中国、南シナ海侵略で移動式海上原発を活用か
中国企業が移動式の海上原子力発電所20基を建設する計画を進めている。中国が領有権を争い、基地を建設して実効支配をたくらむ南シナ海に配備される可能性がある。中国政府は建前では原子力の平和利用のための新技術とするが、この取り組みは南シナ海の海上軍事基地を強化し、原子炉をいわゆる「ダーティーボム」(汚れた爆弾)として使う懸念もある。17年に実証炉プロジェクトが始まる予定だ。この海域の安全と航行の自由は日本の死活にかかわっており、安全保障リスクがさらに高まりつつある。
17年に実証プロジェクト開始へ
中国政府は、3つの原発事業・建設会社グループを半国営でつくり、競わせている。東芝・ウェスチングハウス社と技術提携をするSPI(国家電力投資集団)、ロシアのロスアトムと提携する中国核工業集団(CNNC、通称上海グループ)、南部を中心に原発を建設し、仏アレバと関係の深い中国広核集団(CGN、通称広東グループ)がある。
今年1月、CNNCとCNGはそろって、中国政府の国家発展改革委員会の原子力部門から、海上原子力発電プラントの開発認可を受けたと発表した。今年3月に正式発表された13次5カ年計画の原子力近代化の一環だ。2社が協力するという。
両社は仏アレバ社の陸上向け小型原子炉を応用。陸上での出力45万kw(キロワット)級の小型原発「ACRP100」を設計中だが、それを出力20万kw級に変えた原子炉「ACRP50S」を、船に乗せて移動式の原子炉にするという。海上原子炉の開発実績のあるロシアのロスアトム社の技術も参考にする。17年にも実証炉を建設し、20年に発電を開始する予定という。(Web原産新聞1月15日記事「中国CGN:2017年に海上浮揚式原子力発電所の実証プロジェクトを開始へ」、「CNNC to construct prototype floating plant」、「CGN to build floating reactor」)
(写真2)移動式原子力発電所のイメージ(CNNC)
船や隔離された場所の動力源として、小型原子炉を使うことは各国が試みてきた。日本でも失敗したプロジェクト原子力船むつの例がある。また米国、ソ連が潜水艦向け原子炉を北極や南極の基地で使うことを検討し、各国の懸念で取りやめたことが1960年代にある。採算性、安全性の面から、移動式原発は、軍事利用以外は開発が進まなかった。
しかし私はこの情報を知った時に、中国は南シナ海で使うのではないかと予想した。同国は海軍主導で「侵略」と呼べる行為をこの海域で行っている。その行動は国によるものであり、採算性は必要ない。そして、その予想は専門家に共通したものになった。米CNNが今年4月に見通しとして、中国が南シナ海の軍事基地で、20基の移動式原発を運用する可能性を指摘している。(「海に浮かぶ原発、中国が20基の建設を計画」)
原子力は発電と軍事利用という二面性を持つ。中国政府が海上発電の平和利用の名目で原子炉を設置し、したたかにそれを軍事目的に転用するのは、もちろん現時点では明示していないものの、十分にあり得る予想だ。
軍事基地に巨大電源は不可欠
南シナ海の地図を見てみよう。中国は航空基地を、海域全域を覆うように複数建設中だ。こられが軍事基地化すれば、この地域の海面全体が支配できるだろう。その場合、さまざまな利益が中国のものになる。
海南島にある原潜基地から南シナ海の海底に戦略原潜を展開すれば、核兵器で太平洋全域を攻撃できる。陸上よりも海上からの核攻撃は探知しづらい。原子力は発電と軍事利用という二面性を持つ。中国政府が海上発電の平和利用の名目で原子炉を設置し、したたかにそれを軍事目的に転用するのは、もちろん現時点では明示していないものの、十分にあり得る予想だ。(ワシントンポスト解説記事15年5月「How the South China Sea could help Beijing level the nuclear playing field」)
さらに中国と敵対関係に陥るかもしれない日本、台湾、韓国の海上交通線がこの海域を通る。これらの国との紛争が始まれば、正面からの武力攻撃ではなく、弱い海上交通線に攻撃を加えて屈服させることができる。これらの国は無資源で経済が貿易に依存している。武力行使をしなくても、威嚇するだけで商船はここを通れなくなり、これらの国は干上がるだろう。
そして無資源国日本は今、原発が停止している。15年は発電で、LNG(液化天然ガス)の割合が46%、31%が石炭、10%が石油で、発電の約9割を海外からの化石燃料に依存している。LNGは長期保存できないため、毎日5隻前後のLNGタンカーが日本に入港し、LNGを供給している状況だ。常時、この海域をLNGと石油のタンカーが通航している。原発の停止によって、日本の脆弱性はエネルギー面でも高まり、中国を利しているのだ。
中国海軍が主導している一連の侵略行為は、領土獲得や国威発揚だけではない複数の意図を込めているのだろう。こうした動きを原子力発電のつくる膨大なエネルギーは支えるはずだ。軍事基地を整備し、レーダーなどの電子機器を設置、防衛するミサイル、航空機、地上部隊が展開すれば、その駐屯と作戦行動のために大量の電力が必要になる。(元自衛官の小原凡司氏、ウェッジ4月22日「中国が南シナ海に原発を建設する意味」)
そして原子炉内には放射性物質がある。これは攻撃を抑制する一種の兵器になる。中国の政治・軍事指導者がそこまで狂うとは思えないが、中国自ら海上移動の原子炉を破壊して「ダーティーボム」(汚れた爆弾)として、海域全体を核物質で使用不可能にする可能性さえある。さまざまな懸念をもたらし、攻撃相手国の行動を攪乱し、攻撃をためらわせるのが「核」なのだ。
さらに新しい原子力技術の安全性がどのように確保されるのかも懸念される。南シナ海の軍事施設でこれらが利用される場合は、中国は国際的な監視を拒絶するだろう。
残された時間は少ない
各国はどうすればいいのか。核兵器の国外配備の場合は、ソ連のミサイル配備を米国が阻止したキューバ危機(1962年)のように、国際的非難が集まる。しかし原子炉建設に、国際的な批判は少ないだろう。
原子炉が稼動してからでは遅い。イスラエルは1981年に核武装を進めるイラクのオシラク原発を原子力燃料の装填直前に空爆で破壊した。装填後の破壊は核物質による周辺地域への汚染を引き起こしかねなかったためという。中国は来年17年に海上原発の実証炉をつくるが、それを考えると阻止までの時間はあまりない。まだ具体化していない今のうちに、海上原子炉の南シナ海での軍事転用の可能性を国際的に周知させると共に、それを行わないように中国政府に米国、ASEANと協力して多国間で圧力をかけなければならない。
海上原発が南シナ海で上記の想定のような形で使われるようになったら、日本の海上交通線の危険は今まで以上に高まる。いつでも中国海軍によって切断される状況になる。日本の安全保障問題では、憲法との整合性などの空論を議論している場合ではない。今そこにある危機を直視し、対策を打たなければなければならない。それなのに国会議員もメディアも識者もこうした現実を知らない、もしくは見て見ぬふりをしているのは恐ろしいことだ。
太平洋戦争で、1945年1月に南シナ海の海上交通線を米軍に切断された大日本帝国は、その年の8月に連合軍に降伏した。
(2016年5月9日掲載)
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