「日米中連合製原子炉AP1000」の世界展望
近年、日本は安部首相を先頭にして、世界各国に原子力発電プラントを売り込んでおり、いくつか成功をしている。原子力発電の輸出は、そもそも新興国の電力を安価に安定に供給し、生活を豊かにし、貧困から来る紛争や戦争を防ぎ、輸出国輸入国双方の国富を増大させる。また輸出国と輸入国は原子力平和利用協定を締結して、核兵器への転用を禁止させることができ、核不拡散に有効で、平和に貢献する。原子力平和利用の輸出が核兵器を作らせない実際の有効な手段で、我国では東芝、日立、三菱の3社が輸出競争を繰り広げ、世界最大の輸出国である。
1.トップレベルのAP1000の輸出競争力
世界の主な原子力発電輸出企業と炉型、その販売状況を図―1に示すが、ロシアのROSATOM社のVVERと日米中の連合である東芝WH社・国家電力投資公司のAP1000が世界の2強で輸出競争を繰り広げている。この2強に比べると日立GE、AREVA、KEPCO、三菱・AREVAは販売実績が3分の1以下で低い。

注1・東芝WH・国電投:東芝・ウエスチングハウス(WH社)・国家電力投資集団:AP1000以外に中国自主知財権のある炉CAP1400を含めている。建設中は中国三門2基、海陽2基、米国Vogele2基、V.C.Summer2基、計画中は中国28基、米国6基、インド6基、英国3基、トルコ4基、ブルガリア1基)
注2・中核・中広核:中国核工業集団・中広核集団
注3・三菱:三菱重工
注4・CEI;CANDU ENERGY Int
ロシアのROSATOM社は原子力発電運転から設備製造、燃料供給を行う国家の後ろ盾を持つ強力な産軍総合国有企業で、計装部門に弱いがドイツのシーメンスと提携し、その弱点を補っている。
東芝は複合電機メーカーとして電子デバイス事業やデジタルプロダクツ事業、半導体事業、電力・社会システム事業、BWRなどを扱う総合エンジニアリング設備製造企業で高い品質保証能力を持つが、完全な核燃料供給部門も原子力発電所も持っておらず、総合力では厳しいものがあった。
しかし、東芝は2006年9月にPWRと核燃料製造に強いWH社を54億ドル6210億円で買収し、BWRだけしか扱えない制約をPWR事業・燃料事業にも拡大し、製造、販売、技術面で補完関係を作り、単独では手がけることが困難だった新たな事業領域に進出している。
中国の第3世代炉自主化委託プロジェクトの競争入札ではWH社のAP1000がフランスのEPR、ROSATOMのVVERと競い、競争に勝った。2007年3月1日には中国でのAP1000の採用が決まり、国家核電技術公司と米国WH社は原子炉本体部材供給と技術移転契約を締結した。この中国側の受け入れエンジニアリング企業、国家核電技術公司は本年3月に中国の5大電力会社の一つである中国電力投資公司と合併し、エンジニアリング電力企業、国家電力投資公司になっている。
この企業の総資産は約10.1兆円、総収入は3.1兆円で、東芝の総資産6.2兆円、総収入6.5兆円と合わせれば、ROSATOM社の総資産4.4兆円、総収入1.3兆円を遥かにしのぐ資金力を持つ大連結であり、競争力は世界一と言っても過言ではない。
2.世界の原発需要
世界の原子力発電需要は図2に示すが、中国、インド、ロシアなどが大規模需要国で、中国が群を抜き大きく、次にインド、ロシアで中国の約3分の1である。米国は中国の約7分の1、次の需要国のサウジアラビアや日本やUAEやウクライナや韓国、英国、ベトナム、イラン、トルコ、南アなどは中国の10分の1以下である。
中国、ロシア、韓国、日本など大規模原発導入国では国産化政策、内需産業化政策によって輸入を制限しているので、いったん輸出に失敗するとその市場に輸出することは困難になる。しかし、一旦採用されるとその炉型が標準化され大量に導入される。
中国での今後の建設・計画・提案の炉型の分布を図-3に示すが、東電事故のような全電源喪失時でも自然に原子炉が冷却される固有安全性設備を備えたAP1000が今後、圧倒的に採用建設される計画で、その占有率は49%にも達する。世界的にもAP1000型の改良第三世代炉の需要が増大している。


3.東芝WH社AP1000の世界展望
東芝はAP1000のお陰で中国市場に参入でき、市場の大部分を占められた。またAP1000プロジェクト設備の供給資格合格会社の認定機関である国核維科核電技術服務有限公司が2013年5月に設立され、大量の設備を製造の拠点と品質保証機関が中国にできた。米国や英国でのAP1000の建設は、安価な部品が中国から供給されるようになった。これが東芝WH社の国際競争力の強化にも役立っている。
また、資金力、技術力、経営能力などが無い新興国サウジアラビア、UAE、ベトナム、トルコなどへの輸出では単なる設備機器の輸出建設だけでは顧客は満足せず、UEAへの韓国KEPCOのように建設から燃料供給、運転、補修までの経営参加、さらには国の規制法令の整備、経済育成、国家総合安全保障までもが求められてきている。
このような要請にも日米中の国を超えた企業連合、国家連合での集団輸出ができる東芝WH社・国家電力投資公司が日立GEや三菱AREVAやKEPCO、中核集団・中広核集団よりは強く、ROSATOMに対抗できると期待される。
(2015年6月22日掲載)

関連記事
-
注目されてきたのがカーボンプライシング(Carbon Pricing)である。カーボンプライシングとは炭素(CO2)の排出に価格付けを行うことで、企業などにCO2排出を「費用」と認識させ、費用削減のインセンティブを通じて、CO2排出抑制への取り組みを促すことを狙ったものである。
-
アゴラ研究所の運営する映像コンテンツ言論アリーナ。6月24日はエネルギーアナリストの岩瀬昇氏を招き、「原油価格、乱高下の謎を解く」という放送を行った。岩瀬氏はかつて三井物産に勤務し、石油ビジネスにかかわった。アゴラの寄稿者でもある。
-
筆者は、三陸大津波は、いつかは分からないが必ず来ると思い、ときどき現地に赴いて調べていた。また原子力発電は安全だというが、皆の注意が集まらないところが根本原因となって大事故が起こる可能性が強いと考え、いろいろな原発を見学し議論してきた。正にその通りのことが起こってしまったのが今回の東日本大震災である。
-
2015年7月15日放送。出演は村上朋子(日本エネルギー経済研究所研究主幹)、池田信夫(アゴラ研究所所長)、石井孝明(ジャーナリスト)の各氏。福島原発事故後、悲観的な意見一色の日本の原子力産業。しかし世界を見渡せば、途上
-
今後数年以内に日本が自国で使える以上のプルトニウムを生産することになるという、重大なリスクが存在する。事実が蓄積することによって、世界の核物質管理について、問題になる先例を作り、地域の緊張を高め、結果の蓄積は、有害な先例を設定し、地域の緊張を悪化させると、核テロの可能性を高めることになるだろう。
-
本稿の目的は、北海道で再び大規模な停電が起きないように、北海道胆振東部地震の経験から学ぶべき教訓を考えることにある。他方現在北海道の大停電については電力広域的運営推進機関(以下「広域機関」)において検証委員会が開催され、
-
2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震直後の誘発地震で、それまでに考慮されていなかった断層に地表地震断層を生じたことから、翌年、国は既設原子力発電所の敷地内破砕帯を対象に活動性の有無に関するレヴューを行なった。
-
日本経済研究センター 3月7日発表。2016年12月下旬に経済産業省の東京電力・1F問題委員会は、福島第1原発事故の処理に22兆円かかるとの再試算を公表し、政府は、その一部を電気料金に上乗せするとの方向性を示した。しかし日本経済研究センターの試算では最終的に70兆円近くに処理費が膨らむ可能性すらある。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間