IPCC報告の論点⑪:モデルは北極も南極も熱すぎる
IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。

oonal/iStock
以前、「IPCC報告の論点③:熱すぎるモデル予測はゴミ箱行きに」を書いた。今回はその続報。
まず過去の地表2mの気温の分布が再現できているか見てみよう(IPCC報告のFigure 3.3)。使用されたモデルはCMIP6と呼ばれる第6世代のモデルである。
a)は複数のモデル計算の結果。b)は観測値との差。c)はモデル計算と観測値の差の大きさの平均である。期間は1995年から2014年の20年間。
IPCC報告は、「モデルは現実をよく再現している」、と自信たっぷりである。だがc)を見ると北極、南極、ヒマラヤのあたりは5℃ぐらい違う。その他のところでも、2℃ぐらい違うのはザラだ。日本も2℃ぐらいは違うようだ。
地球温暖化したといっても、江戸時代から比べて1℃ぐらいという僅かなものだ。過去の再現ですらこんなに誤差が大きいのに、あと0.5℃や1℃の気温上昇やそれによる気候の変動の予測なんて、本当に当たるのか、疑問に思う。すくなくとも、どのような予測結果を見る場合でも、「そのモデルはどのぐらい過去を再現できているのか」、1つ1つよく確認する必要がある。
なお以上は世界のあらゆるグループのモデルの平均についてのものだ。1つ1つのモデルの結果を見れば、当たっているところもあるかもしれないが、もっと大きく外れているところもあるだろう。
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1つの報告書が出たということは、議論の終わりではなく、始まりに過ぎない。次回以降も、あれこれ論点を取り上げてゆこう。
次回:「IPCC報告の論点⑫」に続く
【関連記事】
・IPCC報告の論点①:不吉な被害予測はゴミ箱行きに
・IPCC報告の論点②:太陽活動の変化は無視できない
・IPCC報告の論点③:熱すぎるモデル予測はゴミ箱行きに
・IPCC報告の論点④:海はモデル計算以上にCO2を吸収する
・IPCC報告の論点⑤:山火事で昔は寒かったのではないか
・IPCC報告の論点⑥:温暖化で大雨は激甚化していない
・IPCC報告の論点⑦:大雨は過去の再現も出来ていない
・IPCC報告の論点⑧:大雨の増減は場所によりけり
・IPCC報告の論点⑨:公害対策で日射が増えて雨も増えた
・IPCC報告の論点⑩:猛暑増大以上に酷寒減少という朗報
・IPCC報告の論点⑪:モデルは北極も南極も熱すぎる
・IPCC報告の論点⑫:モデルは大気の気温が熱すぎる
・IPCC報告の論点⑬:モデルはアフリカの旱魃を再現できない
・IPCC報告の論点⑭:モデルはエルニーニョが長すぎる
・IPCC報告の論点⑮:100年規模の気候変動を再現できない
・IPCC報告の論点⑯:京都の桜が早く咲く理由は何か
・IPCC報告の論点⑰:脱炭素で海面上昇はあまり減らない
・IPCC報告の論点⑱:気温は本当に上がるのだろうか
・IPCC報告の論点⑲:僅かに気温が上がって問題があるか?
・IPCC報告の論点⑳:人類は滅びず温暖化で寿命が伸びた
・IPCC報告の論点㉑:書きぶりは怖ろしげだが実態は違う
・IPCC報告の論点㉒:ハリケーンが温暖化で激甚化はウソ
・IPCC報告の論点㉓: ホッケースティックはやはり嘘だ
・IPCC報告の論点㉔:地域の気候は大きく変化してきた
・IPCC報告の論点㉕:日本の気候は大きく変化してきた
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