何が環境に良いかは左翼内の闘争で決るので予測不可能
何が環境に良いのかはコロコロ変わる。
1995年のIPCC報告はバイオエネルギーをずいぶん持ち上げていて、世界のエネルギーの半分をバイオエネルギーが占めるようになる、と書いていた。その後、世界諸国でバイオ燃料を自動車燃料に混ぜる規制が導入された。

Halfpoint/iStock
だがいまではバイオエネルギー生産のための土地造成で自然が破壊されるなどの理由で、特に植物油燃料に対して反対運動が強くなっている。
ディーゼル車はクリーンだということになっていたが、排気ガス規制において不正が発覚したのを契機に、一気に悪者になった。それでディーゼル車は禁止され(ついでにガソリン車もとばっちりを受けて禁止され)、電気自動車にシフトする動きが欧州から始まった。
太陽光発電は今迄は良い事になっていたが、何時まで持つことやら。メガソーラーともなると景観や自然生態系を破壊し、日本では土砂災害を引き起こしかねないことも問題視されはじめた。
風力発電も、最近は景観・騒音に加えて、野鳥が殺されることもあって、評判が悪くなった。
なぜこんなに毀誉褒貶が激しいかというと、環境運動を推進する先進国のリベラル(=左翼)の中には両極端が混在しているからだ。
一方の極端はエリートによる政治独裁を企てる人々だ。中国共産党だけではなく、先進国の官僚も「社会計画」を作って人民に従わせるのが大好きである。彼らは金融資本主義と結託する。金融独裁は富を独占して人民を経済的に従わせる。政治独裁と金融独裁は相性が良い。このことは掛谷英紀氏の新刊「学者の暴走」で指摘されていた。
もう一方の極端は、今ある自由主義・資本主義による経済社会を憎む人々だ。彼らは飛行機禁止、船禁止、肉食禁止、プラスチック禁止、・・とあらゆる技術を否定にかかる。
彼らは、太陽光発電や風力発電が「おじいさんの粉ひき小屋」のように牧歌的なイメージであったうちは肯定してきたが、スケールが大きくなった上に金融資本主義と結託を始めると、反感を感じるようになった。
この反感はマイケル・ムーアの映画「プラネット・オブ・ヒューマンズ」がよく表現している。この映画の結論は「反経済成長しか環境を守る手は無い」というものだ。(この映画は大きな波紋を呼び1100万回もユーチューブで視聴された。)
つまり左翼といっても、金儲けを信奉する独裁主義者と、反経済成長のアナーキストという両極端がいて、その政治力の関係で何が環境に優しいはくるくると変わるという訳だ。
それはいつもお決まりのサイクルだ。何か新しい技術が出てくると⇒それが小さい内はアナーキストたちが推奨する⇒すると独裁主義者たちが乗り込んで金を儲け始め規模が大きくなる⇒するとトラブルなどをきっかけにアナーキストたちが反対運動を始めて⇒その技術はレッテルを貼られて挫折する。
このため、何が環境に優しいか、その未来を保証された技術などおそらく何処にも一つもない。どれもこれも、10年も経たないうちに風向きが変わることを覚悟しなければならない。
もちろん以上は政治の話であって、科学的にはリスクや便益をきちんと計算すれば合理的な技術選択は出来る筈であり、筆者としてもその為に頑張りたい。
けれども、多くの技術の毀誉褒貶を見るにつけ、今後も技術選択が左翼の内部闘争に振り回され続ける運命にありそうで、暗い気持ちになる。
■
関連記事
-
IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 正直言ってこれまでの報告とあまり変わり映えのしない今回の
-
震災から10ヶ月も経った今も、“放射線パニック“は収まるどころか、深刻さを増しているようである。涙ながらに危険を訴える学者、安全ばかり強調する医師など、専門家の立場も様々である。原発には利権がからむという“常識”もあってか、専門家の意見に対しても、多くの国民が懐疑的になっており、私なども、東電とも政府とも関係がないのに、すっかり、“御用学者”のレッテルを貼られる始末である。しかし、なぜ被ばくの影響について、専門家の意見がこれほど分かれるのであろうか?
-
日本に先行して無謀な脱炭素目標に邁進する英国政府。「2050年にCO2を実質ゼロにする」という脱炭素(英語ではNet Zeroと言われる)の目標を掲げている。 加えて、2035年の目標は1990年比で78%のCO2削減だ
-
シンクタンクのアゴラ研究所(所長・池田信夫、東京都千代田区)の運営するエネルギー調査機関GEPR(グローバルエネルギー・ポリシーリサーチ)は、NPO法人の国際環境経済研究所と3月から提携します。共同の研究と調査、そしてコンテンツの共有を行います。
-
菅首相が昨年末にCO2を2050年までにゼロにすると宣言して以来、日本政府は「脱炭素祭り」を続けている。中心にあるのは「グリーン成長戦略」で、「経済と環境の好循環」によってグリーン成長を実現する、としている。 そして、「
-
ある政府系財団の科学コミュニケーションセンターで、関係者がTwitterで「専門家による意義深い取り組みです」と、学者が科学知識を伝える組織の活動を紹介していた。科学技術と社会の関係は関心のある領域で、私はこうした情報をウォッチしている。しかし、ちょっと腹が立った。そこには「福島」「原発事故」という文字がない。挑発はよくないが、私はその関係者に次の皮肉を送ってしまった。
-
原子力問題のアキレス腱は、バックエンド(使用済核燃料への対応)にあると言われて久しい。実際、高レベル放射性廃棄物の最終処分地は決まっておらず、高速増殖炉原型炉「もんじゅ」はトラブル続きであり、六ヶ所再処理工場もガラス固化体製造工程の不具合等によって竣工が延期に延期を重ねてきている。
-
Climate activist @GretaThunberg addresses crowd at #FridaysForFuture protest during #COP26 pic.twitter.com/2wp
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間













