工場が潰れてCO2が激減で東京都は喜んでいる場合か

2022年05月18日 07:00
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

blew_i/iStock

東京都の「2030年カーボンハーフ」の資料を見て愕然としたことがある。

工場のエネルギー消費が激減している。そして、都はこれを更に激減させようとしている。

該当する部分は、下図の「産業部門」。CO2排出量は、2000年に679万トンだったのが43.9%も減って2019年には381万トンとなり、今後、2030にはこれを更に41.8%も減らして222万トンとすることになっている。エネルギー消費量も、同様に激減してきたし、今後も激減を続けることとなっている:

東京都の資料は、この激減の理由を分析していないが、このような激減が省エネや燃料転換のようないわゆる温暖化対策だけで起きたとは考えにくい。

じつは、工場が壊滅的に減っている。

東京にも工場は沢山ある。23区の中では大田区が有名だ。西部の多摩地区にも多くの工場がある。だが、次々に無くなっている。地元の方はまさにこれをよく実感しているだろう。統計的にも、東京都の資料(東京都産業労働局「東京の中小企業の現状」)で確認できる:

これだけ工場が激減し、雇用も減っていれば、CO2が減るのも何ら不思議はない。

東京都は、CO2が減った理由が何だったのか、要因分解をすべきだ。

そして、CO2を2030年に向けて更に激減させるということの意味をよく考えるべきだ。大田区から、多摩地区から、更に工場が減り、雇用が無くなることを、東京都は促進したいのだろうか?

以上では東京都について書いてきたが、じつは東京都はまだよい。本社機能が集中し、サービス産業も発達していて、財政は豊かだからだ。

東京都以外では、問題は遥かに深刻だ。工場に依存した経済になっている自治体は多い。工場が無くなれば、経済が崩壊するだろう。そのような自治体まで、日本全国津々浦々で「カーボンニュートラル」を宣言しているが(下図。都道府県で宣言していないのは、千葉、埼玉、愛知、石川、山口のみ)、ほんとうに工場が無くなってもよいのか?:

ところで日本政府「クリーンエネルギー戦略」では、蓄電池製造、半導体製造、データセンター整備など、国内への産業誘致をすべく官民で投資することになっている:

だが投資をするということは、工場を建てるということだ。

工場を建てればもちろん建設中も操業中もCO2が出るが、それは構わないのだろうか? カーボンニュートラルを目指して日本中の自治体で工場が破滅的に減るという予想の中で、それに逆らって工場を建てるのだろうか? いったいどこの自治体に?

このように、CO2を極端に減らす「カーボンニュートラル」という環境目標は、工場を守り、建て、雇用を続けるというごく普通の経済政策と、大きく矛盾する。

仮にエネルギーがCO2ぜロで全て供給されるなら話は別だ。だが現在の技術では、石油・ガス・石炭などの化石燃料を全く使わない工場というものは、大半の場合、絶望的に採算が合わない。

自治体は、カーボンニュートラルという宣言について、その位置づけをよく考えなおしたほうがよい。今更取り下げるのが難しければ、あらまほしき努力目標というぐらいの位置づけにして、具体的な計画や政策については、もっと現実的になり、工場と雇用を守るべきだ。

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • 11月23日、英国財務省は2017年秋期予算を発表したが、その中で再エネ、太陽光、原子力等の非化石予算を支援するために消費者、産業界が負担しているコストは年間90億ポンド(約1.36兆円)に拡大することが予想され、消費者
  • 国際エネルギー機関の報告書「2050年実質ゼロ」が、世界的に大きく報道されている。 この報告書は11 月に英国グラスゴーで開催される国連気候会議(COP26 )に向けての段階的な戦略の一部になっている。 IEAの意図は今
  • 7月25日付けのGPERに池田信夫所長の「地球温暖化を止めることができるのか」という論考が掲載されたが、筆者も多くの点で同感である。 今年の夏は実に暑い。「この猛暑は地球温暖化が原因だ。温暖化対策は待ったなしだ」という論
  • (前回:米国の気候作業部会報告を読む⑥:気候モデルは過去の再現も出来ない) 気候危機説を否定する内容の科学的知見をまとめた気候作業部会(Climate Working Group, CWG)報告書が2025年7月23日に
  • 以前アゴラに寄稿した件を、上田令子議員が東京都議議会で一般質問してくれた(ノーカット動画はこちら)。 上田議員:来年度予算として2000億円もかけて、何トンCO2が減るのか、それで何度気温が下がるのか。なおIPCCによれ
  • 【要旨】日本で7月から始まる再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)の太陽光発電の買取価格の1kWh=42円は国際価格に比べて割高で、バブルを誘発する可能性がある。安価な中国製品が流入して産業振興にも役立たず、制度そのものが疑問。実施する場合でも、1・内外価格差を是正する買取価格まで頻繁な切り下げの実施、2・太陽光パネル価格と発電の価格データの蓄積、3・費用負担見直しの透明性向上という制度上の工夫でバブルを避ける必要がある。
  • 既にお知らせした「非政府エネルギー基本計画」の11項目の提言について、3回にわたって掲載する。今回は第2回目。 (前回:非政府エネ基本計画①:電気代は14円、原子力は5割に) なお報告書の正式名称は「エネルギードミナンス
  • 石炭火力発電はCO2排出量が多いとしてバッシングを受けている。日本の海外での石炭火力事業もその標的にされている。 だが日本が撤退すると何が起きるのだろうか。 2013年以来、中国は一帯一路構想の下、海外において2680万

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑