最終処分場の問題はビジネスライクに考えよう
今月の14日から15日にかけて、青森県六ヶ所村の再処理施設などを見学し、関係者の話を聞いた。大筋は今までと同じで、GEPRで元NUMO(原子力発電環境整備機構)の河田東海夫氏も書いているように
- 高速増殖炉の実用化する見通しはない
- 再処理のコストは直接処分より約1円/kWh高い
- そのメリットは廃棄物の体積を小さくすることだ
つまり経済的に考えると、今まで再処理工場などに投資された約3兆円を無視すると、核燃料サイクルのキャッシュフローはマイナスだということである。この1円/kWhというコストは計画どおり原発が稼働した場合の話で、原発が減ると単価はもっと高くなる。今はプルトニウムをMOX燃料に加工して消費しているが、この単価は普通のウラン燃料の2倍であり、わざわざ再処理して高価な燃料をつくる意味はない。
ほぼ唯一のメリットは、プルトニウムをガラス固化して体積を減らせば最終処分場の面積が減らせるということだが、これも実際には大したメリットではない。物理的には、最終処分場に適した空き地があるからだ。他ならぬ六ヶ所村である。

むつ小川原は、かつて石油コンビナートを建設するために造成されたが、それが挫折したまま放置され、図のように再処理工場に使われているのはごく一部で、今でも約250km2が空いている。これは大阪市とほぼ同じ面積で、使用ずみ核燃料を300年分以上、収容できる。再処理工場を建設するとき、地盤などの問題はすべてクリアしたので、使用ずみ核燃料を地層処分するには適している。これは関係者もすべて認める事実だ。
ではなぜNUMOの最終処分場選びが難航し、今度は国が直接やることになるなど、この問題が迷走しているのか。それは国と青森県との間で六ヶ所村を最終処分場にしないという確認書を歴代の知事とかわしたからだ。民主党政権でも、2012年8月22日に枝野経産相が三村知事に対して「青森県に最終処分場をお願いすることはない」と確認した。
これには複雑な経緯があり、かつて激しい反対運動に対して「六ヶ所村は工場であって核のゴミ捨て場ではない」といって住民を説得した経緯もあるらしい。この約束には法的拘束力はないが、地元の了解なしに国が方針を変更することはできないだろう。
しかし再処理して核兵器の材料になりうるプルトニウムをわざわざつくるのは、核拡散のリスクもある。今でも日本は45トン(原爆5000発以上)のプルトニウムを保有しているが、2018年には日米原子力協定の期限が切れる。アメリカは、プルトニウムを何に使うのか、追及してくるだろう。どうせ捨てるなら、使用ずみ核燃料のまま六ヶ所村に埋めればいいのだ。
これに対する反論としては、河田氏のように「核燃料のエネルギーの1%しか使わないまま捨てるのはもったいない」という意見があるが、それならむつ市などにある中間貯蔵所を増やし、キャスクに入れたまま半永久的に貯蔵すればいい。遠い将来、プルトニウムを使う技術がもし実用化すれば、また使うことも可能だ。
いずれにせよ「膨大なコストをかけて再処理工場をつくったのだから使わないともったいない」というサンクコストの錯覚を捨てれば、問題は単純である。ただこれまでの経緯もあるので、これは電力会社というより国の判断だろう。必要なら、安倍首相が青森県に出向いて知事を説得してもいいのではないか。
キャッシュフローが数兆円のマイナスになるプロジェクトは、資本主義の社会ではありえない。これは国家事業ではなく、コストは電力会社が(そして最終的には電力利用者が)負担するので、ビジネスライクに考えてはどうだろうか。
(2015年9月28日掲載)
関連記事
-
GEPRとアゴラでは、核燃料サイクル問題について有識者の見解を紹介した。そして「日本の核武装の阻止という意図が核燃料サイクル政策に織り込まれている」という新しい視点からの議論を示した。
-
このような一連の規制が、法律はおろか通達も閣議決定もなしに行なわれてきたことは印象的である。行政手続法では官庁が行政指導を行なう場合にも文書化して根拠法を明示すべきだと規定しているので、これは行政指導ともいえない「個人的お願い」である。逆にいうと、民主党政権がこういう非公式の決定を繰り返したのは、彼らも根拠法がないことを知っていたためだろう。
-
9月13日記事。日本原研の運営する高速増殖炉のもんじゅについて、政府が廃炉を含めた検討に入ったとの報道。菅官房長官はこの報道を否定している。ただ費用について、誰も出せると考えていない。
-
日経新聞1月10日記事。同原発は加圧水型軽水炉(PWR)で、現在稼働中の2基は1974年と76年に運転を開始した。最大出力の合計は200万キロワットで、ニューヨーク市と近郊のウエストチェスター郡で消費される電力の約4分の1に相当する。
-
基数で4割、設備容量で三分の一の「脱原発」 東電は7月31日の取締役会で福島第二原発の全4基の廃炉を正式決定した。福島第一原発事故前、我が国では54基の原発が運転されていたが、事故後8年以上が経過した今なお、再稼働できた
-
デジタルグリッドではインターネットと同じように、ルーターを使って電気の流れを制御することで、電気がどこからきたのかをカラーリングしようとする。しかし、よく考えてみると、厳密なカラーリングはそれほど簡単ではない。
-
日本原子力発電の敦賀原発2号機の下に、原子力規制委員会は「活断層がある」との判断を昨年5月に下した。日本原電は活断層を否定する資料を提出し、反論を重ねた。規制委は今年6月21日に追加調査会合を開いたが、原電の主張を真摯に受け止めず、議論を打ち切ろうとしている。
-
広島高裁は、四国電力の伊方原発3号機の再稼動差し止めを命じる仮処分決定を出した。これは2015年11月8日「池田信夫blog」の記事の再掲。 いま再稼動が話題になっている伊方原発は、私がNHKに入った初任地の愛媛県にあり
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間












