mとの差だが、今度は高、中、低ECSのそれぞれについて調べたもの。

高ECSのGCMは地球の大部分で温暖化を過大評価している(図1参照)。中程度のECSのGCMでは、状況は若干改善される。

他方で、低ECSのGCMは当たっているかというと、海洋の温暖化が過大評価され、陸域の温暖化が過小評価され、どちらも外れた結果として、地球全体の気温上昇は偶々当たっているようだ。

北半球の陸地では割と当たっているが、これは、都市化の影響などが混入したからで、これも偶々かもしれない。

図5(右)が統計分析(t検定)の結果だが、モデル計算結果は、高ECS GCM では地球表面の81%が観測に合わないとして棄却され、低ECS GCMでは60%が棄却された。

スカフェッタは、2点の示唆をしている。

  1. 温暖化しすぎるモデル(高ECS、中ECS)による予測結果は政策決定に用いるべきではなく、低ECSのモデルであればありえないぐらい高い排出量(RCP8.5)を想定しても2050年の気温上昇はせいぜい2℃以下に収まる。
  2. 低ECSのモデルを用いるとしても、これだけ空間的な気温パターンが再現できないのであれば、過去の自然災害がどの程度地球温暖化によって引き起こされたのかを計算しているいわゆる「イベント・アトリビューション」研究の結果には疑義が生ずる。

1つの報告書が出たということは、議論の終わりではなく、始まりに過ぎない。次回以降も、あれこれ論点を取り上げてゆこう。

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杉山 大志
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

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