なぜ政府は6兆円も無駄遣いしてまで原子力発電所を停めるのか

2017年02月21日 18:15
アバター画像
NPO法人パブリック・アウトリーチ・上席研究員 元東京大学特任教授

停止施設の維持費は只ではない

普通の人は、施設を動かすのにはお金がかかるが、施設を停めておくのにお金がかかるとは思っていない。ところが、2015年4月にMETIの「総合資源エネルギー調査会発電コスト検証ワーキンググループ(第6回会合) [1]」に資料1として発電コストワーキンググループから出された「長期エネルギー需給見通し小委員会に対する発電コスト等の検証に関する報告(案)」を見ると、興味深いことが書いてある。LNG火力発電を停止させている時に必要なコスト、すなわち固定費が1.6円/kWhなのに対して、原子力発電を停止させている時に必要なコスト、固定費は7円/kWhなのである。LNG火力発電の4.4倍もあるのである。

[1] 「長期エネルギー需給見通し小委員会に対する発電コスト等の検証に関する報告(案)」,総合資源エネルギー調査会発電コスト検証ワーキンググループ(第6回会合)資料1, 発電コストワーキンググループ,2015.4

[1] 「長期エネルギー需給見通し小委員会に対する発電コスト等の検証に関する報告(案)」,総合資源エネルギー調査会発電コスト検証ワーキンググループ(第6回会合)資料1, 発電コストワーキンググループ,2015.4

電力会社別の停止中原子力発電所の維持費

この資料を使って各電力会社の固定費負担額を見てみよう。すなわち、各電力会社が原子力発電所を停止させるのに、どれほどの金額を負担しているのかを調べて見る。もちろん、図1の数字はMETIの委員会が弾いた平均的な原子力発電所の数値なので、各電力会社の実際の費用ではない。しかし、国の委員会で弾いた数値なので、平均的には実態に近いものと推察される。昨年末公表された原子力発電所を保有する電力会社10社の2016年度売上高予想額(関電は未公表のため、2016年末の決算額を4/3倍した。)合計は17兆8347億円である。現在(2017.2.22)原子力規制委員会から設置許可を得ている原子力発電所3社12基は全て加圧水型炉(PWR)で出力合計は925万kWである。一方、停止中の原子力発電所は、沸騰水型炉(BWR)が6社計2,332万kW、加圧水型炉(PWR)は5社計1,128万kWである。

停止中のPWRとBWRの出力を合わせると、3,295万kWである。これに設置許可を得ながら再稼働していない原子力発電所3社8基の747万kWを加え、上述した7円/kWhを乗じると、年間約2兆8千億円となる。すなわち、電力会社の2016年の総売上額17兆8347億円の約16%もの金額、2兆8千億円もの金額が停止中の原子力発電所の固定費として費やされているのだ [i]。裏を返せば、電力会社の原価の約16%もの費用が停止中の原子力発電所の固定費として費やされているのである。

代替発電原価は火力発電の燃料費だけでなく原子力発電所の維持費も加算すべし

代替発電の原価として経済産業省資源エネルギー庁が示している[2]資料によると、停止している原子力発電所に代って発電している火力発電所の燃料費は年間3.7兆円にも上るという。これに上記した停止中の原子力発電所の固定費、2兆8千億円を加えると約6兆5千億円となる。つまり、原子力発電所を停止させるために浪費している金額は6兆5千億円なのである。現在、消費税による収入が約17兆円と言われている。消費税は8%であるから、17兆円÷8%=2.1兆円/%である。すなわち、消費税1%で税収増は2.1兆円なのだ。6兆5千億円は3%の消費税増税に相当する。しかも既に増税済みの金額なのである。

――

[2] 「よくある質問と回答」,経済産業省,2014年,
http://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/energy_policy/energy2014/qa.html

[i]  北海道電力の28年度第3四半期決算,2017.1.31,
http://www.hepco.co.jp/corporate/ir/financials/pdf/info_20170131.pdf

東北電力の28年度第3四半期決算,2017.1.31,
https://www.tohoku-epco.co.jp/news/normal/1193723_1049.html

東京電力の28年度第3四半期決算,2017.1.31,
http://www.tepco.co.jp/about/ir/library/results/pdf/1703q3gaiyou-j.pdf

中部電力の28年度第3四半期決算,2017.1.31,
http://www.chuden.co.jp/corporate/ir/ir_kaiji/index.html?cid=ul_me

北陸電力の28年度第3四半期決算,2017.1.30,
http://www.rikuden.co.jp/library/attach/20170130tanshin.pdf

関西電力の28年度第3四半期決算,2017.1.31,
http://www.kepco.co.jp/ir/brief/earnings/h29/pdf/pdf29_4_01.pdf

中国電力の28年度第3四半期決算,2017.1.31,
http://www.energia.co.jp/ir/pdf/kessan/h29-3renketu.pdf

四国電力の28年度第3四半期決算,2017.1.30,
http://www.yonden.co.jp/corporate/ir/library/settle/pdf/fy2017_q3.pdf

九州電力の28年度第3四半期決算,2017.1.30,
http://www.kyuden.co.jp/var/rev0/0063/1238/lyt854jh.pdf

This page as PDF
アバター画像
NPO法人パブリック・アウトリーチ・上席研究員 元東京大学特任教授

関連記事

  • なぜか今ごろ「東電がメルトダウンを隠蔽した」とか「民主党政権が隠蔽させた」とかいう話が出ているが、この手の話は根本的な誤解にもとづいている。
  • GEPRフェロー 諸葛宗男 今、本州最北端の青森県六ケ所村に分離プルトニウム[注1] が3.6トン貯蔵されている。日本全体の約3分の1だ。再処理工場が稼働すれば分離プルトニウムが毎年約8トン生産される。それらは一体どのよ
  • スワッ!事故か!? 昨日1月30日午後、関西電力の高浜原子力発電所4号機で原子炉が自動停止したと報道された。 関西電力 高浜原発4号機が自動停止 原因を調査 「原子炉内の核分裂の状態を示す中性子の量が急激に減少したという
  • 近代生物学の知見と矛盾するこの基準は、生物学的損傷は蓄積し、修正も保護もされず、どのような量、それが少量であっても放射線被曝は危険である、と仮定する。この考えは冷戦時代からの核による大虐殺の脅威という政治的緊急事態に対応したもので、懐柔政策の一つであって一般市民を安心させるための、科学的に論証可能ないかなる危険とも無関係なものである。国家の安全基準は国際委員会の勧告とその他の更なる審議に基づいている。これらの安全基準の有害な影響は、主にチェルノブイリと福島のいくつかの例で明らかである。
  • 翻って、話を原子力平和利用に限ってみれば、当面の韓米の再処理問題の帰趨が日本の原子力政策、とりわけ核燃料サイクル政策にどのような影響を及ぼすだろうか。逆に、日本の核燃料サイクル政策の変化が韓国の再処理問題にどう影響するか。日本ではこのような視点で考える人はあまりいないようだが、実は、この問題はかなり微妙な問題である。
  • 原子力規制委員会、その下部機関である原子力規制庁による活断層審査の混乱が2年半続いている。日本原電の敦賀原発では原子炉の下に活断層がある可能性を主張する規制委に、同社が反論して結論が出ない。東北電力東通原発でも同じことが起こっている。調べるほどこの騒動は「ばかばかしい」。これによって原子炉の安全が向上しているとは思えないし、無駄な損害を電力会社と国民に与えている。
  • 改正された原子炉等規制法では、既存の原発に新基準を適用する「バックフィット」が導入されたが、これは憲法の禁じる法の遡及適用になる可能性があり、運用には慎重な配慮が必要である。ところが原子力規制委員会は「田中私案」と称するメモで、すべての原発に一律にバックフィットを強制したため、全国の原発が長期にわたって停止されている。法的には、安全基準への適合は運転再開の条件ではないので、これは違法な行政指導である。混乱を避けるためには田中私案を撤回し、新たに法令にもとづいて規制手順を決める必要がある。
  • 広島高裁は、四国電力の伊方原発3号機の再稼動差し止めを命じる仮処分決定を出した。これは2015年11月8日「池田信夫blog」の記事の再掲。 いま再稼動が話題になっている伊方原発は、私がNHKに入った初任地の愛媛県にあり

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑