なぜ政府は6兆円も無駄遣いしてまで原子力発電所を停めるのか
停止施設の維持費は只ではない
普通の人は、施設を動かすのにはお金がかかるが、施設を停めておくのにお金がかかるとは思っていない。ところが、2015年4月にMETIの「総合資源エネルギー調査会発電コスト検証ワーキンググループ(第6回会合) [1]」に資料1として発電コストワーキンググループから出された「長期エネルギー需給見通し小委員会に対する発電コスト等の検証に関する報告(案)」を見ると、興味深いことが書いてある。LNG火力発電を停止させている時に必要なコスト、すなわち固定費が1.6円/kWhなのに対して、原子力発電を停止させている時に必要なコスト、固定費は7円/kWhなのである。LNG火力発電の4.4倍もあるのである。
電力会社別の停止中原子力発電所の維持費
この資料を使って各電力会社の固定費負担額を見てみよう。すなわち、各電力会社が原子力発電所を停止させるのに、どれほどの金額を負担しているのかを調べて見る。もちろん、図1の数字はMETIの委員会が弾いた平均的な原子力発電所の数値なので、各電力会社の実際の費用ではない。しかし、国の委員会で弾いた数値なので、平均的には実態に近いものと推察される。昨年末公表された原子力発電所を保有する電力会社10社の2016年度売上高予想額(関電は未公表のため、2016年末の決算額を4/3倍した。)合計は17兆8347億円である。現在(2017.2.22)原子力規制委員会から設置許可を得ている原子力発電所3社12基は全て加圧水型炉(PWR)で出力合計は925万kWである。一方、停止中の原子力発電所は、沸騰水型炉(BWR)が6社計2,332万kW、加圧水型炉(PWR)は5社計1,128万kWである。
停止中のPWRとBWRの出力を合わせると、3,295万kWである。これに設置許可を得ながら再稼働していない原子力発電所3社8基の747万kWを加え、上述した7円/kWhを乗じると、年間約2兆8千億円となる。すなわち、電力会社の2016年の総売上額17兆8347億円の約16%もの金額、2兆8千億円もの金額が停止中の原子力発電所の固定費として費やされているのだ [i]。裏を返せば、電力会社の原価の約16%もの費用が停止中の原子力発電所の固定費として費やされているのである。
代替発電原価は火力発電の燃料費だけでなく原子力発電所の維持費も加算すべし
代替発電の原価として経済産業省資源エネルギー庁が示している[2]資料によると、停止している原子力発電所に代って発電している火力発電所の燃料費は年間3.7兆円にも上るという。これに上記した停止中の原子力発電所の固定費、2兆8千億円を加えると約6兆5千億円となる。つまり、原子力発電所を停止させるために浪費している金額は6兆5千億円なのである。現在、消費税による収入が約17兆円と言われている。消費税は8%であるから、17兆円÷8%=2.1兆円/%である。すなわち、消費税1%で税収増は2.1兆円なのだ。6兆5千億円は3%の消費税増税に相当する。しかも既に増税済みの金額なのである。
――
[2] 「よくある質問と回答」,経済産業省,2014年,
http://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/energy_policy/energy2014/qa.html
[i] 北海道電力の28年度第3四半期決算,2017.1.31,
http://www.hepco.co.jp/corporate/ir/financials/pdf/info_20170131.pdf
東北電力の28年度第3四半期決算,2017.1.31,
https://www.tohoku-epco.co.jp/news/normal/1193723_1049.html
東京電力の28年度第3四半期決算,2017.1.31,
http://www.tepco.co.jp/about/ir/library/results/pdf/1703q3gaiyou-j.pdf
中部電力の28年度第3四半期決算,2017.1.31,
http://www.chuden.co.jp/corporate/ir/ir_kaiji/index.html?cid=ul_me
北陸電力の28年度第3四半期決算,2017.1.30,
http://www.rikuden.co.jp/library/attach/20170130tanshin.pdf
関西電力の28年度第3四半期決算,2017.1.31,
http://www.kepco.co.jp/ir/brief/earnings/h29/pdf/pdf29_4_01.pdf
中国電力の28年度第3四半期決算,2017.1.31,
http://www.energia.co.jp/ir/pdf/kessan/h29-3renketu.pdf
四国電力の28年度第3四半期決算,2017.1.30,
http://www.yonden.co.jp/corporate/ir/library/settle/pdf/fy2017_q3.pdf
九州電力の28年度第3四半期決算,2017.1.30,
http://www.kyuden.co.jp/var/rev0/0063/1238/lyt854jh.pdf
関連記事
-
2017年1月からGEPRはリニューアルし、アゴラをベースに更新します。これまでの科学的な論文だけではなく、一般のみなさんにわかりやすくエネルギー問題を「そもそも」解説するコラムも定期的に載せることにしました。第1回のテ
-
新潟県知事選挙では、原発再稼動が最大の争点になっているが、原発の運転を許可する権限は知事にはない。こういう問題をNIMBY(Not In My Back Yard)と呼ぶ。公共的に必要な施設でも「うちの裏庭にはつくるな」
-
1.メディアの報道特集で完全欠落している「1ミリシーベルトの呪縛」への反省 事故から10年を迎え、メディアでは様々な事故関連特集記事や報道を流している。その中で、様々な反省や将来に語り継ぐべき事柄が語られているが、一つ、
-
今回の大停電では、マスコミの劣化が激しい。ワイドショーは「泊原発で外部電源が喪失した!」と騒いでいるが、これは単なる停電のことだ。泊が運転していれば、もともと外部電源は必要ない。泊は緊急停止すると断定している記事もあるが
-
日本最大級の言論プラットホーム・アゴラが運営するインターネット放送の「言論アリーナ」。6月25日(火曜日)の放送は午後8時から1時間にわたって、「原発はいつ再稼動するのか--精神論抜きの現実的エネルギー論」を放送した。
-
福島第一原発の事故は我国だけでなく世界を震撼させた。電力会社に在籍したものとして、この事故の意味を重く受け止めている。
-
電力・電機メーカーの技術者や研究機関、学者などのOBで構成する日本原子力シニアネットワーク連絡会は3日、「原子力は信頼を回復できるか?」をテーマとしたシンポジウムを都内で開いた。ここでJR東海の葛西敬之会長が基調講演を行い、電力会社の経営状態への懸念を示した上で、「原発再稼動が必要」との考えを述べた。
-
原子力規制委員会は本年(2016年)1月、国際原子力機関(IAEA)の総合的規制評価サービ ス(IRRS)を受けた。IRRSは各国の規制の質の向上を目指してIAEAがサービスとして実施しているもので、2006年から15年までに延べ70回実施されている。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間