農業改革の可能性【アゴラ農業シンポジウム3】

2017年01月08日 15:33

【出席者】
石破茂(衆議院議員・自民党)
市川まりこ(食のコミュニケーション円卓会議代表)
小野寺靖(農業生産者、北海道)
小島正美(毎日新聞編集委員)
司会:池田信夫(アゴラ研究所所長)

映像
まとめ記事・成長の可能性に満ちる農業【記事1】
要旨1・石破議員講演「農業による日本活性化」【記事2】
この記事は要旨2【記事3】
要旨3・パネルディスカッション下 遺伝子組み換え作物、活用は可能か【記事4】
参考・池田信夫氏解説「石破茂氏の「日本経済の伸びしろ」」

【16年12月20日に行われたシンポジウムの前半要旨】

改革への不利な状況をどうみるか

池田・石破さん、講演ありがとうございました。「正論の政治家」と言われる方ですが、その発言はすべて適切と感銘を受けました。おっしゃる通りと思います。

しかし、その正論の実現にはやや不利な状況になっています。日本の農業が変わるきっかけになるかもしれなかったTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)を、17年1月に就任するトランプ次期米国大統領は、離脱すると明言しています。また自民党は小泉新次郎さんを農業部会長にして、農協改革や輸出促進の取り組み、流通を担った全農廃止を政策にしました。ところが16年7月の参院選では東北などで自民党が1人区で議席を取り損ねたわけです。日本には、前向きのことはできないけど、後ろ向きの妨害ができる人たちはいます。農業の改革でもそんな人たちはいます。

石破・世の中は改革に一方向に動くわけではありません。そしてグローバリズムは、各国内での格差を加速させているように思います。米国大統領選挙でのトランプ氏の勝利、英国のEU離脱の選択、台湾の民進党の勝利も、そうした動きに対する民意の反映でしょう。これは今後に広がる傾向があり、影響を見ていく必要があります。

たしかにTPPの発効は難しい状況になりました。それとは関係なく、日本の農業は体質を変えていかなければなりません。そして自民党が農業改革に動いています。全農・農協の形は、社会政策的部分、産業政策的部分を分け、それを合理的にしていくことが必要です。しかしその改革は、口で言うほど簡単なことではありません。農家は農協の販売網、流通、金融に依存している面が多く、既存の制度の中には当然役立つ面もたくさんあるのです。

池田・それでは、石破さんの議論について、皆さんコメントをいただけませんか。

小島(毎日新聞)・非常に力強い話で感銘を受けました。けれども国会では、石破さんのように、イノベーションに理解がある議員は少ないように思うのです。そうした人を増やすにはどうすればよいでしょうか。

石破・国会議員はさまざまな課題に向き合うので現場の情報を知ることがなかなかできません。情報の入手先は霞ヶ関の官僚、農業の場合は農水省からの情報にどうしても頼ってしまいます。ですから議員に皆さんの方から言っていただくということは、改革を進める中でとても大切なことだと思います。

イノベーションは現場を知る専門家でないと、また他産業との交流で新しい発想を持ち込まないと、なかなか生まれません。例えば、工作機械、農業機具大手のコマツは東京一括採用ではなく、地域で採用をするそうです。地元の人から地域にあった農業の改善案が次々と出るそうです。東京の政治家が、また東京の専門家が農家に何かを教えるなんて上から目線のことをしても、何も生まれませんし、聞いてももらえません。

写真・シンポジウムの様子

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議員や政府に国民が情報を提供する必要

市川(食のコミュニケーション円卓会議)・私は消費者に役立つ農業技術や食の安全を考える団体を主催しています。農業の生産性の向上や特定の機能を持つ食品などにも関心があります。遺伝子組み換え作物の利用もその一つです。その技術を使って、花粉症を治療するおコメの生産に期待をしています。石破先生は、このような遺伝子組換え技術を活用した農作物の可能性についてどのようにお考えでしょうか。

石破・遺伝子組み換え作物については慎重に発言しなければなりません。副大臣、大臣として国会で必ずこの問題を聞かれました。また消費者団体の方も慎重な判断を求める方ばかりでした。そこで政府は、少しでも疑義があるものは入れませんと答弁してきました。またそうしないと国会がもたない現実がありました。もし違えると、「人の生命や健康をないがしろにする」という趣旨の報道や野党の批判があるのです。

消費者運動の方は真摯で、ピュアな方々で頑張っていることは認めます。しかし、もしかしたら、欧米の消費者団体と、日本の消費者運動は違うことがあるのかもしれません。市川さんのように、それを肯定的に受け止める市民団体の方は初めてお会いしました。農業問題で、結論が決まっているような議論は何かおかしいのではないかなと、思うのです。

これは気をつけてものを言わなければいけない問題です。原発の問題にも似た状況があるようです。原発の場合は、かつて安全神話があって、それが福島原発事故で崩れてしまった。すると信頼が崩壊し、規制が大変な厳格な状況になってしまう。それがおかしいとか、悪いこととは思いませんが、国際的な基準からすると過剰な安全対策が取られているという批判があります。

さらに、国民の皆さんからすると、政治家は大資本のために政治をやるのかとみられます。こうした問題で、政治家は主張することをためらいがちです。

市川さんの主張のように、消費者の嗜好にあい、健康に効果があり、安全性の問題がない商品が出れば、議論が進んでいくと思います。また、社会で意見の異なる問題が冷静に議論できる状況になればいいと思います。

小野寺(農業生産者)・私は北海道で農業をしています。技術革新という問題に、石破先生が感心を持っていることに感銘を受けました。生産者の立場からすると、新しい技術を現場で使いたいのです。大きな問題は草取りです。農業では草を取ることが大変です。暑い夏、腰を曲げる。これは20年前までは女性の仕事でした。また数日の仕事を、御願いできました。今はそれを引き受ける人はいません。こうしたことを解決するため、遺伝子組み換え作物を使って、特定の農薬を浴びても枯れないようにして、雑草だけを枯らすとか、そうした作物で特定の害虫を作物につかないようにする方法があるのです。

ところが、それがなかなかできない。法律で禁止されているわけではないのですが、周辺から栽培をするなという圧力があります。北海道は条例でさまざまな規制があり、兼の試験場でも栽培しません。ぜひ政治の力でそういう状況を変えられないでしょうか。

石破・そうした妨害は、それで利益を得る人がいるためでしょう。行政も、議会も、正当性ということを気にします。問題を一部だけ切り取って聞くと大変なことになりかねないが、全体に正当性があるということは多くあります。

対立することに、行政も政治家も入りたがらない傾向があります。反対する人との調整をし、さらに自治体、北海道、国会で問題にしていくことが必要ですし、そうした運動は主権者の権利だと思います。

ローマ法王にコメを食べてもらった石川県の高野誠鮮さんという、石川県羽咋(はくい)市役所職員で僧侶の方がいます。その人の行った農法は、耕作放棄地を使って農薬を抜き、コメを作るというものですが、国や県は専門家が推奨しないと積極的にその農法を進めなかったそうです。ダメだと決め付けるのではなく、可能性を試すことは必要ではないでしょうか。

今回はさまざまな貴重な意見がうかがえました。私も参考にしますし、周囲の同僚議員にも聞いて見ます。ぜひそういう情報を、国政でも、自治体議会レベルでも、議員にお与えいただきたいと思います。

(石破議員ここで退出)

(編集・石井孝明 ジャーナリスト GEPR編集者)

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