「セイウチが気候変動で死亡」は捏造

2022年05月04日 07:00
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

Wayne Marinovich/iStock

今回は英国シンクタンクGWPFの記事動画からの紹介。

2019年、Netflixのドキュメンタリー番組「Our Planet」の一場面で、数匹のセイウチが高い崖から転落して死亡するというショッキングな映像が映し出された。

有名なナレーターのデヴィッド・アッテンボロー卿は、この悲劇を気候変動のせいにし、気候変動による夏の海氷不足が、セイウチが転落死した原因であると説明した。

しかしその数ヵ月後、同じセイウチの映像を使ったアッテンボローのBBCシリーズ「Seven Worlds, One Planet」では、まさに同じ崖からセイウチを追い落とすシロクマが何頭も登場している。

これは、『Our Planet』でのセイウチの死因の説明が、気候変動運動のために捏造されたものであったことを示す決定的な証拠となった。

ロシアの写真家エフゲニー・バソフが撮影した別のビデオ映像でも、シロクマがセイウチを崖に追いやったことははっきりしている。

セイウチが夏に陸に上がるのは、海氷があるときでも起きる自然な現象だ。

シロクマはこの群れを追いまわす。崖に追い詰めてセイウチを転落死させることは、シロクマの狩猟の一つの方法だ。

Netflixのドキュメンタリー番組「Our Planet」でアッテンボローが宣伝した「気候変動でセイウチが死んでいる」という物語は、現実とは全く関係の無い捏造だった。

このことを指摘したのは、動物学者のスーザン・クロックフォード。著書”Fallen Icon(堕ちた偶像)”において、アッテンボローが、Netflixやスポンサーの環境NGOであるWWF等と共謀し、全くの嘘だと知りつつ、セイウチが気候変動で死んだという物語を捏造したことを詳しく暴いている。

クロックフォードの著書には、さらに、この捏造の罪が縷々書いてある。

デイビッド・アッテンボロー卿
Wikipediaより(編集部)

動画を視て頂くと分かるが、このアッテンボローはナレーションが上手で、ものすごくもっともらしく聞こえる。英国のアンケートでは、グレータ・エルンマン・トゥーンベリ以上に、気候変動について最も影響力のある人物とされている。

アッテンボローは、ショッキングなセイウチの死の映像を見せつつ、人々に訴えかけることで、「気候危機」意識を広めていった。

対象は一般の人々だけではない。グラスゴーの国連気候会議COP26で講演したり、世界経済フォーラムWEFでビデオ上映をしたりして、世界の気候変動政治にも大きな影響を与えてきた。

だが、その主張する内容は、科学とは無縁の、完全な捏造だった。クロックフォードは真実を追及する、一人の科学者として、アッテンボローおよび関係者を糾弾している。

 

 

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • 私はNHKに偏見をもっていないつもりだが、けさ放送の「あさイチ」、「知りたい!ニッポンの原発」は、原発再稼動というセンシティブな問題について、明らかにバランスを欠いた番組だった。スタジオの7人の中で再稼動に賛成したのは、
  • 原子力問題のアキレス腱は、バックエンド(使用済核燃料への対応)にあると言われて久しい。実際、高レベル放射性廃棄物の最終処分地は決まっておらず、高速増殖炉原型炉「もんじゅ」はトラブル続きであり、六ヶ所再処理工場もガラス固化体製造工程の不具合等によって竣工が延期に延期を重ねてきている。
  • 麻生副総裁の「温暖化でコメはうまくなった」という発言が波紋を呼び、岸田首相は陳謝したが、陳謝する必要はない。「農家のおかげですか。農協の力ですか。違います」というのはおかしいが、地球温暖化にはメリットもあるという趣旨は正
  • 全原発を止めて電力料金の高騰を招いた田中私案 電力料金は高騰し続けている。その一方でかつて9電力と言われた大手電力会社は軒並み大赤字である。 わが国のエネルギー安定供給の要は原子力発電所であることは、大規模停電と常に隣り
  • 菅首相の所信表明演説の目玉は「2050年までに温室効果ガス排出ゼロ」という目標を宣言したことだろう。これは正確にはカーボンニュートラル、つまり排出されるCO2と森林などに吸収される量の合計をゼロにすることだが、今まで日本
  • 厄介な気候変動の問題 かつてアーリは「気候変動」について次の4点を総括したことがある(アーリ、2016=2019:201-202)。 気候変動は、複数の未来を予測し、それによって悲惨な結末を回避するための介入を可能にする
  • 今、世の中で流行っているSDGs(Sustainable Development Goals)を推進する一環として、教育の面からこれをサポートするESD(Education for Sustainable Develop
  • 先進国の「脱炭素」押し付けでアフリカの経済成長の機会を奪ってはならない。 ナイジェリア大統領のムハンマド・ブハリがニューズウィークに書いている。 例によって日本のメディアは無視を決め込んでいるので、抄訳して紹介しよう。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑