津田敏秀氏の「福島で甲状腺癌20-50倍」は誤りだ
大手メディアは無視したが、ハフィントンポストが「福島の子供の甲状腺がん発症率は20~50倍」という津田敏秀氏の外人記者クラブでの発表を報じている。私は疫学の専門家ではないが、Togetterで専門家から多くの批判が出ている。
一見してわかるのは、この記事のずさんさだ。次の図は何を示すのか、数値の単位は何なのかも書いてない。「20~50倍」という数値は、津田氏の論文の要旨にも出てこない。

この図の数値は、放射能汚染の分布と対応していない。甲状腺癌の原因になる放射性ヨウ素は風に乗って北西に流れたので、北西部の数値が高くないとおかしいが19.76倍で、濃度がもっとも低い南部で40倍以上になっている。これは観測値がランダムなものであることを示唆している。

チェルノブイリ事故で甲状腺癌が出たのは、放射性ヨウ素に汚染された牛乳を飲んだ子供だが、福島県の調査では内部被曝はゼロなので、甲状腺癌が増え続ける原因がわからない。津田氏は、その医学的なメカニズムを説明すべきだ。

問題の数値は原論文の表2に出てくる。このPOR(有病オッズ比)は福島県の調査によるものだが、このデータの扱いもおかしい。津田氏は発生率が最低の南西部と比べているが、線量による発生率の差をみるなら線量が最低の西部と比較すべきだ。西部と比べると、PORはこうなる。

線量が最大の北中部でPORは0.77倍であり、線量との相関はない。したがって津田氏が2.6倍というPORをもとに推定したIRR(発生率比)の50倍も誤りだ。甲状腺癌が発症するのは普通は5年後以降だから、4年後の検査で「20~50倍」ということはありえないのだ。この記事でも書いているように、
福島県の検討委員会は8月31日時点で、事故当時18歳未満だった計104人が甲状腺がんと確定したことを明らかにしているが「現時点では原発事故の影響とは考えにくい」とし、理由としてスクリーニング検査による精度の向上や、治療の必要がないのに陽性と診断する「過剰診断」を挙げている。
これに対して津田氏は「精度向上や過剰診断ではせいぜい2~3倍、あるいは6~7倍、1桁の上昇しか説明できない」と反論しているが、上の表のように彼の数値は検査の精度や誤差の範囲内である。
これを書いた吉野太一郎という記者は、朝日新聞から出向中だ。朝日は鼻血が笑い物になったら、次は甲状腺癌で恐怖をあおりたいようだ。さすがに本紙には載せなかったが、こうしてハフポストでネットに噂を流している。慰安婦問題でこりて、責任逃れのテクニックだけは上達したようだ。
(2015年10月19日掲載)

関連記事
-
エジプトで開催されていたCOP27が終了した。報道を見ると、どれも「途上国を支援する基金が出来た」となっている。 COP27閉幕 “画期的合意” 被害の途上国支援の基金創設へ(NHK) けれども、事の重大さを全く分かって
-
福島産食品などがむやみに避けられる風評被害は、震災から4年以上たってもなお根深く残り、復興の妨げとなっている。風評被害払しょくを目指す活動は国や県だけでなく、民間でも力を入れている。消費者の安心につながる食事全体での放射線量の調査や、企業間で連携した応援活動など、着実に広がりを見せている。
-
学術的知識の扱い方 学界の常識として、研究により獲得された学術的知識は、その創出、伝達、利用の3点での適切な扱いが望ましい。これは自然科学社会科学を問わず真理である。ところが、「脱炭素」や「地球温暖化」をめぐる動向では、
-
貧困のただなかにある人達は世界の大企業をどうみるだろうか。あるいは、貧困撲滅が最大の政治課題である途上国政府は世界の大企業をどうみるだろうか。
-
ここ数年、日本企業は「ESGこそが世界の潮流!」「日本企業は遅れている!」「バスに乗り遅れるな!」と煽られてきましたが、2023年はESGの終わりの始まりのようです。しかし「バスから降り遅れるな!」といった声は聞こえてき
-
12月16日に行われた総選挙では、自民党が大勝して294議席を獲得した。民主党政権は終わり、そして早急な脱原発を訴えた「日本未来の党」などの支持が伸び悩んだ。原発を拒絶する「シングルイシュー」の政治は国民の支持は得られないことが示された。
-
3.11から7年が経過したが、我が国の原子力は相変わらずかつてない苦境に陥っており、とくに核燃料サイクルやバックエンド分野(再処理、プルトニウム利用、廃棄物処分など)では様々な困難に直面している。とりわけプルトニウム問題
-
以前書いたように、再生可能エネルギー賦課金の実績を見ると、1%のCO2削減に1兆円かかっていた。 菅政権が26%から46%に数値目標を20%深堀りしたので、これは年間20兆円の追加負担を意味する。 20兆円の追加負担は現
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間