ドイツの脱炭素は蜃気楼

gremlin/iStock
ドイツの地金
ロシアのウクライナ侵攻で、白日のもとに晒されたことがある。
それは、脱炭素政策に前のめりなドイツが実はロシアの天然ガスにドップリと浸かっているという事実である。ドイツのエネルギー政策の地金が出てきたとでも言えばいいのか。
ノルドストリーム2
ドイツは現在ロシアから年間563億立法メートルの天然ガスを輸入している。そのほとんどがロシアから北海を経由する海底ガスパイプラインであるノルドストリーム1(年間総ガス容量550億立法メートル)によって運ばれている。
ロシアの天然ガス輸出総量の28%がドイツ向けである。そして、この量はドイツ国内の天然ガスの総消費量の約6割に相当する。

出典:日本経済新聞
ドイツはノルドストリーム1に加えて、同じ規模のノルドストリーム2を2018年から敷設開始し2021年9月に完成した。
ノルドストリーム2は天然ガスによるロシアの世界支配において極めて枢要な位置を占める。EU主要国であるドイツのロシアへの依存性を高めるとともに、ドイツは他のEU諸国に対して天然ガス供給のハブになるという経済的のみならず政治的旨味がある。
しかしながら、ドイツのみならず欧州がロシア産天然ガスへの依存を強めるなどの理由で、米国やウクライナそして中東欧特にバルト諸国の反発があって運用は先延ばしされたままだった。さらにここにきてロシアのウクライナ侵攻を受けて、ドイツのオーラフ・ショルツ首相はノルドストリーム2事業の無期限停止を発表した。

ロシアの天然ガスによる世界支配 ©︎原田大輔
週刊エコノミストOnline
ドイツの脱原発、脱褐炭を支える天然ガス
EUタクソノミーで原発と抱き合わせで天然ガスがグリーン裁定されれば、表向きはともかくも内心最もほくそ笑むのはドイツである。
ドイツは、2035年までに全ての褐炭および石炭火力発電所を廃止することを昨年決めた。また、原子力発電所は、残る3基が今年中に閉鎖されることが決まっている。どちらの決定も、ウクライナ侵攻以前、ノルドストリーム2の無期限凍結以前になされている。
2020年のドイツの電源構成は図に示す通りである。

ドイツの電源構成(2020年)
出典:ドレスデン情報ファイル
変動再エネ、つまり風力と太陽光はそれぞれ23.5%、8.9%である。これらはほぼ頭打ち状況で今後の増量は困難である。
その一方で廃止を決めた原子力発電と褐炭・石炭発電は、合計で約25%ある。天然ガスは16%。
この構図が示すのは、脱原発と脱褐石炭でごっそり欠ける穴埋めをノルドストリーム2の天然ガスで補填するという魂胆である・・・。
それは今や蜃気楼となった。

関連記事
-
米国シェールガス革命に対する欧州と日本の反応の違いが興味深い。日本では、米国シェールガス革命によって日本が安価に安定的に燃料を調達できるようになるか否かに人々の関心が集中している。原子力発電所の停止に伴い急増した燃料費負担に苦しむ電力会社が行った値上げ申請に対し、電気料金審査専門委員会では、将来米国から安いシェールガスが調達できることを前提に値上げ幅の抑制を図られたが、事ほど左様に米国のシェールガス革命に期待する向きは大きい。
-
自民党政権になっても、原発・エネルギーをめぐる議論は混乱が残っています。原子力規制委員会が、原発構内の活断層を認定し、原発の稼動の遅れ、廃炉の可能性が出ています。
-
福島第一原子力発電所の災害が起きて、日本は将来の原子力エネルギーの役割について再考を迫られている。ところがなぜか、その近くにある女川(おながわ)原発(宮城県)が深刻な事故を起こさなかったことついては、あまり目が向けられていない。2011年3月11日の地震と津波の際に女川で何が起こらなかったのかは、福島で何が起こったかより以上に、重要だ。
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクGEPRはサイトを行進しました。
-
今度の改造で最大のサプライズは河野太郎外相だろう。世の中では「河野談話」が騒がれているが、あれは外交的には終わった話。きのうの記者会見では、河野氏は「日韓合意に尽きる」と明言している。それより問題は、日米原子力協定だ。彼
-
11月11日~18日にかけてボンのCOP23に行ってきた。パリ協定の詳細ルールは2018年にポーランドのカトヴィツェで開催されるCOP24で合意を目指すことになっている。このため今回のCOPはストックテーキングとの位置づ
-
みなさんこんにちは。消費生活アドバイザーの丸山晴美です。これから、省エネやエコライフなど生活に密着した役立つお話をご紹介できればと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。
-
ポーランドの首都ワルシャワから、雪が降ったばかりの福島に到着したのは、2月2日の夜遅くでした。1年のうち、1月末から2月が、福島においては最も寒い季節だと聞きました。福島よりもさらに寒いワルシャワからやって来た私には、寒さはあまり気にならず、むしろ、福島でお目にかかった皆さんのおもてなしや、誠実な振る舞いに、心が温められるような滞在となりました。いくつかの交流のうち特に印象深かったのが、地元住民との食の安全に関する対話です。それは福島に到着した翌朝、川内村で始まりました。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間